AIが代行する買い物、特商法上の評価は現時点で困難 消費者庁長官
消費者庁の堀井奈津子長官は2026年10月15日の記者会見で、AIエージェントが人に代わってインターネット通販で商品を購入する「エージェンティックコマース」について、個別の事案ではない一般的な話として特定商取引法上の法的評価を行うことは、現時点では難しいとの考えを示した。会見では、10月の「食品ロス削減月間」に合わせて「令和8年度消費生活意識調査(第2回)」の結果を公表し、消費者庁新未来創造戦略本部が徳島県と連携して働く障がい者向けの消費者教育研修を始めることも発表した。質疑ではこのほか、不正アクセスに関連する消費生活相談の状況や、奈良の認定こども園で凍らせたゼリーを喉に詰まらせた男の子が亡くなった事故についても考えを述べている。
AIが購入を代行する取引と特定商取引法
エージェンティックコマースをめぐっては、国内のECモールを中心に準備が進んでいる。記者からは、消費者庁が所管する特定商取引法(特定商取引に関する法律)に照らして問題点はあるかという質問が出た。
Photo by Add Win/ Adobe Stock
堀井長官はまず、特定商取引法の規定に照らして問題があるものには同法で対応していくと述べた。同法は通信販売について販売業者などが守るべきルールを定めており、広告や最終確認画面の表示義務、誇大広告の禁止、契約の解除を妨げるための不実告知の禁止などがある。そのうえで、エージェンティックコマースはAIの提供主体やAIによる代行行為の範囲などについてさまざまな形がありうるとし、個別の事案ではない一般的な話として法的評価を行うことは、現時点では難しいとの考えを示した。
国内でエージェンティックコマースを始めることは可能かという追加の質問に対しては、販売業者や役務提供事業者が特定商取引法上の義務に沿って対応できているかを見ることが第一だと答えた。エージェンティックコマースが加わることで影響が出るのか、新たに考えなければならない要素があるのかは未知数だとして、どのような事案があるかをよく見て判断するとした。
AIをめぐっては、内閣府の消費者委員会が設けた「人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会」で議論が進んでいる。堀井長官によると、対話型AIやエージェント型AIが消費者の意思決定の過程に与える影響についても議論されているという。消費者庁は、個別の事案には既存の所管法令に照らして対応しつつ、消費者委員会での議論などを注視しながら、AIエージェントなどの新しい手法を用いた取引の状況把握に努めるとしている。
食品ロスを認知し削減に取り組む人は74.6%
堀井長官は会見の冒頭、10月の「食品ロス削減月間」に合わせ、「令和8年度消費生活意識調査(第2回)」の結果を公表した。調査は2026年9月3日から7日にかけて、全国の15歳以上の男女5,000人を対象にインターネットで実施された。食品ロス問題を「知っている」と答えた人は79.1%で、前年度は81.2%だった。年代別では70歳代以上が90.5%で最も高く、30歳代が65.2%で最も低い。堀井長官は、10歳代の認知度が約8割と高かったことについて、学校教育などで食品ロス問題を取り上げる取組が影響しているとの見方を示した。
賞味期限・消費期限を正しく理解していると答えた人は73.0%だった。一方、食品を購入する際に「消費予定に関係なく、なるべく期限の長い商品を購入している」と答えた人は41.3%にのぼる。より多くの人が家庭で余った食品を寄附できるようにするための取組では、「食中毒等が起こらないように、寄附先が食品の安全に配慮し、適切な温度管理や衛生管理をしている」ことを効果的とした人が31.4%で最も多かった。ただし、「寄附をしたくない」と答えた人も36.3%いた。各年代と比べると、70歳代以上は寄附に肯定的な傾向がうかがえるという。
直近1年間に飲食店で料理を食べきれなかった際の対応を尋ねた設問では、「食べきれなかったことはない」が45.9%で最多となった。食べきれなかった料理を持ち帰らなかった理由では、「持ち帰るという発想自体がなかったので、持ち帰らなかった」の8.5%が最も高い。堀井長官は、食品ロス問題の認知度を上げることが、持ち帰りという行動や発想につながるのではないかと述べた。
