地方公務員のミライ~自ら学ぶことで得られること~

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、主に修了生がどんな課題意識のもと、研究や現場の実践をしているかを紹介する。

地方公務員が学ぶ理由とは

小林 哲彦

小林 哲彦

渋川市市民環境部環境森林課環境政策係長
1996年旧渋川市入庁。保健福祉、企画、教育等の所管への配属、公益財団法人等への派遣を経験。組織内での自主研修グループを運営しつつ、組織外でのネットワークも形成。また、地方公務員の学びに関する学術的な研究により修士(地域政策学)を取得。この研究をさらに探求するため、2021年4月に社会構想大学院大学実務教育研究科に入学。今後は、専門職地方公務員の知識形成と組織による人的資源管理の在り方についての研究活動を続けていきたいと考えている。

私は地方公務員となって27年目を迎えた。業務に関し地方分権の推進、市町村合併、大規模災害等、想定外の課題が生じ、地方自治体は新たな政策課題の解決、推進が求められてきている。国も地方自治体もこうした課題に対応できる職員を養成するために研修制度改革を試行しつつある。だが、社会環境の変化に十分対応しているとは言いがたい。地方自治体が担う業務は複雑化・拡大化を続けているが、制度的に行われている人材育成は十分に機能していないのである。

この不足を補うため、自主的な学びにより業務遂行スキルの形成を行ってきた地方公務員や自主研修グループが各地に存在している。私自身、そうした方々と出会い、学び、交流し、つながることで、学びを深めてきた。こうした活動は、各地で行われてきており増加・多様化の傾向にある。

このような公務員の自主的な学びに関し、学術的な解明はこれまで十分にされてきていない。社会構想大学院大学実務教育研究科への出願を決めたのは、地方自治体業務の補完以外の自主的な学びについて研究する必要を感じたためである。

以前私は地方公務員の学びは地方自治体業務を補完するためであるとして研究を行った。この研究以降、私自身のネットワークが拡大し、地方公務員とのつながりが増加していく過程において、学びは業務を補完するためだけではないという実態に触れることになった。それが実務教育研究科への出願を決めたきっかけである。

地方公務員の学びついて

地方公務員の自主的な学びは、その起点を1950年代の労働運動等に求めることができる。その後、学会や各地区での自主研修グループの発足等があり、現在は複線化・増加の傾向にある。学位論文では活動の歴史、内容に関する整理を行った。国が示す地方公務員の制度化された人材研修の方針の中に自己啓発の推進が規定されており、その成果は地方自治体業務への反映を意図するものであるとされ、これまで自主的な学びについても、「自主研修とは自治体行政の諸活動と関係のない事柄を研究することでは全くない」と指摘されてきていた。だが、本研究においては、これは現在の自主的な学びを正確に把握しておらず、自主的な学びを新たに定義付ける必要があるとした。

一般に社会人の学びは複線化、増加する傾向にあることが、先行研究から明らかである。自らの学びや勉強会への参加がキャリア自律に活かされているのである。なお、キャリア自律とは、「個人が主体となったキャリア形成であり、変化の多い環境の中、自らのキャリア構築と継続的学習に取り組む生涯にわたるコミットメント」である。これは、地方公務員にも当てはまるのではないかと考え、仮説を「地方公務員の自主的な学びはキャリア自律のため」として、アンケート調査を実施した。

回答は154人から回答を得ることができた。アンケートでは調査協力者自身に影響を与えた学びを3つ挙げてもらったのだが、回答には業務以外の内容が多数含まれていた。学びの理由も、業務外への活用という回答が一定数存在していた。また、アンケート調査結果を基に47人を対象としたインタビュー調査を実施し、アンケート調査を補完した。インタビュー調査では3つ(学びの内容、動機、これからの目標)の聞き取りを行った。

2つの調査から、地方公務員の自主的な学びは必ずしも地方自治体業務に直結しないこと、キャリア自律を意図していることの2点が明らかになった。変化の多い環境においてそれぞれが主体的に自らのキャリア構築と継続的学習に取り組んでおり、まさに「地方公務員の自主的な学びはキャリア自律のため」のものであることが浮き彫りとなったのである。

また、大学院や自主研修グループ、地域コミュニティといった業務以外に学ぶ場があり、そのような場において自主的な学びが行われていることも示された。

地方公務員の学びのミライ

ところで、先日ある市の職員の退職記念勉強会に参加した。この人も自主的な学びの成果を地域コミュニティ活動に実装してきた人である。この勉強会には非常に多くの参加者が集うこととなった。地方公務員の自主的な学びのひとつの成果である。

上記のアンケートでも、地方公務員の自主的な学びは多様化し、増加傾向にあることが示されている。実務能力は通常業務内で形成されていく、学術からの学びと融合させることで別の視点を得ることができ、幅も深みも広がると実感している。また、先人の研究成果を辿ることでさらに学術的な研鑽を積みたいと考える点も大学院で学ぶことの意義のひとつであろう。

2023年3月に私は実務教育研究科を修了した。修了した今、私は学術的な研鑽をさらに積みたいと考えている。それをどのように実現していくか、私自身、模索の春を迎えている。

組織を変える人材開発に向けて