【10月20日関芳弘文科大臣会見要旨】東大総長選考、監事と運営方針会議に検証依頼
関芳弘文部科学大臣は2026年10月20日の記者会見で、H3ロケット10号機による火星衛星探査機「MMX」の打ち上げ成功を報告した。東京大学の次期総長選考をめぐっては、同大の監事と運営方針会議に選考過程の検証を文書で依頼したことを明らかにしている。質疑では、東京23区の大学定員規制、学術論文のオープンアクセス化、生活文化分野で初となる人間国宝の答申、原子力人材の育成について、文部科学省の考えを示した。
世界初の火星圏サンプルリターンに挑む
1つ目の報告は、火星衛星探査機「MMX」の打ち上げ成功についてである。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は同日午前4時41分03秒、種子島宇宙センターからH3ロケット10号機を打ち上げた。ロケットは計画どおりに飛行し、打ち上げから約1時間11分13秒後にMMXを正常に分離して軌道に投入している。
MMXは、火星の衛星フォボスからサンプル(試料)を採取し、地球に持ち帰ることを目指す。火星圏からのサンプルリターンは世界初の挑戦だ。関大臣は関係者の尽力に深く敬意を表し、ミッションの成果が日本の宇宙科学と探査技術の発展に貢献することに期待を寄せた。
H3ロケットについては、今後も打ち上げ実績を着実に積み重ねていく考えだ。信頼性の向上と価格競争力の強化に向けた開発・運用を進めて国際競争力を高め、日本の宇宙開発利用の進展に貢献できるよう尽力するという。
説明責任は「ガバナンス改革の第一歩」
2つ目の報告は、東京大学の総長選考に関する検証の依頼である。文部科学省は同日、高等教育局の文書で、東大の監事と運営方針会議に対し、先般行われた総長選考の過程を検証するよう依頼した。
Photo by hamazou/ Adobe Stock
東大の総長選考・監察会議は9月28日、大学院総合文化研究科の藤垣裕子教授を次期総長予定者に決定した。教職員による意向投票では、別の候補者が最も多くの票を集めていた。関大臣によると、同会議による選考理由などの説明には、学内外から多くの疑問の声が上がっている。10月13日には学内の教職員有志が、監事と同会議に宛てて説明を求める要望書を提出した。要望書が説明を求めたのは、意向投票の結果の扱い、第2次総長候補者5人の比較検討の状況と5人を選んだ経緯、国際卓越研究大学の構想やガバナンス改革に関する評価、非公開情報や個別の事案など事実確認を要する事柄の扱いといった点だ。
関大臣は、要望書の指摘は重要な問題提起を含むものであり、東大は法人として重く受け止めて対応する必要があるとの認識を示した。文部科学省はこれまでも、法人として説明責任を果たすことが重要だと繰り返し述べてきた。要望書に対する総長選考・監察会議の回答は10月16日に公表されたものの、選考過程や選考理由について明確な説明がないとの声は今なお多いという。
関大臣は、国立大学法人の運営では自主性と自立性を発揮し、大学内部の監督機能を生かしながら、法人運営を自ら検証して改善していくことが重要だと指摘する。総長選考の経緯を自立的に検証して説明責任を果たすことは、東大のガバナンス改革の第一歩になるとの考えから、学長選考を含む法人運営の監督機能を持つ監事と運営方針会議に検証を依頼したと説明した。
16日の回答は「外形的」と指摘
質疑では、幹事社の記者が16日の回答への受け止めと、説明が不十分だと考える点を尋ねた。
関大臣は、回答が協議内容などを保秘事項として扱うことだけを理由に、外形的な選考過程の説明にとどまっていると指摘した。意向投票の結果をどう受け止めたかに関する議論の結果、候補者の絞り込みから選考に至るまでの各候補者への評価や比較、国際卓越研究大学の構想やガバナンス改革に関する各候補者の考えや実績とその評価、個別事案の扱いの内容は、いずれも具体的に示されていない。さらに回答は、最終判断が委員の無記名投票で行われたことを理由に、選考理由を委員一人ひとりの判断に帰している。関大臣は、総長選考・監察会議として主体的にどのような選考を行ったのかが十分に明らかにされていないと述べた。
質疑の後半では、別の記者が、どうなれば説明責任を果たしたと言えるのかを質問した。関大臣は、どのような客観的事実に基づき、候補者をどう比較検討して判断に至ったのか、判断の合理性について十分に説明責任を果たしてほしいと答えた。
国が大学の自治を踏み越えることにならないかとの質問もあった。関大臣は、大学の自治は重要で大切なことだと考えているとしたうえで、今回の依頼は法律で定められた監事と運営方針会議の権限と責任が適切に行使されるよう促すものだと説明した。文部科学大臣は法律に基づいて国立大学法人の監事を任命し、運営方針会議の委員の任命を承認する立場にある。大臣としての任命責任を全うする観点からも、監事と運営方針会議には職務を適正に果たしてもらう必要があるという。選考の経緯を大学が検証することは、法人のガバナンスを確保する観点から最低限のことだとも述べている。
別の記者は、教職員有志の要望書に対して満足のいく回答があれば、説明責任を果たしたと捉えるのかを問うた。関大臣は、文部科学省はこれまでも、選考過程や選考理由は人事に関わる審議であることを考慮しつつ、学内外の関係者への説明責任を果たして信頼性と透明性を確保する観点から、できる限り具体的な内容を公表すべきだとの考えを示してきたと説明した。そのうえで、学内外から今も意見が出続けている以上、大学側の説明責任はまだ果たされていないと受け止めざるを得ないと語った。
