SNS活用で「バズる」学校広報 生徒のクリエイティビティも開花
広報活動にSNSを活用する学校が増えている。最先端を行く高知学園高知中学高等学校では戦略的にInstagramやTikTokなどを運営し、YouTubeショートが1316万回再生に達するなど注目を集める。広報情報部長の秦泉寺力仁先生に、運用の工夫と手応え、今後のビジョンを聞いた。
XやFacebookでは届かない
ショート動画中心に方針転換

秦泉寺 力仁
高知学園高知中学高等学校 広報情報部長、社会科教諭
高知学園高知中学校・高知高等学校で6年間を過ごし、地元の高知大学人文学部に進学。卒業後は母校である高知中学高等学校に国語科教員として入職。小学校より続けてきた野球の指導もしながら、2021年より広報情報部(生徒募集)の部長に。現在は社会科の教諭として教壇に立ちながら、高校3年生の担任、中学野球部部長、ICT推進委員会(BYOD)委員長などもこなす。学校公式SNS運用において、インフルエンサーとのコラボや自治体・企業とのタイアップ、地元メディアや全国系列キー局からの取材実績も持つ。
──広報にSNSを積極的に活用するようになった経緯をお聞かせください。
私が広報情報部長に就任したのは2021年のことです。もともと広報の部署にはいたんですが、突然「部長」の任をいただいて、年齢的にもかなり若手でしたから、正直プレッシャーもありましたが、それと同時に「結果を出さなければ」という覚悟も生まれました。
学校の広報活動では、当然ホームページはすでに整備されていますし、パンフレットも毎年しっかりつくっています。でも、それだけでは足りない。特に情報発信の媒体として、SNSの活用が必須になってきているなかで、当時本校が運用していたのは旧TwitterとFacebookだけでした。
でも、冷静に考えてみると、私たちがアプローチしたいのは小学生や中学生です。そもそも彼らはXやFacebookを使っていません。届かなければ意味がないと、私が部長になってすぐ、InstagramとYouTubeの運用を始めました。
Instagramでは、日々の学校生活や行事の様子を写真中心に投稿して、学校の雰囲気をリアルに感じてもらおうとしました。一方で、YouTubeは長尺の動画をメインにしていました。ちょうどコロナ禍に入って、部活動の紹介が難しくなっていた時期でもあり、各部活の生徒にインタビューしたりして、3~4分程度の動画をつくって投稿していました。相当の労力がかかりますが、当初は300回くらい再生されればいいほうで、正直、割が合わないと感じていました。
いろいろ調べていくうちに、「今の子どもたちにはショート動画の方が届きやすい」ということが分かってきました。たまたま教頭先生も、別ルートで「TikTokなどのショート動画を活用して生徒募集に成功している学校がある」という話を聞いていたそうで、本校でもショート動画を中心とした広報活動に方針をシフトしたんです。これが今のSNS運用の土台になっています。
世の中のトレンドから着想
自らダンスを披露し独自性を
──SNS運用スキルはどのように高めていったのですか。
まさにトライアンドエラーの繰り返しでした。もともとプライベートではSNSをまったく使っていませんでしたし、正直に言えば、「TikTokなんて学生が遊びでやるもの」程度に思っていた節もあり、知識もノウハウもゼロの状態からのスタートでした。でも、学校として公式にSNSを活用していくと決めた以上、自分がきちんと理解して、ほかの先生方にも説明できるようにならないといけません。まずは「校内で一番SNSに詳しい人間になろう」という意識で取り組みました。
ただ、やはり独学には限界もあります。そこで2023年からは、サポートをしてくださる専門の企業と契約して、アドバイスをもらいながら運用し始めました。その甲斐があってか、開始初年度からショート動画の再生数がグンと跳ね上がることがたびたびあり、より効果的な発信ができるようになってきたと感じています。

動画の企画から撮影、ときには出演まで、秦泉寺先生が全工程を手がける。
