誰も教えてくれないITの基本を楽しく学べるオンライン研修を提供

デジタルスキル研修は数あれど、基礎レベルのものは意外と少ない。スキル以前のマインドセットを学べるものとなると、その数はさらに少ない。横浜市のWHITE株式会社はまさにそのような研修を提供。文系人材のITスキルアップを通じ、日本全体のデジタルリテラシーの底上げを図っている。

オンラインのデジタルスキル研修を
コロナ禍前から提供する先駆者

横山 隆

横山 隆

WHITE株式会社 代表取締役
1985年、神奈川県生まれ。アパレル販売員からキャリアをスタートさせるも、ITの可能性に魅了され、IT企業に就職、EC事業を経験。複数のEC関連会社を経て、VASILY(現ZOZOグループ)に入社、EC事業部長を務める。テック企業の働き方を経験する中で、これを伝統的企業に輸入できれば世の中をよりよいものにできると感じ、人材育成に興味を持つ。2017年、独立してWHITE株式会社を設立。以来、デジタルに強い人材を育成するオンライン学習を提供している。

近年、汗牛充棟の感があるデジタルスキル研修だが、エンジニアやその志望者向けの高度なものは多くても、一般社員向けの基礎的なものは意外なほど少ない。ITを作る側 ──「理系人材」──ではなく使う側 ──「文系人材」 ──に対して、基本的なスキルやそれらの土台となるマインドセットを学べる研修を2017年の設立から一貫して提供してきたのが、横浜市のWHITE株式会社である。

代表取締役の横山隆氏は、自身もかつては「文系人材」であった。アパレルショップの店員としてキャリアをスタートさせた横山氏は、マーケティングツールとしてのインターネットの可能性に気付き、ITに魅了される。働きながらITを学び、転職したテック企業で、新しい技術や働き方を目の当たりにした横山氏は、それを日本中に広めればよりよい社会を実現できるのではないかと考え、独立。WHITE株式会社を立ち上げた。当初は、自身がかつてそうであったアパレル店員向けに、デジタルスキル研修を提供していた。

「店舗の販売員には、ものを売るのはとても上手ですが、インターネットは苦手、という人が大勢いました。そこで、ものを売る能力がある人にインターネットという武器を与えれば、鬼に金棒で、売上を大きく増やせるのではないかと考えました。私はITを武器と捉えています。素手で戦うのと武器を持って戦うのでは、後者の方が断然強いですよね。その武器を販売員たちも持つことができれば、と考えて始め、次第に対象業種を広げていきました」

横山氏は当初このサービスを、自身が講師を務める形で、対面で提供していた。しかし、もっと大人数に受けさせたいという顧客の声を受け、2018年という早い時期にオンラインのサービスに切り替えた。

「これについては自信を持って早かったと言えます。当時、同様のサービスは誰も提供していませんでした。その分、苦労もありました。説明すると『それいいね』とは言ってもらえるのですが、誰も買ってくれないのです。そのようなサービスを使ったことがある人がいないので、当然と言えば当然です。それでも何とか続けてきたことが奏功しました」

スキル以前のマインドセットを
漫画形式で楽しく学習

2021年11月、横山氏は以前から提供していたオンラインのデジタルスキル研修に、より楽しく学べるよう漫画形式を導入。それが現在、WHITE株式会社の主力サービスとなっている「MENTER」(メンター)だ。漫画形式を採用した背景には、以前のサービスへの反省があった。

「それ以前に提供していたオンライン研修に対して、『この忙しいときにこんなのやらせやがって』という感想が少なからずあったのです。私たちはそれに傷つくと同時に、反省させられました。オンライン研修は、人事に言われて退屈に耐えながら嫌々受ける『必要悪』になっていたのです。オンライン研修をそのようなものから何とか変えられないかと思っていたところ、ボランティアでアイデア出しに協力してくれていた方から、漫画形式がいいのではという意見をいただきました。試しに採用してみたところ、想像以上によい反応があり、そこで本格的に取り入れることにしました」

漫画形式の利点は楽しさだけではない。スキルというものはそれだけを取り出して教えられても、いつ、どのように使ったらよいのか分からず、単なる知識で終わってしまうこともある。一方、ストーリー仕立てにし、具体的な場面の中で教えれば、行動に移せるようになり、応用もきくようになる。ただしそのストーリーは文章でなく漫画であることが重要だという。

「テキストだったら味気なくて、結局頭に入ってきません。私たちが理想としているのは『ドラえもん』です。『ちょっとドジな主人公がトラブルに見舞われ、何でも知っている友達に助けてもらう』という構成を手本にしています。たとえば主人公がPCを操作していたらウイルスに感染してしまった。すると友達が出てきて、『まずはLANケーブルを抜いて、Wi-Fiを切って』『え、なんで?』『君のパソコンは今、社内のネットワークに繋がってるから、このままだと皆にも迷惑がかかっちゃうよ』。こんな具合です。これを、たとえば問題集で『インターネットでウイルスに感染したら何をすればいいでしょうか?』『正解は「LANケーブルを抜く、Wi-Fiを切る」です』とだけ教えられても、『ふーん』で終わってしまいます。それを『ふーん』で終わらせないのが、漫画なのです」

MENTERの特徴は、このような漫画形式を通じて、個々のデジタルスキルにとどまらず、それらのスキルの土台となるマインドセットを教えている点にもある。そのひとつが、分からないことがあればグーグルで検索するという癖である。この癖さえあれば、個々のスキルは後からついてくるという。

「AIやノーコードのスキルは点でしかありません。そういった能力は正直、グーグル検索して自分で問題解決する力さえ獲得すれば、研修など受けなくても身に着けられるのです。そうしたスキルの基盤となるマインドセットこそ、誰も教えてくれず、なおかつ簡単には身に着かないため、研修の必要があるのです」

MENTERは現在、花王、パルコ、みずほビジネスパートナー、高島屋労働組合など100社以上で導入されている。社員からは次の回が待ち遠しいくらい楽しいという声、管理職からは社員がITのトラブルを自己解決するようになったという声が届いているという。

「WHITE」という社名には、理不尽なこともある社会を少しでも「白く」、よりよいものにしていきたいという意志が込められているという。今以上に便利で、万人にチャンスが与えられた社会を実現すべく、横山氏はこれからも文系人材のデジタルスキルの向上と、それによる日本全体のITリテラシーの底上げに取り組んでいく。

漫画形式により楽しいだけでなく、どんな場面でどのように使うスキルなのか容易に理解できるようになっている。

漫画形式により楽しいだけでなく、どんな場面でどのように使うスキルなのか容易に理解できるようになっている。