事業の構想を実現する力とは きれいごと抜きの現場実例

事業構想大学院大学(MPD)の修了生と教員が、構想の実装状況を報告し合う対話の場、MPDダイアローグ。第4回は「ローカルに根ざした事業から未来をデザインする」をテーマに開催された。登壇した修了生は皆、大学院で練り上げた構想を社会で実体化させている。そこには、単なる「きれいごと」ではない泥臭い実践や、現実に直面する壁を乗り越える試行錯誤がある。本イベントでは、こうした実地に即した議論が展開された。

地域活性化を「挑戦者の循環」と再定義
人口減少を前提としない場所の文脈

司会進行を務めた鏡 晋吾(東京校8期修了生 / 事業構想研究所 客員教授 / 渋谷新聞・原宿表参道新聞 副代表 / 渋谷区SDGs協会 事務局長)は、地域活性化の本質を「挑戦者を育む循環づくり」にあると提起した。これまでの地域活性化は人口維持や需要回復に固執し、補助金などの手段に引きずられがちであったが、鏡は「魅力的な地域とは、重層的な生活領域の中で、多様な個性が混ざり合い、新しいことに挑む『出る杭』が次々と現れる場である」と説く。

鏡自身、森ビルでの建築設計や企業広報、さらに化粧品・食品の商品開発やオーガニックカフェの運営という多彩なキャリアを経て、現在は「渋谷新聞」の運営や、地域課題解決を推進する渋谷区SDGs協会の事務局長として、あらゆるセクターを繋ぐ「共助・共創」のハブとなっている。在学中に起業した「デルクイ総合研究所」では、あえて「デルクイ(出る杭)」を育成し、挑戦者を繋げる活動を継続。全国の現場を歩き、場所の文脈を読み解く挑戦者が育つ土壌を整えている。「情報と体験の掛け算から共感が生まれ、デルクイが連鎖することにより、持続的な場づくりが可能になる」と話した。

地域資源の再構築とフードシステム転換
循環型経済が導く新たな価値創造

重藤 さわ子(事業構想大学院大学 教授)は、資源・経済の視点から地域の衰退の経緯を紐解き、地域を「消費の場」から「生産の場」へ戻す必要性を指摘した。かつて地域は生活資材やエネルギー・食料を生産し、地域内で循環させながら地域の外に売っていた。近代化が激変させた「外部依存」の資源・経済の構造から脱却させ、地域の独自性を活かした循環型経済(サーキュラーエコノミー)として再構築することが地域の持続可能性につながる。

これに関連し、田村 典江(事業構想大学院大学 准教授)は、現代の主流のフードシステムは持続不可能であること、転換が必要であることについては広範な合意があるが、具体的にどう転換を進めるかについてはまだ明らかではないことを解説した。望ましい食と農のあり方には、多様な方向性が存在しうる。持続可能性の強・弱もまた、方向性を指し示す手がかりとなりうる。既存の枠組みを脱し、望ましい未来に至る道筋を描くためにも、事業構想が必要である。

バリューチェーンの川上へ踏み込む
広島・大崎上島から共同出資法人「LEMONITY」へ

既存モデルを突破するヒントは、企業のバリューチェーンを垂直統合する姿勢にある。土屋 淳一(東京校5期修了生 / 事業構想大学院大学 特任教授 / ポッカサッポロフード&ビバレッジ株式会社 原料ビジネス推進部部長)は、原料責任者として「農業・産地」へ直接関与するモデルを提示した。

土屋は2019年から広島県大崎上島町においてレモン産地振興に着手。大企業の効率論理と、時間のかかる農業現場との「時間軸のズレ」という壁に直面しながらも、耕作放棄地の再生や就農者、移住者の増加という実績を「耕地面積」や「CSV」として数値化し、社内合意を取り付けた。この構想力は、2025年9月、3社共同出資による農業法人「株式会社LEMONITY(レモニティ)」の設立へと結実した。10年以内には広島県、静岡県を中心に100haの生産面積を目指し、国産レモンの安定供給と、機械化による持続可能な生産体系を構築する。一社で抱え込まず共同出資という形をとることで社会的インパクトを最大化させる手法は、企業の永続性を担保する。

「実装」を求める現場で
感情のキャッチボール

また、新規事業の成否を分けるのは、現場を動かす「実装力」だ。洲崎 賢治(東京校10期修了生 / 一般社団法人風街浪漫舎 代表理事)は、群馬県嬬恋村での活動を通じ、「構想を練ることも重要だが、地方の現場は実装を求めている」と断言する。嬬恋村での行政と連携した地域活性活動は10年以上になるが、3年前に民間主導の「嬬恋村あいさいの村づくり構想」を立案・牽引し、1本400円で売れるトウモロコシのブランディングや、古民家を活用した多世代交流の拠点作りを次々と展開。重要なのは地域住民との「心の対話」であり、都市と農村の物理的な距離の問題も「心の距離」で測り直すことが重要と語った。

長谷川 弘幸(東京校11期修了生 / NEXCO東日本 / かずさファーム研究所 代表)は、実家である千葉県君津市の米農家を継承。地域側の不安と都市部側の遠慮という壁を、「食への感謝(いただきます)」という共通言語で突破した。地域の高齢者を「教える先生」として立てることで彼らに誇りを提供し、都市部の家族を呼び込む体験型教育の仕組みを構築。長谷川は「『いただきます』という感謝を忘れ、食を単なる消費として扱う距離感」を課題例として挙げる。農地に北海道やボルドーのような果てしない景観を取り戻したいという長谷川の想いは、目の前の食に感謝し、地域を見つめ直すアプローチとして事業を現実化させている。

各自の登壇後にはディスカッションが行われた。そこで話し合われたのは、事業構想は現場での対話からしか生まれないということ。MPDの修了生たちは、在学中に培った「問い続ける姿勢」を武器に、場所やそこに関わる人への愛着を具体的な事業へと昇華させている。彼らが体現する「構想の現実化」のプロセスこそ、変化の激しい時代において、未来の事業をデザインするための最強の原動力となる。