千葉を拠点に産官学で連携、小中高生のアントレプレナーシップを育む
2021年12月に発足した「ちばアントレプレナーシップ教育コンソーシアム Seedlings of Chiba」は、千葉県や都内の産学官が連携し、小中高生に起業家精神を育む教育プログラムを提供する団体だ。JFEスチールやZOZOなども協力し、子どもたちに実践的な学びを届けている。
実社会での挑戦を通して、
子どもたちの起業家精神を育む
吉川 亮
Seedlings of Chiba(以下、Seedlings)の事務局長を務めるプロシードジャパンの代表・吉川亮氏は、2010年からSeedlingsの前身となる企画「西千葉子ども起業塾」(以下、起業塾)に携わってきた。
「起業塾は千葉市と千葉大学教育学部が連携して推進し、小中学生が実社会でのチャレンジを通して、会社や経済の仕組みを学ぶプログラムです。教員を目指す教育学部生などの大学生が中心となって運営しています」
JFEスチールと連携したプログラムでは、同社が開催している工場見学会のお土産として、子どもたちがバウムクーヘンを提案。製鉄はロール状で出荷されるが、それが「バウムクーヘンのようだ」という子どもたちの発想をもとに商品は企画された。千葉市内の製菓メーカーに製造を依頼し、「鉄鋼バウム」という名称を付け、オリジナルパッケージも開発。実際に採用され、JFEスチールの工場見学会でお土産として配られた。
「提案して終わりではなく、子どもたちが自ら実践し、納品まですることを重視しています。子どもたちに社会の一員としての責任を持たせ、一連の体験を通して、自分が社会から認められている、期待されている存在であり、力を発揮すれば社会を動かせるのを実感してほしいと考えています」
吉川氏をはじめとしたスタッフも子どもたちと一緒に本気で取り組み、挑戦を後押ししていく。
「『子どもだから』と過度にハードルを下げるのではなく、子どもたちを一人の社会人と見て、時には厳しい指摘もします。実社会に近いプログラムですから、うまくいかずに不完全燃焼に終わる時もあります。苦い経験も糧にして、次の一歩を踏み出す力にしてほしいと考えています」
産官学連携で多彩な活動を展開、
アントレ教育を身近なものに
「起業塾」は2012年に経済産業省が主催するキャリア教育アワードで審査員特別賞を受賞するなど、成果をあげていたが、基本的に年1回のみの開催であり、参加できる子どもの数は限られていた。もっとたくさんの子どもたちに、アントレプレナーシップ教育の機会を広げていきたい。そうした想いで、Seedlingsは設立された。
SeedlingsにはJFEスチール、千葉銀行、ZOZO、イオン環境財団、千葉大学、千葉経済大学、敬愛大学、千葉市などが会員に名を連ねる。多様な企業・大学・自治体の協力を得ることで、幅広い活動が可能となった。さらに最近は、運営メンバーとして子育て中の個人や中高生の参加希望者も増えている。
「未来の千葉を担う子どもたちのアントレプレナーシップを育成するという想いを共有したメンバーたちが、それぞれが持つ強みを持ち寄り、小中高生向けにプログラムを提供しています。私たちが目指しているのは、起業家を輩出することではなく、子どもたちの起業家精神を育むこと。自らの意志をもって自分の人生を切り拓く力を身に付けてほしいと考えています」
現在、Seedlingsは「起業塾」を引き続き実施しているほか、たくさんの子どもたちにアントレプレナーシップ教育を届けるために、学校現場への出前授業に力を入れている。
SeedlingsはNPO法人企業教育研究会(理事長:藤川大祐 千葉大学教育学部教授)らのアントレプレナーシップ教育教材の開発に協力。その教材『ひな社長の挑戦』は、未来の架空都市を舞台に女子中学生の「ひな」が地域課題解決に向けて起業を志し、会社を立ち上げるというストーリーに生徒が伴走し、「ひな社長」へのサポートを通して事業づくりの基礎を体験する。Seedlingsは、同教材の中学校や高校での活用を進めている。
また、企業と連携した教育プログラムの展開も広がりを見せている。2022年から実施しているZOZOとの協力企画では、中学生が学校で着る服装を自分たちで企画。誰かが決めた「制服」という枠組みから脱却し、生徒が自分たちの価値観で主体的に「制服」の在り方を考えていく。それもアイデアベースで終わりにするのではなく、今後、実現に向けたアクションを検討している。
イオン環境財団との協力企画では、子どもたちが千葉市動物公園の魅力をPRする動画を作成。子どもたちは千葉市動物公園の「職員」となり、SDGsなどの社会課題に触れながら、プロのカメラマンや映像制作プロデューサーの協力も得て、自分たちで撮影・編集を行った。そのPR動画は、千葉市の公式YouTubeチャンネルで公開されている。
「子どもたちが自らの想いを大切にするとともに、実社会に近い環境の中で、誰かの役に立っていることを実感する機会になっています。自分たちの頑張りによって、誰かに喜んでもらえる楽しさが起業家精神を育んでいきます」
吉川氏はSeedlingsの今後に向けて、小中高生が混合でチームを組み、異世代間の創発を促すようなプロジェクトを立ち上げていきたいと語る。
また、アントレプレナーシップ教育をより身近なものにしていきたいと展望を描く。
「例えば、図書館に置いてもらえるような書籍を制作し、ふとした瞬間にアントレプレナーシップ教育の世界に触れられるようにすることも考えられます。または、公園の遊具に仕掛けがあっても良いかもしれない。私の想いとして、一部の特別な人たちだけがアントレプレナーシップ教育に取り組むのではなく、障がいのある人なども含めて、あらゆる人が享受できるものにしたい。アントレプレナーシップ教育を、もっと日常に寄り添うものにしていきたいと考えています」