「いまここ」の適切な認識をつくりだし成果を最大化する技法を開発

「実践知のプロフェッショナル」人材を養成する社会構想大学院大学の実務教育研究科。本連載では、主に修了生がどんな課題意識のもと、研究や現場での実践を行っているかを紹介する。

VUCAワールドの到来を
痛感し研究を志望

小泉 雄

小泉 雄

コンサルティング会社経営。
人材サービス、ICT領域を中心に、組織変革や業務プロセス、DX領域のコンサルティングや新規事業開発、マネジメント職を経て、2016年独立、現在に至る。実務教育学修士(専門職)、ITコーディネーター、Registered Scrum Master®。現在、研究生として社会構想大学院大学 実務教育研究科で人的資本経営と組織人材開発について研究を継続中。

近年、社会は新型コロナウイルスなどの未知の脅威や少子高齢化、デジタル化の進展により、変化の幅が大きく、不確実性が高く、複雑、曖昧で予測が難しい環境(VUCAワールド)になっている。その中で、個々人にはこれまで以上に高い適応力が求められるようになっている。

私が実務教育研究科の受験を考え始めた2020年は、リカレント教育やリスキリングへの世間の注目度が以前より高くなり始めたころであった。コロナ禍により在宅での仕事が多くなり、職場への通勤時間が無くなったり、リモート環境での学習が普及したりと、新しい知識を身につけるのに有利な状況が生まれていた。

また、デジタル化の進展により仕事がますます機械に代替されていく中で、対人スキルや創造力、学習力が重視される一方、単純な操作や、正確性が求められるスキルの価値が下がるといった記事や研究を多く目にする時期でもあった。

今後は今まで以上に社会変化に柔軟に対応できる能力を養うことが重要になるだろうと考えていたところ、実務教育研究科の開設を知った。自分の考えていたことや学習したい内容と近いと感じたため、入学を志望した。

社会システム理論との出会いと
そこから得たインスピレーション

当初は、自身の業務領域を学術理論の裏付けをもって体系化する計画であった。だが、大学院での授業やゼミを通じて視野が拡がってきたことで、次第に当初の計画では物足りなさを感じるようになった。

社会学、中でも大学院ではじめて耳にした、社会システム理論や社会構成主義に強く関心を持った。これらは、私たちがどのように日々の現実の認識や知識をつくりだしているのかに関わる領域や考え方である。

端的に言えば、ある事象や状況についての解釈は個々人によって異なり、その解釈の相互作用が個人や組織の行動やコミュニケーションに影響を与えながら社会が成り立っているということを示している。例えば、個人という存在があるから社会がつくり出されているのか、反対に、社会とそのしくみがあってその中で個人という存在が確立するのか、といった多少哲学めいた「ニワトリか卵か」のような話にもつながる。

このような考え方に刺激を受けたことで、最終的には実務における課題解決方法について、自身の実務とも関連づけながら研究を行った。

認識がつくりだされるメカニズムを
理論化、さらには実用化

専門職学位論文は「いまここをつくりだす」というコンセプトをもとに、三部構成で執筆した。

第一部で、主として私たちが日々の社会生活を営む上での、特に企業や組織での活動を行う上での現実認識や現実創造のメカニズムを理論化し、第二部でそれらを効果的に扱うための認知や思考の用い方を検討、第三部でその具体的な実践方法の手順化を行った。

現実認識・創造のメカニズムの理論化のパートでは、私たち一人一人が「現実」というものをどのように観察しているのか、またつくりだしているのかということについて、知識社会学や社会心理学の先行研究を紐解きながら考察を行い、その理論化を行った。この理論を私は「実践の理論」と位置付けた。

次にその理論をもとに、自分自身の認知や考え方をどのように用いるとより効果的な成果につなげられるのかということについて、ブリーフセラピー、解決志向・ナラティブアプローチといった先行研究を援用し探究を行った。この技法を私は「変化の技法」と名付けた。

最後に、「実践の理論」と「変化の技法」を日常の問題解決法として使えるようにするために、それぞれの理論に対応するシンプルなフレームワークを考案し、その応用可能性について考察した。

興味関心に任せて様々な広がりのあるテーマに手を出してしまったこともあり体系化には苦労したが、2年間の学習成果として納得のいくアウトプットができたと感じている。

実践の理論の実践

私はコンサルティング会社を経営しているが、大学院での学びを通じ、顧客の業務理解の解像度や状況説明力が高まったと感じている。

ESG経営や生成AIなどに代表される比較的新しい経営テーマでは、定式化された解が発展途上にあり、最適解を求め多くの企業が試行錯誤を続けている。このような不確実性の高い状況においても、大学院での研究成果である「実践の理論」というレンズを通じて機能分析や体系化を行うことで、実務を遂行していけるのではないかと考えている。

現在は、研究生として実務教育研究科で研究を継続するとともに、現場・現物・現実から得られる具体的なデータの収集や、ユースケースと理論の往還を行いながら、様々な企業への支援の中で学習成果をビジネス成果につなげられるよう、より実践的なアプローチを行っている。

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