特集1 人手不足を克服 多様性を成長の力に 「人を育てる」経営
急速な人口減少により労働力人口の確実な減少が予測される中、企業は多様な人材の活用だけでなく、ITエンジニアといった必要な人材の確保・育成や、働き方や職場環境の見直しなども求められている。本特集では、人口減少社会における多様性を活かした人材戦略を検証した。(編集部)
2040年には労働力人口が
6,002万人に減少する見通し
厚生労働省の「令和5年(2023)人口動態統計(確定数)」によれば、出生数は72万7,288人、前年より 4万3,471人減少し、人口動態調査を開始して以来、過去最少となった。独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の「2023年度版 労働力需給の推計―労働力需給モデルによるシミュレーション―」(2024年8月)では、次の3つのシナリオに基づいて、2040年までの労働力需給を推計している。
同資料によれば、労働力人口は、「一人当たりゼロ成長・労働参加現状」では、2022年の6,902万人から、2030年に6,556万人、2040年に6,002万人へ減少すると推計している(図表)。いずれのシナリオにせよ2040年時点では、労働力人口の減少が予測されているため、企業は長期的な人手不足が続く状況において、様々な施策を打ち出していくことが求められている。
新たな働き方のモデル「自営型」
グローバル人材・女性の活用を
働き方の多様化が進む中、新たな働き方のモデルとして「自営型」を提唱する同志社大学教授の太田肇氏は、半ば自営業のようにある程度まとまった仕事を一人でこなす働き方である「自営型」の働き方が「人手不足対策の切り札になり得る」と話す(➡こちらの記事)。太田氏には、自営型社員の成長を促進するためには、どのような取組みが求められるのかなどについて話を伺った。
必要な労働力を確保する上で、国籍を問わず人材を活用する視点が欠かせない。グローバル人材について研究している立命館大学教授の守屋貴司氏は、日本企業におけるグローバル人材の活用が進んでいないと指摘する(➡こちらの記事)。
人手不足の解消に向けて、女性の労働参加も不可欠な視点だ。2024年6月に発表された「女性版骨太の方針2024」では、「企業等における女性活躍の一層の推進」など4つの柱に沿って、持続的な広がりのある取り組みの推進を目指すことを掲げている。産後も働き続けられる環境は徐々にだが整ってきた中、次に必要となるのは、ステップアップできる環境の整備となる。女性労働研究の第一人者である立命館大学教授の筒井淳也氏に、女性の労働参加が進むために企業、そして社会が取り組むべきこと、その具体策について寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
一方で、人手不足解消というと、大がかりな施策ばかりが議論されがちだ。しかし、より単純な解決策がある。それが「年収の壁」の解消だ。こう指摘する野村総合研究所社会基盤研究室室長の梅屋真一郎氏には、働き控えが発生する「年収の壁」などについて寄稿いただいた(➡こちらの記事)。
多様な人材活用に必要な視点
シニア人材・IT人材・中途採用
少子高齢化が進む中で、シニア人材の活用も重要だ。一方で、シニア社員のモチベーションやパフォーマンスの向上が企業の課題となっている。そうした中、多様な職業体験による経験学習を通じて、個人の成長を促すサービス「仕事旅行」を提供している仕事旅行社では「ミドル・ シニア活性化支援」に特化した法人向けサービスを提供している(➡こちらの記事)。
また人材不足と言えば、IT人材の不足が指摘されて久しい。エンジニア志望者と企業を結びつける「採用支援」と、エンジニアを目指す人材の「育成」を両輪に事業を展開するサポーターズ執行役員の桑原利旺氏には、学生から人気のある企業の特徴や「学年不問のエンジニア育成プログラム技育(ギーク)プロジェクト」などについて話を伺った(➡こちらの記事)。
企業は社員の定着率向上などに向けて、様々な働き方改革を進めてきた。一方で、環境整備を進めてきたものの人材流出に悩む企業は少なくない。NEWONE 代表取締役社長の上林周平氏は「人材流出の原因の1つには、働きやすさを追求しすぎた結果、働きがいは感じにくいが働きやすい『優しすぎる職場』が増えていることが挙げられます。特に、優秀で成長意欲の高い若手層ほど、『働きやすくても、働きがいや自己成長を感じない』といった理由から離職する傾向が強まっています」と話す(➡こちらの記事)。働きがいと働きやすさを両立した「推せる職場」の構築を提唱する上林氏に話を伺った。
人材不足において中途採用も外せない視点だ。オンボーディング(人材の受け入れ・定着・戦力化の施策)について研究する甲南大学教授の尾形真実哉氏は、中途採用者が直面する課題を調査・分析したところ、主に8つの課題が浮かび上がったと指摘する(➡こちらの記事)。尾形氏には、中途採用者の組織適応と管理職(上司)教育の在り方など伺った。
本特集は「多様性を成長の力に『人を育てる』経営」をテーマに、様々な角度から現状の課題点、必要な知見、最新の取り組みなどを探った。人手確保に悩む企業の参考になれば幸いだ。
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