北海道安平町、「教育の本質」への回帰で移住増を実現

北海道安平町が、子育て世代の移住先として静かな注目を集めている。人口約7000人の町が、給食費無料化などの施策ではなく、「教育の本質」を追求することで人を惹きつける。その哲学と戦略を、仕掛け人である井内聖教育長に聞く。

補助金より「教育の本質」
人口増を実現した逆転の発想

井内 聖

井内 聖

安平町教育長、北海道文教大学客員教授、北海道幼児教育推進センターアドバイザー
公立中学校教員を9年務め、幼児教育へ転身。私立学校法人で幼稚園、保育園、こども園の園長を歴任し学園長として法人経営を担う。全国から注目を浴びる安平町立早来学園開校に際しては、安平町教育委員会へ出向し、基本構想、基本設計に携わる。令和6年より安平町教育長に就任。遊びとこどもの権利を基本理念に0歳から一貫した教育とまちづくりを進めている。

── 安平町は子育て世代の転入が増加し、2年連続で社会人口増とのこと。なぜ移住先として選ばれているのでしょうか?

はい。安平町は人口約7000人の小さな町ですが、この2年連続で社会人口が増加しています。約10年前に町が「教育と子育て」に舵を切ったのが転換点でした。

ちょうどそのタイミングで町立こども園を民営化しました。町としても給食費の無償化や住宅補助金といった施策だけでは、「教育と子育て」を大切にしている方たちに響かないという考えがありました。価値観が合う方と一緒に歩んでいくことで地域に根付いていくからです。

民営化したこども園は、「教育の本質とは何か」を問う園でした。非常にシンプルですが「子ども時代に子どもらしい子ども時代を過ごす」という理念です。これは、子どもが「自分で決め、自分で考え、挑戦し、体得する」という経験を、大人が待つ姿勢の環境で重視するものです。その教育実践は屋外が中心、特に森の中での豊かな自然体験を核に据えていました。

この「教育の本質とは何か」「子ども時代とは何か」を問う姿勢そのものが、同様の価値観を持つ子育て世代の共感を呼び、町外(例えば隣の苫小牧市)から「この園に入れたい」と移住につながる、最初の大きなきっかけとなったのです。

(※全文:2128文字 画像:あり)

全文を読むには有料プランへのご登録が必要です。