食品ロス問題を認知して削減に取り組む人の割合は74.6%で、前年度は77.2%だった。2025年3月25日に閣議決定された「第2次食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」は、「食品ロス問題を認知して削減に取り組む消費者の割合を80%とする」という目標を設定している。
堀井長官は、別途配布した調査結果の資料をもとに、家庭で捨てられがちな食品として野菜類や日配品が多いことも紹介した。品目別では、もやしやキュウリ、パン類、惣菜類が捨てられる頻度が高いという。日常的に使う食品をもう少し意識して、効果的に使うことが大切だと述べた。
「てまえどり」の実践、10歳代で伸び
堀井長官は、食品ロスを減らすには問題を知るだけでなく、削減につながる消費行動を実際に選ぶことが重要だと強調した。例として挙げたのが「てまえどり」で、すぐに使う食品を商品棚の手前から取る行動を指す。スーパーなどで食品ロスを減らす効果が期待できるとして、消費者庁は前年度に続き、食品ロス削減月間に合わせて全国のコンビニエンスストアで呼びかけを行っている。
堀井長官によると、てまえどりを知っている人の割合と、知ったうえで実践している人の割合は、いずれも各年代で伸びており、特に10歳代で伸びが見られたという。消費者に対しては、すぐ食べる食品を購入する際に無理のない範囲で協力してほしいと呼びかけた。あわせて、賞味期限は「おいしく食べることができる期限」、つまり「おいしいめやす」であることを理解してほしいと述べた。メディアの協力も得ながら期限表示の正しい理解などを周知啓発し、国民運動として食品ロス削減を進める考えだ。
10月30日には、那須塩原市と全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会が主催する「第10回 食品ロス削減全国大会in那須塩原」が栃木県那須塩原市で開かれる。消費者庁、農林水産省、環境省が共催し、消費者庁と環境省が主催する令和8年度「食品ロス削減推進表彰」の表彰式も、大会のプログラムの一つとして予定されている。
徳島で働く障がい者向けの消費者教育研修
2点目の発表は、消費者庁新未来創造戦略本部が徳島県と連携して実施する、働く障がい者向けの消費者教育研修である。消費者庁は「消費者教育の推進に関する基本的な方針」に基づき、学校や地域、家庭、職域など、ライフステージに応じたさまざまな場で消費者教育を進めている。徳島にある新未来創造戦略本部は今年度、モデルプロジェクトとして職域での従業員向け研修の充実に取り組んでおり、今回の研修はその一環に位置づけられる。働く障がい者の消費者被害の未然防止と、主体的な消費者力の向上が目的だ。徳島県庁の消費者行政部局や福祉部局とも連携する。
第1弾として、障がい者支援施設「眉山園」「社会就労センターかもな」(徳島市南庄町5丁目77-3)で、10月27日から11月21日にかけて計4回の研修を開く。全体研修は10月27日と11月21日の2回で、徳島県消費者教育コーディネーターが講師を務める。内容は、ワークシートを使った計画的なお金の使い方、クイズ形式による消費者トラブルの理解、トラブルに遭ったときの相談先などである。11月5日と11月17日には、消費者庁新未来創造戦略本部客員アドバイザーを講師とする知的障がい者向けの小規模研修を行い、障がいの特性に合わせて被害に遭わないための知識を深める。
消費者庁新未来創造戦略本部と徳島県は、研修を地域や施設で継続的に実施できる仕組みづくりにも取り組む。堀井長官は、参加者が消費者トラブルへの理解を深め、困ったときに周囲の人や相談機関に相談する力を身につける機会にしたいと語った。
堀井長官はあわせて、10月17日に徳島市で開催される「国際消費者シンポジウム in 徳島 2026」も紹介した。会場参加の申し込みは多くの登録があり、すでに締め切っているが、オンラインでは事前登録なしで視聴できる。
不正アクセス関連の相談は約180件
