国産ロボット連合、世界のロボット市場けん引目指す

日本を代表する大手企業が、フィジカルAIの分野で相次いで手を組んでいる。富士通株式会社は2026年7月16日、国産ロボットメーカーを代表するファナック株式会社、株式会社安川電機、川崎重工業株式会社の3社とともに、フィジカルAI分野における事業検討を開始すると発表した。半導体大手NVIDIAの技術を取り入れながら、デジタル空間と現実の機械をつなぐ協調制御基盤を開発し、製造、物流、ヘルスケアなど幅広い産業分野でフィジカルAIの社会実装を後押しする。人とロボットが同じ空間で共存・協働する社会をつくり、日本の産業競争力を高めることが狙いだ。

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その翌日となる17日には、シャープ株式会社も、ソニーグループ株式会社やソフトバンク株式会社などが出資する国産AI基盤モデル開発会社Noetra株式会社への参画を発表している。ロボットの現場から基盤モデルの開発まで、日本の主要企業がフィジカルAIをめぐって連合する動きが、2日続けて表面化した格好である。

労働力不足でフィジカルAIに期待

製造業をはじめとする多くの産業で、少子高齢化による労働力不足や熟練技術者の減少、グローバル競争の激化が課題として重くなっている。こうした課題を乗り越え持続的な成長を続けるには、現実世界の状況をAIが認識・分析し、その結果を物理的な動きとして実行する「フィジカルAI」への期待が高まっている。フィジカルAIは、ロボットや設備が周囲の状況を把握し、自ら最適な動作を判断して実行することで、作業の自動化や生産性の向上、品質の安定化、そして新しいサービスの創出を可能にする技術だ。ただし実現には高度なロボット制御技術と、現場の質の高いデータを生かすAIインフラ基盤の両方が必要であり、これらを結びつける協調制御基盤を1社だけで開発し広めるには限界がある。そこで富士通は、ロボット産業界を代表する3社と手を組み、フィジカルAIの社会実装とともに、協調制御基盤の共通化・オープン化を進めることにした。

とんかつ会食から始まった発表

発表は同日、都内で開かれた記者説明会で行われ、富士通の時田隆仁代表取締役社長CEO、ファナックの山口賢治代表取締役社長兼CEO、安川電機の小川昌寛副会長執行役員、川崎重工業の橋本康彦代表取締役社長執行役員、そしてNVIDIA創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏の5名が登壇した。時田社長によれば、5名は会見の直前にとんかつを共にしながら、世界と日本が抱える課題について意見を交わしていたという。時田社長は、5名が自社の事業領域だけでなく産業全体、さらには世界の持続的な発展を自分たちの課題として捉えて経営判断を行うという価値観を共有していると紹介し、今回の連携をその延長線上にある取り組みだと位置づけた。

工場・物流・医療で活用検討

事業検討では、まず工場、小売・物流、ヘルスケアの3分野を対象にフィジカルAIの活用を検討し、今後さらに対象を広げていく。工場向けには、生産の変動要因と製造現場の状況を踏まえて生産活動全体の計画を最適化し、現場の変化にロボットが自律的に対応できるようにすることで、生産性の向上と柔軟な生産体制を両立させる。小売・物流向けには、販売や在庫の状況をリアルタイムに反映した物流計画に基づき搬送業務を自動化し、現場の省人化につなげる。ヘルスケア向けには、病院内の業務システムからの指示をもとに最適化された計画に沿ってロボットが自律的にタスクを実行する仕組みを想定し、医薬品や検体の院内搬送の自動化、外来患者の受付・案内サービスへの応用を見込んでいる。

「富士通フィジカルOS」を開放

事業検討では、各社が持つAI、ロボティクス、制御、シミュレーション、データ分析などの技術を組み合わせ、フィジカルAIの共通基盤となるソフトウエアプラットフォームとハードウエアインターフェースを開発する。ロボットの活用範囲が広がり他の設備との連携が進むほど、サイバー攻撃やシステム全体の停止、誤作動、機密情報の漏洩といったリスクも高まるため、富士通はソブリン性を確保した協調制御基盤の開発を進める方針だ。記者説明会で時田社長は、この基盤を「富士通フィジカルOS」と呼び、賛同する企業や研究機関に開放し、オープンプラットフォームとして提供していく考えを明らかにした。

NVIDIA技術で開発を加速

富士通は事業検討の主体を担いながら、NVIDIAのフィジカルAIプラットフォームを構成するAI、ワールドモデル、シミュレーション、ロボティクスの各技術を取り入れる。具体的には、NVIDIA Cosmos世界基盤モデルを社会全体を対象とした物理シミュレーションの構成要素として活用し、現場全体の理解と予測の精度を高める。また、NVIDIA OmniverseやNVIDIA Isaacオープンプラットフォーム、物理エンジンのNewtonといったライブラリを使い、仮想空間での学習内容を実機の動きに反映するSim2Realの手法や、ロボットの学習・検証・最適化を効率化する。