──ご自身もキレのいいダンスを披露されていますね。
きっかけはハロウィンの時期でした。Adoさんの楽曲がユニバーサル・スタジオ・ジャパンのハロウィンパレードの音源として使われるというニュースをたまたま見かけて、「これは流行りそうだな」と感じたんです。実際、そのとおり大きな話題になりました。
ただ、多くの人が同じ振り付けのダンス動画を投稿するなかで、私たちのような「インフルエンサー」でも何でもない人が同じことをしても埋もれてしまう。どうしたら本校らしいオリジナリティを出せるかと考えて、最終的に「自分が踊って出てみよう」と決断しました。学生時代の私は野球一筋だったので、ダンスなんてまったくの未経験だったんですが、「よさこい」のインストラクターをしている妻の熱血指導のもと、夜な夜な自宅で練習しましたね。
──そうしたSNS運用に対し、先生方の反応はいかがですか。
否定的な意見を直接耳にすることはありませんが、いろいろな考え方の先生がいて当然ですから、懐疑的な印象を持っている方も一定数はいるだろうなとは感じています。
ただ、全員の声に応えようすると、結局、無難で無味無色な内容になってしまい、本当に届けたいターゲット層には刺さらないと思います。いくら教員側が納得できる動画をつくっても、見てもらえなければ意味がありませんから。絶対に守るべきモラルやルール、そして法的なラインは遵守したうえで、それ以外の部分については、あえて周りの意見に振り回されすぎないように努めています。
原資は生徒のクリエイティビティ
学校行事に頼らない計画性も
──「バズる」ためのポイントや運用の工夫についてお聞かせください。
一番のポイントは、生徒たちのクリエイティビティを活かすことだと思っています。例えば、過去にバズった動画に体育祭の「部活対抗リレー」があります。各部活の生徒たちがそれぞれの競技の特徴を活かして、オリジナルのパフォーマンスをしながら走るという企画だったんですが、このショート動画が約1300万回再生されました。また、同じく体育祭の「エール交換」も話題になりました。本校は赤・青・白の3色チームに分かれるんですが、3本すべて100万回を超え、特に赤チームの動画は500万回を超えるほどです。どれも、生徒たちの元気さや勢い、表情の豊かさがすごく伝わる内容でした。
また、生徒たちのパワーに加えて、やはり重要なのは「トレンドをどれだけ的確に押さえられるか」です。今何が流行っているのか、どんな音源やフォーマットがバズっているのか、日々チェックしています。その中から「これは本校でも活かせるか?」「学校の公式アカウントとして出して問題ないか?」という視点で選別して、オリジナリティを加えて企画を立てています。学校行事がある時期はいくらでも発信の素材もありますが、行事のない「谷間」の期間に何を出すか、計画性をもって日々企画を練っています。

部活対抗リレー(左)やエール交換(右)の動画が大いに盛り上がった体育祭。
──リスク管理については、どのような対策を講じていますか。
入学時にまず、SNSやHPに掲載してもいいかどうかを明確に意思表示いただいており、基本的には「OK」をもらった生徒だけを登場させています。
どの学校でもやはり一番懸念されるのは「炎上」でしょう。本校では、幸いこれまで炎上したことは一度もありません。それは運用の仕組みを整えてきたからです。現在、本校がメインで使っているTikTok、Instagram、YouTubeには、どれもコメント機能にフィルタリングが使えます。コメント欄をフリーに開放していますが、投稿されたコメントはいったん管理画面に集まる仕組みになっていて、私が内容を確認し、承認したものだけが公開されるようにしています。これによって、不適切なコメントが表示されて炎上を招くことはありません。こうした仕組みを導入することで、トラブルのリスクはかなり抑えられると思います。
広報だけではもったいない
キャリア教育への展開も視野に
──これまでの手応えをどのように感じていますか。