議事録の開示まで求めるのかとの質問に対しては、同日に文部科学省が大学側へ話をしに行く予定だとして、大学の反応を踏まえて改めて判断すると答えた。
23区の定員規制、有識者による議論を優先
記者は、東京都議会が10月8日、いわゆる「23区規制」の撤廃を求める意見書を可決したことを取り上げた。記者によると、意見書は規制の開始後も地方大学への進学状況に変化がないとして規制の効果を疑問視し、大学運営や若者の進学先選びに弊害が出ていると指摘している。
規制の根拠は、「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」(平成30年法律第37号、地方大学・産業創生法)だ。同法は2018年6月1日に公布され、23区の定員抑制は同年10月に施行された。抑制の期間は2028年3月末までの10年間で、一部の例外を除き、東京23区内の大学の学部の収容定員の増加が抑えられている。
関大臣は、東京23区の大学の定員抑制を含む同法の今後のあり方について、内閣官房が設置した有識者会議で検討が進んでいると説明した。都議会で意見書が可決されたことは承知しているものの、まずは有識者会議で議論を尽くしたいとの考えで、文部科学省としても議論を注視していく。
学術論文のオープンアクセス化を後押し
別の記者は、2026年のノーベル化学賞を受賞した硤合憲三・東京理科大学名誉教授の例を挙げた。受賞につながった科学誌ネイチャーの論文がオープンアクセスになっておらず、要旨しか読めないという。記者は、日本は欧米に比べてオープンアクセス化が遅れているために研究成果の可視性が低くなっているとして、関大臣の問題認識と今後の取り組みを問うた。
関大臣は指摘の通りだと認め、海外の出版社に支払う論文の掲載料や購読料の高騰などを課題に挙げた。
政府は、統合イノベーション戦略推進会議が2024年2月16日に決定した「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」に基づいて取り組みを進めている。関大臣は具体策として3点を挙げた。1点目は、科研費などの成果である学術論文と根拠データの即時オープンアクセスの導入だ。2点目は、大学・研究機関の情報基盤などを充実・強化するため、2023年度補正予算で100億円を措置したオープンアクセス加速化事業の推進である。3点目は、約200の大学・機関が参加する世界的な大規模出版社との交渉体制の構築への支援で、3つの取り組みにより一定の成果が上がりつつあるとした。
このほか、日本の研究成果を国内外の情報基盤で見つけやすくするため、大学などの機関リポジトリに搭載した研究成果について、国の研究データ基盤を通じた海外の検索基盤との連携も進めている。文部科学省は今後も、内閣府や大学・研究機関の関係者と連携しながら、学術論文のオープンアクセス化を進める方針だ。
生活文化から人間国宝3人を答申、技の継承に期待
文化審議会は10月16日の文化財分科会で、華道の「立花」、「吟醸造り」、「京料理(会席)」を重要無形文化財に新たに指定し、池坊專永氏、農口尚彦氏、髙橋英一氏の3人を保持者(人間国宝)に認定するよう文部科学大臣に答申した。生活文化の分野では初めての人間国宝となる。記者からは、受け止めと3人への期待に加え、コンテンツ産業の振興を掲げる政府の中で、文部科学省が生活文化をどう位置づけているかについて質問があった。
関大臣は、重要無形文化財の指定・認定基準に生活文化が新設されてから初めての指定・認定であり、大きな意義があると評価した。3人は今後、官報告示を経て正式に認定される。関大臣は3人に対し、後継者の育成を通じた技の継承と、魅力発信のけん引役を担ってほしいとの期待を示した。文部科学省は生活文化を日本の重要なコンテンツと位置づけ、他の文化芸術分野との組み合わせによる新たな魅力や観光コンテンツの創出などに取り組む考えだ。
原子力人材の育成、アカデミアの力を結集
経済産業省は10月7日、産業界、大学・研究機関、関係省庁などとともに「日本原子力人財コンソーシアム」(J-AHRC)を設立した。人材育成のロードマップの策定や、人材確保に向けた具体的な施策の立案・実行を担う組織で、文部科学省も発起組織の一つに名を連ねる。記者からは、関係省庁として加わる文部科学省の役割と、特に力を入れる取り組みを問われた。
関大臣は、原子力を持続的に活用していくには、産業界のニーズを踏まえつつ、教育・研究を担うアカデミアの力を結集し、時代を担う人材を継続的に育てることが不可欠だと語った。J-AHRCでは今後、原子力人材の育成に関する課題や対応の方向性が議論され、ロードマップが策定されると承知しているという。文部科学省としては、アカデミアを中心とした「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム」(ANEC)の事業の制度設計を進める。多様なアカデミアとの連携を支える中核である国立研究開発法人日本原子力研究開発機構についても、研究施設や教育・研修などの人材育成機能の一層の強化に取り組む。いずれもJ-AHRCのもとで産学と連携しながら進める方針だ。
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