シャープはNoetraに出資

この発表の翌日となる2026年7月17日には、フィジカルAIを支える基盤モデル開発の分野でも新たな動きがあった。シャープ株式会社が、ソニーグループ株式会社、ソフトバンク株式会社、日本電気株式会社、本田技研工業株式会社が中核となって出資するNoetra株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:丹波廣寅)に出資し、国産AI基盤モデルの実現に向けた枠組みに参画したと発表したのだ。

Noetraは2026年1月7日に設立され、同年6月1日に旧社名「株式会社日本AI基盤モデル開発」から現在の名称へ変更したのち、7月1日に事業を開始した会社で、AIロボットやフィジカルAIの開発基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルの研究開発を進めている。電機、自動車、製薬、建設、金融など幅広い業種から国内有力企業44社の出資を受けており(2026年7月16日時点)、シャープもその1社に加わった。Noetraと国立研究開発法人産業技術総合研究所は、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に採択されている。事業期間は2026年度から2030年度までで、初年度となる2026年度の委託費は約3873億円、2030年度までの総事業規模は約1兆円にのぼる見通しだ。

シャープの河村哲治代表取締役社長執行役員CEOは、2026年6月9日の事業説明会で、「暮らす」「働く」のあらゆる場面にAIを掛け合わせて人々の未来を切り開く方向性を示していた。今回の出資は、この方針のもとフィジカルAIの社会実装に関する知見や動向をいち早くつかみ、AI事業の展開に生かす狙いがある。シャープは、親会社である鴻海精密工業との連携でAIサーバーや衛星通信、EVなどの新規事業を加速させており、Noetraへの参画もその成長戦略の一環に位置づけられる。

各社トップが語った展望

ファナックの山口賢治社長は、富士通との協業によってロボットを活用したフィジカルAIの社会実装が大きく進み、加速することに期待を示した。ファナックはすでにオープンプラットフォームを用いたフィジカルAIシステムの活用を始めており、NVIDIAの技術とも統合された自律型AI基盤を持つ富士通と、ROS 2やPythonなどのオープンプラットフォームに対応した自社のロボット技術を組み合わせることで、柔軟で誰にでも使いやすいAIシステムを現場に届け、人手不足などの課題解決につなげたいと述べた。

安川電機の小川昌寛副会長執行役員は、同社が2017年に打ち出したソリューションコンセプト「i3-Mechatronics(アイキューブメカトロニクス)」を振り返り、この10年でAIやGPUの技術が大きく進化し、データ活用による自動化の可能性が広がってきたと説明した。安川電機はNVIDIAのGPUを標準搭載した自律型AIロボット「MOTOMAN NEXT」を市場に投入しており、ROS 2への対応を進めながら、ロボットをオープンなプラットフォームとして活用する方針のもとでフィジカルAIの社会実装に取り組んでいるとした。今回の連携についても、各社との協調を強めながら社会実装を加速させる価値があると期待を語った。

川崎重工業の橋本康彦社長は、高齢化や労働力不足が深刻な医療・介護分野で、ロボットとAIを組み合わせた新しいソリューションを生み出す必要性を強調した。川崎重工業は手術支援ロボットや、看護・介護を支える現場データと知見を長年蓄積しており、富士通の持つIT技術やデジタルプラットフォームと連携することで、来院から診察、治療、手術、術後ケアまでを一連でつなぐ「病院ワンストップソリューション」を実現できると確信していると述べた。

NVIDIACEOのジェンスン・フアン氏は、日本のものづくり文化を「匠」や「改善」、「看板」、「現場」といった言葉で評価し、ファナックや安川電機、川崎重工業が培ってきたメカトロニクス技術の精度の高さを紹介した。フアン氏は、フィジカルAIを次の産業革命と位置づけ、NVIDIAが提供する仮想空間構築の「Omniverse」や、ロボットのスキル学習を担う「Isaac」「Newton」といった技術が、日本のメカトロニクス技術と結びつくことで、産業自動化の新しい時代が始まると述べた。あわせて、この動きが大企業だけでなく、日本各地の中小規模の製造業にも広がる可能性があると語った。

富士通の時田隆仁社長は、ロボット産業界をリードする3社と事業検討を始められることへの期待を語り、各社が持つ世界トップレベルのロボット制御技術と、富士通のデジタル技術および高信頼のコンピューティング技術を結び付けることで、製造、物流、ヘルスケアをはじめとする幅広い産業分野で、人とロボットが協働する新たな社会基盤をつくっていく考えを示した。NVIDIAの先進的なフィジカルAI関連技術を取り入れながら、各業務アプリケーションとロボット制御技術をシームレスにつなぐ協調制御基盤の高度化を進め、世界へ展開していく方針も明らかにした。

日本発の産業革命へ期待

富士通は今回の事業検討を出発点に、具体的な技術開発と事業展開に向けたロードマップを策定していく。拡大が見込まれるロボット市場に対し、日本が持つ高いロボット制御技術と、質の高い現場データを生かす国産のAIインフラ基盤とを組み合わせて提供する仕組みを確立することで、世界のロボット市場を日本が引っ張る一歩にしたい考えを示している。フィジカルAIの社会実装を通じて、人とロボットが共存・協働する安全で豊かな社会を実現し、日本の産業競争力の強化に貢献していく姿勢だ。