まず、届けたいターゲット層に確実に届いている実感はあります。特に今の高校1年生は、中学生の頃から本校のSNSを見ていたという生徒が多く、実際に入試の面接でも「SNSで学校の雰囲気が伝わってきて楽しそうだった」と話す生徒が増えています。また、今年はSNSやリアルイベントでのPR活動に興味を持って入学してきた生徒もおり、運用を手伝ってくれています。
フォロワーが増え、認知も広がってきた今は、純粋な広報目的を超え、一歩先を見据えています。例えば生徒たちの感性を育てるツールとしてもSNSを活用していけるのでは、と考えています。実際、生徒に動画作成に関わってもらうなかで、「この子、こんなに表現力があるんだ」など、生徒の新たな一面に気づかされることも多いです。本校は演劇部はありませんが、想像以上の演技力に驚かされることも増えています。
また、基本的には私が撮影しているんですが、自分が映るときには別の生徒に撮ってもらっています。すると、生徒の撮影センスに気づきますし、編集を少し任せてみたら意外と上手だったりすることもあります。動画づくりを通して、生徒が表現力や技術を伸ばしていく様子を見るのも、すごく面白いですし、やりがいを感じる部分ですね。
──今後力を入れたい取り組みや挑戦したいプロジェクト、目標やビジョンをお聞かせください。
2023年から広報におけるSNS運用を本格的に開始し、いくつかの目標を設定してきました。最初の目標は「メディアに注目される」ことでした。地元のテレビ局や新聞社、さらにはテレビ朝日の『ナニコレ珍百景』からも取材していただくことができ、この目標は達成できました。
次に自治体へのアプローチを考えました。こちらは卒業生のつながりから高知県観光政策課とのご縁が生まれ、高知城で行われるイベントのPRをタイアップで行う形が実現しました。
企業とのコラボレーションのお話も増えています。文部科学省も、学校の枠組みにとらわれない「地域に開かれた学校」という方向性を示しています。私たちも、学校という枠を超え、SNSを通じて日本中、さらには世界とつながれるツールとして活用していきたいと考えています。
──学校と地元企業の連携という事例も増えていますね。

「YouTube甲子園」のショートドラマ部門で金賞を獲得。生徒たちのクリエイティビティが開花した。
本校では地元企業よりむしろ、誰もが知っているような企業との連携を目指したいと考えています。先日は、大手製薬メーカーがスポンサーとなった「高校生ショート動画選手権」に参加し、そのメーカーの商品に関連したショートドラマ仕立てのPR動画をつくりました。おかげさまで、最優秀賞をいただき、もしかしたら商品PRに使うかもというお話もいただいています。
製薬メーカーの商品をPRするにあたっては、薬機法を遵守した内容にしなければなりません。そこで、その企業のマーケティング担当の方からオンラインでレクチャーを受ける機会をいただきました。企業人の方々が何を考えながら仕事をしているのかを知る機会にもなり、生徒たちにとっても貴重な経験でした。大企業も10代へのアプローチに課題を抱えているケースが多く、学校との連携は企業にとってもWin-Winの関係になり得るだろうと思います。
本校は95%の生徒が進学しますが、大学を出た後、どんな仕事に就きたいか、既にイメージできている生徒はほとんどいないでしょう。警察官や消防士、公務員、看護師や理学療法士など、ある程度「カテゴライズ」されている職種ならイメージしやすいですが、世の中の仕事の多くは、高校生にとって具体的なイメージが湧きにくい一般企業での仕事です。
だからこそ本校では、SNSでの広報活動をきっかっけに民間企業とのつながりをつくりたい。連携の一環として、例えば職場訪問ができるようになれば、「将来こんなオフィスで働くかもしれない」「会社って、こういう雰囲気なのか」といったことを肌で感じることができます。民間企業や自治体など、社会の様々なフィールドとつながり、生徒たちが多様な経験を積める場をつくり、将来のキャリア形成や探求につながる学びを提供したい。明治32年創立という歴史と伝統を誇る本校だからこそ、SNS運用を契機として、新しい学校の形をつくっていきたいと考えています。