世界の現場で「本物」に触れる教育、10年後の社会を変える人を育む

インフィニティ国際学院のキーワードは「現場から学ぶ」×「生きる力」。決められた教室から離れて、国内外のフィールドで生きた教材から直接学び、自ら考え決定し行動するための力を養う。学院長の大谷真樹氏は青森県知事参与も務め、同県において教育改革の先陣を切ることを目指す。

日本の教育システムに危機感、
自ら理想の学校をつくる

大谷 真樹

大谷 真樹

インフィニティ国際学院 中等部・高等部 学院長
青森県知事参与
1961年、青森市生まれ。学習院大学経済学部を卒業。NEC勤務を経て、株式会社インフォプラント(現:株式会社マクロミル)を創業。2001年に「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・スタートアップ部門優秀賞」を受賞。2008年に八戸大学客員教授、2010年に八戸大学・八戸短期大学総合研究所所長・教授、2011年に八戸大学学長補佐、2012年から2018年3月まで八戸学院大学学長。2019年4月、インフィニティ国際学院を創設し、学院長に就任。2023年7月から青森県知事参与を務める。

── 大谷学院長は八戸学院大学学長を務め、数多くの起業家を輩出するなど実績を残しましたが、学長を退任された後、2019年4月にインフィニティ国際学院を創設しました。なぜ新しい学校を立ち上げられたのですか。

私は長くベンチャー企業の経営者として活動した後、2012年~2018年の6年間、八戸学院大学の学長を務めました。民間出身の学長として大学改革を牽引し、定員割れから学生数がV字回復を果たすなど、経営的にも成果をあげました。

しかし、2期6年の任期を終えて退任したとき、やり残した感がありました。世界から見ると、日本の教育は後れをとっています。日本では150年以上前から教室での一斉授業で学ぶ、均質性を求める教育システムが続いています。しかし、それが現在では機能不全に陥っており、日本から世界を変えるようなイノベーターやチェンジメーカーが生み出されていません。

世界に通用するアントレプレナーシップやリーダーシップを備えた人材を育てるためには、大学からでは遅いというのが、大学改革を経験した私の結論です。自らの手で自分の理想とする教育を実現するために、私はインフィニティ国際学院を創設しました。

インフィニティ国際学院は、世界の現場を舞台にして生きる力を身につけるオルタナティブスクールです。2019年に高等部、2022年に初等部・中等部を開校し、初等部から高等部までの一貫教育を実現しました。

インフィニティ国際学院の学びのフィールドは、世界に広がる。世界各国で様々な活動にチャレンジし、リアルな現場を経験することは、 自らの人生を切り拓く「強原体験」になる。

インフィニティ国際学院は、学校教育法第一条に定められた学校ではありません。高等部は、本校である八洲学園大学国際高校(沖縄)のサポート校という位置づけです。通信制高校である八洲学園大学国際高校のスクーリングや動画授業等を受けることで、高卒資格を得ることができます。

世界の現場で「本物」に触れ、
人生の指針となる原体験を得る

寮での共同生活をとおして、自立心や自己管理能力、協調性や社会性を育む。

── インフィニティ国際学院が提供する教育プログラムの特徴は、どういった点にありますか。

中等部・高等部は全寮制で、中等部は北海道と奄美大島の2ヵ所にキャンパスを構え、自然豊かな町全体を活用して、地域ぐるみでの教育を実現しています。一方、高等部には固定のキャンパスはありません。生徒たちは国内外の様々な地域を移動しながら学び、様々なプロジェクトに挑戦します。

中等部のメイン舞台は北海道と奄美大島。自然豊かな環境を活用し、地域ぐるみでの教育体制を実現したタウンキャンパスとなっている。

インフィニティ国際学院のキーワードは、「現場から学ぶ」×「生きる力」です。決められた教室から離れて、日本と海外、世界各地のフィールドで生きた教材から直接学び、自ら考え決定し行動するための力を養います。

高等部1・2年次は、大きなテーマと行き先は提示しますが、訪れた国や地域で何を探究するのかは生徒の自主性に任せます。決まった教科書やマニュアルがあるわけではなく、予定調和の学びでは終わりません。

また、インフィニティ国際学院には、いわゆる「先生」と呼ばれる人はいません。その代わりに、海外での国際協力や教職経験などを積んだ個性豊かな「チューター」が人生の先輩として一人ひとりをサポートし、現場での学びを深化させます。チューターは正解を教えるのではなく、子どもたちを導く伴走者の役割を担います。

教育活動の一環として、私が生徒たちと一緒にヒマラヤに登るプログラムも実施しています。私自身が若い頃、ヒマラヤを登り世界を放浪して、その時に得た経験が人生の大きな糧になりました。自分一人では行けないヒマラヤにチームで登り、同じ景色を見て、同じご飯を食べて、五感で大自然を感じることは、強烈な原体験となります。

教科の知識や情報は学校やインターネットで学べますが、机上のテキストやオンライン動画では得られない、五感を刺激する体験が現場にはあります。大自然を前にして、人間という存在の小ささを痛感し、地球規模の視点で社会や未来を考えるような価値観は、その場で実体験しないと育まれません。

