「AIは創造性を増幅する」 GMOペパボが描くクリエイター支援戦略
個人の表現活動を支援するインターネットインフラを提供し続けてきたGMOペパボ株式会社。生成AIが台頭する今、同社はどのような進化を描いているのか。コロナ禍での最大200パーセントのサービス急成長とAI導入による組織変革から、VTuber市場への新たな挑戦、利益率向上への施策、そしてAI時代における人間の表現活動の未来について、佐藤健太郎社長に聞いた。
激動の市場を勝ち抜く
AI時代の新たな組織と評価
――創業時からの変わらぬ事業コンセプトと、AI普及に伴う組織体制や評価制度の最新の変化について教えてください。
当社が提供するロリポップ!というサービスは、お小遣い程度の金額で個人がインターネット上に自分のウェブサイトを持てるようにしたいという思いから始まりました。自分たちの作ったものを見てほしいという純粋な自己表現の欲求を支援するインフラを提供するという原点は、創業時から現在まで一貫して変わっていません。
ストックビジネスを強みとしながらも、時代の変化に合わせて事業を展開してまいりました。組織のあり方については、2010年頃に職種ごとのスペシャリストを適切に評価する制度を導入しましたが、AIの進化によりその考え方も変化しています。特定のスキルセットに依存したジョブ型の評価から、現在は変化に柔軟に対応し、事業の成長に直接コミットできる人材をより高く評価する方針へとシフトしています。
特にコロナ禍においては、通常の年率10パーセント程度の成長から、サービスによっては最大200パーセントという爆発的な急成長を経験しました。これに伴いカスタマーサポートの人員を大幅に増強しましたが、現在はその業務の多くをAIによって代替しています。そして、空いた人材にはリスキリングを実施し、社内の知見を活かした「GMO即レスAI」といった新たな事業領域をはじめ、様々な部署、職種への配置転換を行っています。AIが定型業務をこなす時代だからこそ、現場で人間同士が交流し、その関係性から、新たな仕事や事業を創出できる人材の価値がかつてなく高まっていると実感しています。
表現の形は動画へと移行
VTuberの裾野を広げる挑戦
――既存事業を強化しつつ、VTuberなどの動画クリエイター支援という新領域へ拡張する狙いと今後の目標を教えてください。
これまでテキストや画像が中心だった個人の表現活動は、現在急速に動画へとシフトしています。我々はこの変化を既存事業への強い危機感と捉えると同時に、新たな市場を開拓する大きなチャンスだと認識しています。特に注目しているのがVTuberの領域です。現在は一部のトップ層のみが目立つ市場構造になっていますが、実際には潜在的な需要が非常に大きい分野です。しかし、配信を始めるにはソフトウェアの複雑な設定や素材の準備など、多くのハードルが存在します。そこで我々は「Alive Studio byGMOペパボ」(アライヴスタジオ)というサービスを提供し、配信開始までのプロセスを大幅に簡略化することで、誰でも簡単にVTuberとして活動できる環境を整備しています。
Alive Studio byGMOペパボの公式ホームページより
現在、国内の類似ツールのトップが2万件から3万件規模と言われる中、我々は2027年までに2万件から3万件のラインへの到達を目標とし、将来的には10万人規模の新しいカルチャーを創出したいと考えています。大勢の視聴者を集めるトップクリエイターだけでなく、1対少数でニッチな交流を楽しむような多様な層が生まれるはずです。さらに、大手事務所に所属しなくても個人が自立して活動できるよう、独自の広告ネットワークの導入なども構想しており、幅広い年代が容易に収益化や集客を行えるプラットフォームの実現を目指しています。
法人向けソリューション強化
AI投資が導く利益率の飛躍
――今後の営業利益率の改善目標と、AI領域や新規領域への積極的な先行投資、そして回収のロードマップについて伺えますか。
当社の昨年の営業利益率は8.5パーセント程度でしたが、2027年にはこれを10パーセント台へと引き上げる明確な計画を持っています。その中核となるのが、社内外におけるAIの徹底的な活用です。社内においては、管理部門も含めた全社的なプロジェクトとしてAI導入を進め、圧倒的な生産性の向上を図っています。一方、事業面ではAIを直接的な売上増加に繋げる施策を加速させています。その一つが法人向けソリューションの強化です。我々の主力サービスであるムームードメインとビジネスツールであるGoogle Workspaceをセットで提供する取り組みに注力しています。特に、強力な画像生成モデルNano Bananaが利用可能になったGeminiの需要は爆発的に高まっており、大きな成長ドライバーとなっています。
また、2025年11月18日にはインコム・ジャパン株式会社と連携し、「Google Workspace Business Starter」と「Google Workspace Business Standard」の2種類の「Google Workspaceカード」を全国の主要家電量販店にて販売開始する新たな試みを開始しました。これまでウェブ上の無形商材を中心に扱ってきた我々にとって、店舗という物理的な接点で法人顧客にアプローチできるようになったことは非常に大きな変化です。今後はECやサーバー領域においても、AIを組み込んだ付加価値の高いツールを順次投入し、顧客の事業継続を強力に支援する独自の経済圏を確立していく方針です。
AIは表現を奪うのではなく
新たな創造性を増幅する武器
――誰もがAIで一定水準の作品を容易に作れる時代において、人間の表現活動や御社の根幹となる価値観はどのように変化しますか。
AIの普及によってクリエイター間の技術的な差がなくなるのではないかという懸念の声もありますが、我々の経営陣は全く逆の捉え方をしています。むしろ、これまでできなかった新しいものづくりができる時代が来たと熱狂しており、私自身や開発の役員たちも、寝る間を惜しんでプライベートの時間でもAIを使った創作活動に没頭しています。オリジナルグッズ作成・販売サービス「SUZURI」を利用するクリエイターの中には、自身の作品がAIの学習データとして利用されることへの警戒感を示す方もいらっしゃいます。我々もそうした声には真摯に耳を傾け、慎重な配慮とコミュニケーションを心掛けています。
しかし歴史を振り返れば、インターネットやSNSの登場が個人の表現を大きく増幅させてきたように、AIもまた人間の創造性を形にし、飛躍させる強力なツールになると確信しています。最近ではAI同士が独自のSNSでコミュニケーションを行うような未知の事例も登場しています。たとえ人間が直接関与しなくてもAIが勝手にコンテンツを生成する時代が来たとしても、人間が新しい表現を生み出し、それを鑑賞して楽しむという文化の本質的な価値は決して失われません。我々はクリエイターによる豊かな表現文化の土壌となるインフラを、これからも提供し続けていきます。