特集1 シニア人材活躍 成功の条件 人生100年時代の学びとキャリア設計
少子高齢化が進み、企業におけるシニア社員の就労が当たり前となってきた。人手不足が深刻化する中で、企業の持続的成長の実現には、シニア世代の活用が大きなカギを握っている。本特集では、シニア人材の活躍には何が必要なのか。企業・個人双方の視点から多様な角度で検証した。
少子高齢化が進む日本
上昇するシニアの就業率
日本の総人口は1億2,380万人(2024年10月1日現在)、そのうち65歳以上人口は3,624万人で、その割合(高齢化率)は29.3%に及ぶ。少子高齢化による人口減少が加速する中、経済社会の活力を維持するため、働く意欲があるシニアがその能力を十分に発揮できるよう、活躍できる環境の整備を目的として「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高齢法)は65歳までの雇用確保措置として、以下のいずれかを企業に義務付けている。
①65歳までの定年の引上げ
②65歳までの継続雇用制度の導入
③定年制の廃止
2021年4月に施行された改正高齢法では、上記の雇用確保措置に加えて、以下のいずれかの70歳までの就業機会を確保する措置を講じることを努力義務としている。
①70歳までの定年の引上げ
②定年制の廃止
③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
こうした法改正の整備などもあり、シニアの就業率は上昇している(図表1)。
注目のジョブ・クラフティング
能力形成に有効な「越境体験」
シニアの就業者数が増え、定年後再雇用や定年延長が一般化してくると職場でも「年下上司×年上部下」が当たり前になってきた。早稲田大学大学院教授の竹内規彦氏は「シニアを『雇用保障・福祉の対象』ではなく、経験知を活かす戦略的資源として活用するには、個人の能力開発(学び直し)だけでなく、仕事の役割と関係性をどう設計するか(ジョブ・デザイン/関係のマネジメント)が重要」だと指摘する。竹内氏には、シニアに期待する役割を明確にし、プロアクティビティ(先回りの自発的行動)を関係づくりで促す方策について寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
シニアの就業が当たり前になってきた中で、企業が抱える悩みの一つがキャリア開発だ。一般社団法人シニアセカンドキャリア推進協会代表理事の髙平ゆかり氏はシニアの意識改革や能力形成を進める上で、有効なのが「越境体験」だと説く。
「副業や越境学習、プロボノなどを通じて、社外での経験を積むことは、本人の成長だけでなく、結果的には企業に新たな視点や知見をもたらします。シニア期に入ってから初めて社外との接点を持つのではなく、現役時代から段階的に視野を広げる支援を行うことが、長期的な人材活用につながります」と話す(➡こちらの記事)。
また、企業によるシニア層への教育訓練について、玉川大学教授の大木栄一氏は「現状では退職準備研修の一部として実施されており、十分に体系化されているとは言えません。課題として多く挙げられるのが、本人が『いまさら』という意識を持ち、学ぶことを敬遠しがちであることです。さらに、能力水準の個人差が大きいことや、集合研修がなじみにくいといった問題もあります」と話す。大木氏には、シニア人材に求められる能力、処遇面や職場環境の整備について、どのような取組みが求められるのかなどを聞いた(➡こちらの記事)。
シニア社員をいかに活性化させるかにおいて注目されているのが「ジョブ・クラフティング」だ。釧路公立大学准教授の岸田泰則氏によると、ジョブ・クラフティングとは、与えられた職務に対し自主的な工夫を凝らし、仕事をより意義のあるものに再構築する取り組みをいう。岸田氏には、ジョブ・クラフティングの実践について、近年の研究知見を踏まえて寄稿いただいた (➡こちらの記事)。
経済社会の活力を維持するため、働く意欲があるシニアがその能力を十分に発揮できるよう、活躍できる環境の整備などが求められている。画像はイメージ。
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即戦力となる
シニア社員採用のポイント
人手不足が深刻する中、即戦力としてシニアを採用する企業も少なくない。シニア専門転職支援サービスを運営する株式会社シニアジョブ代表取締役の中島康恵氏によると、「看護師、保育士、自動車整備士、施工管理技士といった専門職も、シニアを採用してもなお、充足しきっていない」と話す。また、中島氏は「シニア特有の価値を求めて採用を目指す企業も増えている」と指摘する。中島氏にはシニアの採用・活用ポイントについて解説いただいた(➡こちらの記事)。
40~50代になると先が見えてしまうからこそ、次の一手に迷う人も少なくない。「ライフシフトラボ」はミドルシニアに向けて転職・複業・起業を具体的な選択肢として示し、人生後半の活躍を後押ししている。代表取締役の都築辰弥氏に、その考え方と実践知を聞いた(➡こちらの記事)。
長年にわたり高年齢者の雇用問題を研究してきた敬愛大学教授の高木朋代氏。高木氏には、高年齢者の活躍促進に向けて、企業にはどのような人材マネジメントが求められるのか、また、同氏の研究から見えてきた「すりかえ合意」について話を聞いた(➡こちらの記事)。
高齢者の就労や社会参加に関する国際的・学際的な研究に取り組んできた神戸大学大学院教授の片桐恵子氏には、高齢者の就労や社会参加に関する現状の課題や高齢者のウェルビーイングを高めるために、企業や地域において、どのような取組みが求められるのかなどについて話を聞いた(➡こちらの記事)。
「OECD雇用見通し2025」は「高齢化が日本の経済成長に悪影響を及ぼす兆候は、既に現れている」と指摘。「1990年から2022年にかけて、日本の生産年齢人口は年率で0.46%減少しており、それに伴って日本の実質GDP成長率は年率で0.8%とG7諸国の中で2番目に低い成長率だった」と述べている。少子高齢化の加速が予測される中、個人・企業の個々の取組み・実践だけでなく、オールジャパンによるシニア社員活躍に向けた環境整備が期待されている。
