千葉から上場スタートアップを輩出へ 起業家育成のコミュニティをつくる

千葉県から上場を果たす有力な起業家を輩出するために、2021年に活動を開始したのが一般社団法人千葉イノベーションベースだ。発起人の一人であるファインドスターグループの代表、内藤真一郎氏は「起業家が育つためには、質の高いコミュニティが欠かせない」と語る。

全国で続々と誕生する
起業家育成のコミュニティ

内藤 真一郎

内藤 真一郎

株式会社ファインドスターグループ 代表取締役
一般社団法人 千葉イノベーションベース 理事
1967年鹿児島県出身。大学卒業後、リクルート人材センター(現:株式会社リクルート)に入社。1994年に退職し、1996年に株式会社アレスト(ファインドスター)を創業。ニッチメディアの広告代理事業に参入し、業界のパイオニアとして3000社以上のニッチメディアを発掘。2015年に株式会社ファインドスターグループを設立し、代表取締役に就任。

千葉イノベーションベース(CIB)の発起人の一人、内藤真一郎氏は千葉県在住の起業家であり、自身が1996年に設立したファインドスターは、現在ではグループ全体の雇用数は800名以上、グループ企業は17社でうち社内起業が12社と数多くの起業家人材を輩出している。

地域での起業家育成にも力を注ぐ理由について、内藤氏は「企業の新陳代謝に乏しいことが日本の課題です。新しい企業がどんどん出てこないと、地域に活力が生まれません。起業家が社会を元気にする。起業家の育成は、大きな社会的意義があります」と語る。

近年、地元の起業家を支援する「イノベーションベース」の活動は全国に広がり、2020年に徳島で始まった後、岩手や長野、静岡などでも同様の取り組みが展開され、CIBもその1つだ。

「イノベーションベースの参考になったのは、起業家の世界的ネットワーク組織『EO』(アントレプレナーズ・オーガニゼーション)です。EOは年商1億円を超える会社の起業家のみが入会可能な世界有数の起業家組織であり、日本でも数多くの上場スタートアップを輩出しています。EOの仕組みを地方でも実践することを目指して、イノベーションベースは始まりました」

質の高いコミュニティが
起業家の成長を支える

月1回の「月例会」やクローズドな勉強会において、起業経験者だからこそ伝えられる知識や悩みをシェアし、横のつながりを強化している。

月1回の「月例会」やクローズドな勉強会において、起業経験者だからこそ伝えられる知識や悩みをシェアし、横のつながりを強化している。

CIBでは月1回、千葉にゆかりのある経営者が講演する「月例会」を公開イベントとして開催するほか、会員だけが参加できるクローズドな勉強会やフォーラムを定期的に行い、起業経験者だからこそ伝えられる知識や悩みをシェアし、横のつながりを強化している。内藤氏はCIB会員向けに「内藤塾」を開講し、少人数でのメンタリングも行っている。

「起業家が育つためには、質の高いコミュニティが欠かせません。千葉県の起業環境の課題は、小規模な企業が多いことです。成長志向が旺盛な企業は東京に進出する一方、千葉にとどまっている企業は事業拡大への意欲に乏しく、現状に安住してしまう傾向があります。こうした環境では、大きな成長を目指す起業家が生まれづらい。大きな目標を掲げて、お互いに切磋琢磨するのを当たり前とするようなコミュニティが地方にも必要です。CIB設立の背景には、そうした問題意識がありました」

内藤氏自身はリクルートグループを経て、20代後半で起業した。自身の起業家としてのキャリアは「コミュニティに恵まれました」と振り返る。

「私の周りに成長志向の高い起業家がたくさんいました。起業した当初、私は前期から少しでも増収増益を達成すれば、それでいいと考えていました。でも、友人の起業家は社員が4~5人しかいない頃から『売上高100億円』を皆の前で公言し、その高い目標から逆算して経営を考えていた。結果、その企業は売上高100億円をはるかに超え、1000億円を見据える規模に成長しました。そうした起業家から刺激を受け、大きなビジョンに向けて挑戦するのが当たり前だと思えるコミュニティにいたことで、私は成長できました」

どのようなコミュニティに所属するかは、起業家の成長に多大な影響を及ぼす。内藤氏はCIBにおいて、後進の起業家たちに数々の教えを授けている。

「スタートアップが大きく成長するためには、トップのリーダーシップや人間性が問われます。創業間もないブランド力のない企業に人を集めて、彼らをやる気にさせるには、トップのリーダーシップや人間性が欠かせません。社長が購入する高級車のために、頑張る社員はいない。経営者の器以上に会社は大きくならないというのは本当です。私は、起業家たちにリーダーシップや人間性の大切さを何度も説いています」

2022年11月、千葉イノベーションベース(CIB)主催の1周年イベント「Innovation Conference 2022」を開催。

2022年11月、千葉イノベーションベース(CIB)主催の1周年イベント「Innovation Conference 2022」を開催。

社内起業家を生み出す仕組み、
ロールモデルの存在が重要に

前述のように、内藤氏が率いるファインドスターグループは、数多くの社内起業家を輩出している。

「当社は起業したい若者を積極的に採用し、彼らを支援しています。私が勤めていたリクルートグループは起業家輩出企業と言われますが、起業する社員に対して出資まではしません。それに対して孫正義さんは、社外の起業家に出資することで、グループ内に起業家人材を取り込んでいます。私はそれらを両立させる形で、社内から人材を輩出し、かつ出資もする。こうしたやり方が、会社・社員の双方にとってwin-winだと考えています」

ファインドスターグループが数多くの社内起業家を輩出できたのは、最初のロールモデルの存在が大きいという。

「誰かが起業して成功すれば、それを目の当たりにした他の人たちが『自分も』と後に続くようになる。ファーストペンギンがとても重要です」

内藤氏は今、CIBで第一号となるロールモデルの輩出に力を注いでいる。

「成功例がないと、人は寄ってきません。千葉から上場できるというロールモデルを示せば、雰囲気は一気に変わると思います。CIBの活動を始めて、千葉には優秀な人材がたくさんいると実感しました。今後の展開にとても期待できます」

また、産学連携による起業家教育にも力を入れていく考えだ。

「つい最近、千葉大学でベンチャー経営の講義を担当しましたが、若い世代に『ベンチャー起業』という選択肢を広げるためには、産学連携は絶対に必要です。将来的には、中高生向けの起業家教育もできればと考えています」

千葉から世界を驚かすような起業家を輩出するために、内藤氏は活動を本格化させている。