記者からは、情報漏えいの問題が話題になっていることを受け、関連する相談の状況についても質問があった。全国の消費生活センターなどに寄せられた個人情報に関する相談のうち、不正アクセスに関連する消費生活相談は、10月12日までの今年度分で約180件だった。前年度の同じ時期も約180件で、ほぼ同じ水準である。この件数は、国民生活センターと全国の消費生活センターなどを結んで相談情報を蓄積するPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録された情報に基づく。登録までに若干の時間差がある可能性があり、堀井長官は直近の相談がすべて計上されているわけではないとして、今後の件数にこれまで以上に注意していく考えを示した。直近の相談が件数に反映される時期については、各自治体の相談員の入力状況などにもよるため、一概には言えないという。
寄せられた相談としては、不正アクセスによる個人情報の流出への不安や今後の対応についての相談、個人情報の漏えいがあったというメールが届いたが詐欺ではないかという相談、個人情報が流出して不正利用されたという相談の3つが紹介された。堀井長官によると、会見の時点で印象として最も多いのは、流出への不安や今後の対応についての相談だという。消費者庁消費者政策課は、今年度は「事業者から『不正アクセスによって個人情報が漏洩した』と連絡があった」「今後の対処方法を聞きたい」「心配だ」といった相談が寄せられていると説明した。前年度の同じ時期にも「不正アクセスについてどうすればよいか」といった相談はあったが、必ずしも個別の業種に集中していたわけではない。「不安だ」「どう対応したらいいか」という点は共通するものの、業種には最近のものと異なるところもあるとしている。堀井長官は、相談の詳しい内訳はすぐには示せないとしたうえで、相談内容が少しずつ異なり類型化が難しいとも説明した。
不正利用されたという相談のその後について、堀井長官は、各消費生活センターがさまざまな対応をしているものの、個々の相談をどう扱ったかまでは把握していないと説明した。そのうえで、消費生活センターなどでは消費生活相談員が警察や弁護士、今回の不正アクセスに関わる事案では信用情報機関といった専門機関を紹介するなどして、相談者を支援していると述べた。不安に思うことがあれば、消費者ホットライン「188(いやや!)」に相談してほしいと呼びかけている。
堀井長官は、被害を防ぐための対策にも触れた。流出した個人情報の悪用を防ぐ対策としてはIDやパスワードの変更を挙げ、今後の被害を防ぐ対策として4つの点を示した。1つ目は同じIDやパスワードの使い回しを避けること、2つ目はスマートフォンでの認証やワンタイムパスワードなどの多要素認証を利用することである。3つ目として、クレジットカードやキャリア決済、インターネットバンキングの利用明細をこまめに確認し、不審な利用がないか気をつけるよう求めた。4つ目は、事業者や公的機関などのSNSやメールを見る際にフィッシングを疑うことだ。記載されたURLにはアクセスせず、事前にブックマークした正規のサイトや正規のアプリからアクセスするよう促している。
ゼリー事故受け、子どもの食事に注意喚起
記者からは、奈良の認定こども園で9月に3歳児クラスの男の子が凍らせたゼリーを喉に詰まらせ、10月に入って亡くなった事故についても質問があった。堀井長官は、今後、事故の原因などの検証が進められるとの見通しを示したうえで、大変痛ましい事故だと述べ、家族など関係者にお悔やみを申し上げた。
堀井長官は、一般に子どもは噛み砕く力や飲み込む力が発達していないと指摘した。そのうえで、凍っているかどうかにかかわらず、口の大きさよりも小さく丸いもの、つるっとしたもの、硬くて噛み切りにくいものは丸ごと飲み込んでしまう可能性があると注意を促した。こども家庭庁が作成した「教育・保育施設等における誤嚥事故防止のための食材整理表」は、使用を避ける食材や調理を工夫する食材を示しており、こうした資料も参考になるとした。
消費者庁もこれまで注意喚起を行ってきた。事故を防ぐために気をつけてほしい点として、堀井長官は、食品の形状に応じて切って用意すること、子どもが良い姿勢で食べるよう気をつけること、子どもの発達の状況を見ながら食べさせる食品を選ぶことを挙げた。さらに、食べさせる前に「この大きさで大丈夫か」と立ち止まって考えてほしいと呼びかけた。年齢などの発達の状態によって噛み砕く力や飲み込む力は変わり、適切な食材や調理方法も異なるとして、食事を与える際に改めて考え、同じような事故が二度と起きないよう注意してほしいと話している。