【議事録詳報】社会教育士の「専門性」を再定義、単なるスキルからマインド・人権感覚へ 中教審・特別部会
文部科学省は6月5日、4月に開催された中央教育審議会生涯学習分科会の「社会教育の在り方に関する特別部会(第17回)」の議事録を公開した。2026年度に入り最初の開催となった今回の会議では、社会教育主事・社会教育士の養成改善に向けたワーキンググループ(WG)の審議状況報告、および答申に向けた骨子案を巡り、委員間で議論が交わされた。
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今回の審議で焦点となったのは、全国に広がりを見せる「社会教育士」の専門性をどう捉え直すか、指示される地域の社会教育活動の拠点「公民館」の将来像をどう描くかという2点だ。これまでのテクニカルな能力提示から一歩踏み込み、共生社会の担い手にふさわしいマインドや人権感覚の重要性を指摘する声が相次いだ。
「二階建て」は見送り、現行8単位を維持しつつカリキュラムを見直し
議題の第1では、「社会教育主事・社会教育士養成等の改善・充実に関するワーキンググループ」の主査を務める青山鉄兵・文教大学人間科学部教授が、これまでの審議状況を報告した。
当初の検討課題の一つであった「社会教育主事と社会教育士の養成を段階的な二階建て構造にするか」という点について、WGでは「社会教育士に対する社会的な信頼性を保つ観点から、単位数の削減には慎重であるべき」との結論に達した。現行の8単位を維持した上で、社会教育士の多様なニーズにマッチし、かつ受講のしやすさを向上させる方向でカリキュラムの組み替えを進める方針が示された。
具体的には、オンラインや土日夜間開催のさらなる促進、学芸員や司書課程、民間団体の研修等との単位互換・分割履修の柔軟化などが盛り込まれた。さらに、より平易かつ短期間で基礎的な内容を学べる「導入的講習」を講習の手前に位置づけ、他分野の実務経験者も含めて幅広く受講生を呼び込む裾野拡大策を打ち出している。
これに伴い、従来の「社会教育主事講習」という名称についても、より汎用的な「社会教育講習」などへ変更することを視野に検討が進められている。
単なる「場を回すスキル」からの脱却 求められるアセスメント力と人権感覚
神山弘・社会教育振興総括官から論点が提示されると、委員からは社会教育士に求められる資質や専門性についての問題提起が相次いだ。
これまで社会教育人材の基盤として定着していた「コーディネート能力」「プレゼンテーション能力」「ファシリテーション能力」の3要素について、関福生委員(愛媛県新居浜市教育委員会生涯学習センター所長)は「テクニカルなスキル部分として特化してしまい、それさえあれば現場で力が発揮できるような気がしてしまうのが不安」と指摘。正解のない地域課題に対し、住民の中に入って新しいつながりを生み出す力こそが本質であると語った。
青山主査もこれに応じ、「『ファシリテーション』という言葉が、単にワークを回す表面的な進行スキルや会議の進行役という意味で捉えられがちになっている。技術だけでなく、社会教育らしい学習支援の原理やマインドセットを伴った方法論として位置づけ直さなければならない」とした。
また、NPO法人ふくおかNPOセンター代表・北九州市立大学大学院マネジメント研究科教授の立場から参画する古賀桃子委員は、プラスアルファの専門性として「主体性の涵養」「チームビルディング手法」に加え、「課題解決の手前にある課題の着眼や設定の必要性」を挙げた。社会福祉士が持つ「コミュニティソーシャルワーク(CSW)」のアセスメントノウハウを社会教育でも有効活用できるのではないかと提案した。
小見まいこ委員(NPO法人みらいずworks代表理事)は、次期学習指導要領やこども基本法などの動向を踏まえ、「多様性の包摂が重要なキーワードになる中、外国にルーツのある方、障害のある方、子供や若者といった一人一人と向き合う『人権感覚』や『多様性への理解』が前提にあるべき」と強調。スキルが先走る現状を戒め、何のためにその能力を使うのかという目的意識の明確化を求めた。
さらに、社会教育士の認知度やキャリアパスに関する課題も浮上した。小見委員は、知り合いに社会教育士の取得を勧めたところ「キャリアにつながらないのでキャリアコンサルタント資格を取る」と言われたエピソードを明かし、大学や企業、NPO、自治体において社会教育士が優先的に配置されるような、社会的価値の確立が必要であると訴えた。
「地域コミュニティの機能低下」という表現への疑問と、公民館の「ネットワーク」化
答申に向けた骨子案の審議(議題2)では、骨子案の前提となる現状認識や、公民館をはじめとする社会教育施設の将来像について、より本質的な議論が展開された。
柏木智子委員(立命館大学産業社会学部教授)は、骨子案に記された「地域コミュニティの機能低下」や「家庭の教育機能の低下」という表現に対し、「一体いつの時代と比べて低下したのか。かつての地域社会には、理不尽な統制やジェンダー差別、マイノリティへの偏見が少なからず存在し、そこから逃げてきた側面もあるのではないか」と疑問を呈した。人権保障の観点からは現代の地域社会の方が成熟している可能性を指摘し、「かつての地域を美化して現状に駄目出しをするような表現ではなく、読んだ人が温かくなるような表現に見直すべき」と、多面的な視点からの記述変更を求めた。
後半の論点となった「公民館の将来像」についても、厳しい現実を踏まえた前向きな再定義が議論された。
古賀委員は、市町村による人員体制のばらつきや建物の老朽化、コミュニティセンターへの統廃合により社会教育事業自体が縮小している自治体の現状を挙げ、「『公民館』という単体の建屋だけで捉えると明るい見通しが立たない。しかし、児童館や市民センター、民間のコワーキングスペースなどと広域的に連携し、新たな機能を生み出している事例もある。将来的には、特定の建物がなくても、そうした多様な場を公民館機能と認定して社会教育が相乗りしていく形が現実的ではないか」との持論を述べた。
これを受け、柏木委員も「公民館の老朽化と重ね合わせ、これからは公民館を単一の施設ではなく、もう少し幅広なネットワークとして捉える観点が必要」と同調。多世代の居場所としての機能や、社会教育士が活躍するための拠点としての位置づけを強めていくべきだとした。
部会長を務める清原慶子委員(杏林大学客員教授、前東京都三鷹市長)は、委員から出された多様な視点や批判的検証を真摯に受け止め、「懐古主義ではなく、現実の人権意識の向上などを踏まえた記載に修正していく。社会教育士の専門性と制度的位置づけは喫緊の課題であり、より濃密で適切な答申案をつくっていきたい」と総括した。