人の思考は、自分が身を置いている環境に縛られます。日本・世界の現場で「本物」に触れることで、思考や感性が解き放たれます。

旅をしながら世界を知り、自分を知ることは、高等教育へと向かう動機付けとしても重要です。変化する現代社会の中で、自分は何を学び、何を目指すべきか。インフィニティ国際学院は、自らの「動機」を発見するための学校でもあります。

地域での暮らしを通して
社会を生き抜く力を育む

── 中等部では、どのような教育に力を入れていますか。

北海道の上川町と奄美大島の2つのタウンキャンパスにおいて、地域住民や行政、地元企業とも連携しながら教育を展開しています。

生徒たちは地域で暮らしながら学び、多世代と交流し、社会を生き抜く力を身につけていきます。本学院が企画したプログラムだけでなく、生徒が自分で何かを始めたり、地域の人から声がかかって農業を手伝ったり、自然発生的にプロジェクトが生まれる動きも起きています。

また、全寮制で仲間との共同生活から学べることもたくさんあります。協調性や社会性が養われるとともに、掃除・洗濯・時間管理など、身の回りのことは全て自分で行うため、自立心が育まれます。

子どもたちの可能性は無限大です。教室という枠に閉じ込めず、環境を与えれば、子どもたちは自分で考えて動き出します。私たちが大切にしているのは、挑戦する権利と失敗する自由。従来の教育では失敗してはいけないという前提がありましたが、それを取り払うことがアントレプレナーシップの第一歩だと思います。

新しい教育モデルを確立し、
同様の取組みを全国へ

── インフィニティ国際学院について、これまでの成果や手応えをどのように感じていますか。

私たちは海外と日本をつなぎ、10年後の世界を変える人を育てることを目指しています。難関大学に合格することが目的ではなく、生徒たちはそれぞれに自らの人生の針路を見出し、海外の大学に進学した生徒も数多くいますし、吉本総合芸能学院からお笑い芸人になった卒業生もいます。私が仮説として描いていた理想の教育は、間違っていなかったと実感しています。

また、昨今、社会人のリスキリングや学び直しが注目されていますが、私たちは社会人教育部門として「インフィニティアカデミア」を運営しています。最初は保護者向けの教育活動として始まったものですが、年間を通じて様々な学びの場を提供しています。

インフィニティ国際学院は着実に成果をあげていますが、私としては本学院を成功させるのが最終的なゴールではなく、目指しているのは新しい教育のモデルづくりです。

従来の教育では、当たり前のように「教室で学ぶ」ことが行われてきました。しかし学びとは本来、いつでもどこでも時と場所を選ばずに得られるものです。インフィニティ国際学院は教室へのこだわりを捨てることで、より広く深い学びの機会を創出し、世界に飛び出し学び続ける若者を輩出しています。私たちが実験場となって新しいモデルを確立することで、同様の取組みが全国に広がってほしいと考えています。

インフィニティ国際学院の取組みを公教育でそのまま実現するのは難しいと思いますが、エッセンスは活かせます。私たちが実践してきた成果をもとに、公教育の改革にも貢献していきます。

全国の有識者と連携し、
青森県の教育改革を牽引

── 大谷学院長は、2023年7月から青森県知事参与を務められています。

私は知事直轄の「青森県教育改革有識者会議」の議長も務め、教育改革を実践している全国の有識者とも連携しながら、今年1月に大胆な提言をまとめました。提言では教育改革の柱として「学校の働き方改革、教職員のWell Being向上」「教育DX、学びの環境アップデート」「学校の経営力強化」の3つを打ち出しました。

従来の延長線上で教育を考えても、未来はありません。これまでも学校教育で新たな取組みが行われてきましたが、何かをスクラップすることはせず、全て足し算で業務を付け加えて現場を疲弊させ、様々な問題を引き起こしてきました。学校教育を変えるためには、「ビルド&ビルド」ではなく「スクラップ&ビルド」が不可欠です。

教育改革のセンターピンは、学校の経営者たる「校長」だと思います。学校現場において、校長は特に重要な役割を担うプレーヤーであり、意欲と能力が高い人が就くべきポジションです。提言においても、管理職(校長・教頭)への新たな登用基準の作成・明確化の必要性を盛り込みました。また、校長が自らをアップデートし続けられる環境の充実や、行政による校長を支えるための仕組みづくりも求められます。

── 青森県の教育について、今後の展望をどのように見ていますか。

青森県の宮下宗一郎知事は、将来を牽引する子どもたちに向けた「未来への投資」に深い理解があり、提言で打ち出した教育改革の3つの柱を2024年度の重点事業として位置づけ、予算措置を優先して講じました。宮下知事自らが教育改革に強い覚悟を示していますから、今後、青森県の教育は大きく変わっていくのではないかと期待しています。

2024年度は、私を含めた有識者会議のメンバーが県内各地の現場で教育委員会の改革の実践に伴走します。提言でまとめた改革を実現できれば、青森県が全国トップクラスの教育の先進地になれる可能性は十分にあります。

全国でも深刻な人口減少や高齢化に見舞われている青森県において、教育改革の成果を出せれば、それは全国の他の地域のモデルになるでしょう。教育は地域の再生、ひいては日本の再生のトリガーになり得ます。青森県が教育改革の先陣を切り、それが全国にも広がるような先行事例をつくり出していきます。