スタートアップに求められる 「伝わる」を科学するコミュニケーションの極意

新たなビジネスを構想し、世に問うスタートアップ。しかし、革新的なプロダクトや熱い想いがあっても、その価値を社会に「伝わる」形で届けなければ、成長は鈍化する。急成長の鍵を握るのは、戦略的なコミュニケーション。社会構想大学院大学・コミュニケーションデザイン研究科の佐藤直樹客員教授が、その極意を語る。

新卒で入社した大和総研では、経営企画や広報を担当し、広報が企業戦略の重要な一部であることを学びました。その後スタートアップに転職した際、非常に優れたプロダクトや熱意を持つ経営者がいるにもかかわらず、その情報が社会にうまく伝わっていない現状を目の当たりにしました。この課題を解決したいという想いから、PR・広報支援会社「PRAS(プラス)」を創業しました。 スタートアップにおけるコミュニケーションは、単なる情報発信ではなく、企業の生存戦略であると考えています。スタートアップは自らの存在意義や提供価値を社会に伝えなければ、成長することができません。特に、経営資源のヒト・モノ・カネ・情報が限られたスタートアップにとっては、広報戦略と経営戦略を連動させることが不可欠です。例えば、採用方針に合わせて広報で企業文化を打ち出したり、資金調達のタイミングに合わせて戦略的なコミュニケーションプランを立てたりすることで、広報活動が企業の成長に直接貢献します。広報は「伝えて終わり」ではなく、その情報が最終的に企業の売上や採用、資金調達といった成果にどうつながるかまで見据えることが重要です。

資金調達に戦略的PR

佐藤 直樹

佐藤 直樹

社会構想大学院大学 客員教授
1981年生まれ。大和総研、スタートアップでの経験を経て、2019年にPR・広報支援会社「PRAS(プラス)」を創業。社会構想大学院大学客員教授。「スタートアップ・コミュニケーション」を通して、起業家の熱量や革新的なプロダクトを社会にどう伝えるべきかを実例をもとに考察。PR・広報担当者や新規事業担当者に向け、実践的な知見を提供している。

── 資金調達がスタートアップの成長に不可欠な中、VCとのコミュニケーションやプレスリリースの極意について教えてください。

資金調達はスタートアップにとって最大のイベントの一つであり、その際のコミュニケーション戦略は非常に重要です。まず、VC(ベンチャーキャピタル)とのコミュニケーションにおいては、単に「お金を集めました」という事実だけでなく、なぜその資金が必要で、どのように活用し、どのような未来を描いているのかを明確に伝えることが求められます。VCも投資の成功を望んでいますが、その成功の裏付けとなるストーリーやビジョンを伝えることで、より強い関係性を築くことができます。 プレスリリースを作成する際も、同様の考え方が重要です。単に「〇億円を調達しました」という金額だけを伝えるのは、非常にもったいないことです。多くのメディアや読者は、その数字の背景にある「なぜ」を知りたいと考えています。したがって、プレスリリースには、調達した資金の具体的な使途(例:技術開発、人材採用、海外展開など)や、その資金によってどのような社会課題を解決していくのか、という会社の「思い」や「方針」を明確に盛り込むべきです。これにより、単なるニュースとしての価値だけでなく、企業のビジョンやパーパス(存在意義)が伝わり、投資家だけでなく、潜在的な顧客や採用候補者に対しても強いメッセージを発信することができます。 また、資金調達の情報を発信するメディアの選定も重要です。スタートアップの資金調達に関心を持つのは、主に経済系メディアやスタートアップ専門メディアです。これらのメディアにターゲットを絞ってアプローチすることで、情報が適切に届き、より大きな反響を得ることができます。

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