教育現場が変わるタイミングで入学 教員の学びの最大化の要因を研究

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。 本連載では、院生がどのような学びを得て、現場に実装したかを紹介する。

教育現場の変化に対応するため
大学院での学び直しを決意

立原 寿亮

立原 寿亮

武蔵野大学附属千代田高等学院・千代田国際中学校教諭。
青山学院大学教育人間科学部教育学科を卒業後、私立中高一貫校の英語科教諭などを経て、現職。社会構想大学院大学実務教育研究科第1期修了生。実務教育学修士(専門職)。

青山学院大学教育人間科学部教育学科を卒業後、私立の中高一貫校で英語教諭として8年目を迎えた立原寿亮氏。社会構想大学院大学には、実務教育研究科が開設された2021年4月に第1期生として入学した。

奇しくも2021年は新型コロナウイルスの感染拡大によってGIGAスクール構想が前倒しとなり、全国の公立小中学校で1人1台端末とネットワーク環境が整備された時期。教育現場が大きく変わっていくタイミングと、自身のキャリアの転機が重なった。

「年齢も30歳という節目を迎え、これからの学校教育をどうすべきかという課題にぶち当たるようになりました。同時に、大学で学んだことが現場で通用しない場面を多々経験したことで、教育現場の変化に対応するためには大学院での学び直しが必要だと痛感し、社会構想大学院大学への入学を決意しました」と立原氏は大学院進学の経緯を語る。

多様な経歴を持つ同期と
共に学び、切磋琢磨した2年間

入学時に定めた研究テーマは「これからの中等教育に求められる学校および教師の資質・能力とは」だったが、個性豊かな教授陣や同期と議論を交わしていく中で、「時代が変われば求められる資質・能力も異なる。10年先、20年先も陳腐化しない普遍的なテーマを研究したいと考えるようになりました」と立原氏は話す。

そこで、専門職学位論文では「現職教師の『学び』経験とその契機の『共通項』とは」と題し、中学・高校の様々な世代の教員に、教職に就いた後に必要性を感じて学びを実践した内容とそのきっかけや、現職教員としての課題認識と解決策としての学びの関連などのインタビューを実施した。

それらの研究の成果をもとに、日々多忙を極める学校現場において、教員の学びを日常において最大化するためには、「バイタリティー」と「質の高い同僚性(教員同士が互いに支え合い、高め合っていく協働的な関係)」が要件であることが析出された。

「これまでは私自身も日々の業務を経験や感覚で進めているところがありましたが、仕事の質を上げるためには職場の暗黙知を言語化し、それを次世代に継承していくことが必要だと感じていました。インタビュー調査を通じて、私自身の教育観や人生観と対峙するきっかけとなる貴重な意見を得られたと同時に、論文執筆のプロセス全体が教員としての自己研鑽にもなりました」

多忙な教育現場に身を置く立原氏にとって、本学がオンラインだけでも修了できる点は大きな助けとなった。その一方、自身もコロナ禍でオンライン・オフライン双方の授業を実施した経験から、「対面でしか得られない空気感の大切さを再認識し、なるべく対面での講義を受講するように心掛けました」と振り返る。

「教職大学院で学び直すという選択肢もある中、あえて社会構想大学院大学を選んだ理由とも重なるのですが、教育関係者ばかりの環境で研究を進めていくと、いずれ煮詰まる時が来ると感じていました。その点、様々なバックボーンを持つ教授陣や同期が通うこの大学院では、彼ら彼女らとのディスカッションを通じて、様々な知見や視点を得ることができました」

大学院での成果を活かし
実務のクオリティを向上

入学してから受けた授業はどれも大きな刺激になったが、特に実務と研究の往還を重ねて考えた「実践と理論の融合」は、自身のテーマを体現したような授業だったと振り返る。

「大学院での学びを現場で実装するにあたり、どのような視座が重要なのかといった考察を深めていく講義でした。最終講では、本科目の履修を通じて、自身の研究関心がどのように実装可能になるのかをプレゼンテーションしたのですが、その過程を通じて、より深く自身の研究関心を言語化することができました」

こうした2年間の学びを通じて、立原氏は自身のメタ認知の能力向上を実感している。実務の進行や目標の設定が円滑になり、業務全体の質が向上しているという。また、指導教員の富井久義准教授から指導を受けた質的調査の手法については、生徒や保護者とコミュニケーションを図る際にも大いに活かされているという。有意義な大学院生活を送った立原氏は、大学院への進学を検討している人に向けて、次のようなメッセージを送る。

「仕事と大学院との両立は簡単ではありませんが、仕事の質を上げたい人やキャリアアップを見据える人にとって、本学は最適な学び場だと思います。1年目はなるべく対面での授業を受けていただくと、他業種他業界の同期との交流から良い刺激がもらえるはずです。私自身、正規の授業時間外にも、自主ゼミ勉強会や読書会などの場を通じて、かけがえのない経験を得ることができました。これからも同期とのつながりを大事にしながら、実践と理論の往還を通して、学校現場のより良いあり方を模索していきたいと思います」