SDGsを中等教育に導入し、生徒の非認知能力を伸ばす手法を研究・実践

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、主に修了生がどんな課題意識のもと、研究や現場での実践を行っているかを紹介する。

教育ツールとしての
SDGsの応用可能性

宮舘 聡一

宮舘 聡一

私立堀越高等学校専任教諭(数学科主任)。実務教育学修士(専門職)。
2023年、同高校にSDGs同好会を設立。現在は研究生として、主にSDGsを用いて非認知能力を向上させる教育手法について、社会構想大学院大学 実務教育研究科にて研究を継続中。

私は高校の教師として、教育へのSDGs(持続可能な開発目標)の応用に取り組んでいる。

私がSDGsを知ったのは、数年前、ある教員の研修会でのことであった。直感的に教育ツールとして活用できると思った。まずはより深く知ることが必要と考え、書籍やさまざまな講演会、イベントを通じて理解を深め、その上で、自分の職場である高校の「探究」の授業において、独自に応用を試みた。生徒たちの反応は想像以上に良く、更に深く理解しようとする生徒や、普段から意識して生活するようになった生徒が現れるなど、様々な形で結果を得ることができた。

このように自分でSDGsについて調べ、色々な教育実践を行っていたが、一人で学べること、できることにはやはり限界がある。教員免許更新講習会などで学べるかと期待したが、関連するような授業は一つもなかった。教えてもらえる機会が少ないならば、自分自身が教員にSDGsを使った教育実践を伝える立場になろうと決心し、同僚にSDGsに関する教育実践を促してみたが、なかなか理解してもらえない状況が続いた。

それでも、SDGsの良さを一人でも多くの教員に知ってもらい、生徒の様々な能力を伸ばしていける教員が増えれば、という想いは揺るがなかった。そのようなとき、実務教育研究科の開設を知り、入学を決意した。

勤務する高校での授業の様子

勤務する高校での授業の様子

SDGsの活用により
非認知能力重視型の教育を実現

大学院の授業や、文献の読解を通じ、これからの社会において求められるのは、今まで重視されてきた暗記力ではなく、考える力や主体性、コミュニケーション能力などの非認知能力(ペーパーテストでは計ることが困難な能力)を向上させることだと判明した。つまり、知識詰め込み型教育から、問題発見・解決型教育へのシフトチェンジが必要なのである。

この非認知能力の向上に、SDGsを教育において活用することが有効なのではないか。これをリサーチクエスチョンとして、私は研究を行った。

研究に取り組む中で、中等教育現場における制度の変化について理解できたことがあった。それは、大学入試システムの改革や観点別評価の導入、学習指導要領の改訂など、近年起こった変化はすべて関連しているということである。それらの改革はいずれも「非認知能力重視型の教育へのシフト」という共通の目標のもとに行われているのである。

そして、新学習指導要領の前文にも記載されている通り、これからの教育には「持続可能な社会の創り手」の育成が求められている。それを実現する上でも、SDGsを教育に活用することは非常に有効である。このように私は結論付けた。

勤務する高校の授業と
部活動において研究成果を実践

2年間の研究で得た知識や教育法を、私は高校の教育現場において活用している。幸いにも職場の上司の理解を得ることができ、SDGs同好会という部活動を新たに立ち上げることができた。またSDGsを盛り込んだ探究授業も複数受け持つことができた。

部活動にSDGsを応用することができたのは、学校外と関わりを持つ、つまりは社会に開かれた教育を実践することができるようになった点で、非常に大きかった。同好会では、文化祭における展示などの企画・運営を生徒が自分たち自身で行っており、主体性や行動力を育む協働的な学びが可能になっている。社会と関わりを持ったり、自分たちで運営していく中で生徒たちが見せる、生き生きと学ぶ姿勢や、その喜び、そして成長を身近に感じることができている。まさしく、非認知能力の向上を日々目の当たりにしているのである。

教育において、正しい答えは一つではない。私は教師として、この2年間での研究成果をベースに、生徒たちの本質に訴えかけ、響くような教育、生徒の非認知能力を向上させるような教育の研究と実践を、今後も続けていく。

「新しい教育と学び」〜専門家から見る学校。いま、保護者に必要な学校選びの軸とは〜