【文科省議事録詳報】AI for Science、日米連携が加速

文部科学省は2026年7月15日、AI for Science推進委員会の第5回会合(同年6月29日開催)の議事録を公開した。川原圭博主査(東京大学大学院工学系研究科教授、内閣府人工知能戦略専門調査会委員)のもとで開かれた今回の会合では、AI活用型研究を支援する「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」の第1回公募結果や、米エネルギー省との戦略的パートナーシップの状況などが報告され、委員からは活発な意見が交わされた。

SPReAD採択456件、狭き門2.9%

文部科学省事務局はまず、SPReADの第1回公募結果を報告した。公募期間は2026年4月17日から5月18日正午までの約1カ月間で、応募課題数は15,868件、応募機関数は787機関にのぼった。これに対し採択された課題は456件(うち学生による採択は61件)にとどまり、採択率は2.9%という高い競争率になったという。

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応募者の属性を見ると、大学・研究機関の教員・研究者が応募・採択のいずれでも大半を占めた一方、民間企業や非営利団体の研究者からの採択は今回なかった。分野別では生命科学・薬学、電気工学・電子工学・情報科学・コンピュータサイエンス、臨床科学、社会科学などへの応募・採択が目立ち、AIモデル開発やデータ解析、シミュレーション・デジタルツイン、実験自動化など8種類のユースケースいずれについても採択実績があったことが示された。

事務局はあわせて、SPReAD申請者へのAIインタビューから浮かび上がった悩みも紹介した。最も多かったのはAIの出力に対する信頼性や精度への不安で、ハルシネーションやブラックボックス化を懸念する声が目立った。このほか、AI活用の経験不足による不安、モデルやツールの選び方が分からないといった声、学生やチームへの指導体制づくりの難しさ、機密情報ルールによる計算資源利用の制約、研究データの漏えいリスクや研究倫理上の線引きへの戸惑いなども挙げられたという。

こうした課題を踏まえ、文部科学省は採択者を中心とした「SPReADコミュニティ」の形成を進める方針だ。研究者同士がAI活用のノウハウを共有し合う場として位置づけ、7月下旬に研究開始のタイミングに合わせてキックオフを行う予定としている。なお第2回公募はすでに実施中で、7月3日正午が締め切りとなっている。

日本、ジェネシス・ミッション参加

続いて事務局は、米国の国家プロジェクト「ジェネシス・ミッション」との連携状況を報告した。日米の協力は2026年1月、文部科学省と米エネルギー省(DOE)の間で最初の意向表明書(SOI)が交わされたことに始まる。同年3月の日米首脳会談でもこの内容に言及があり、4月以降は暫定11領域を軸に、日米の研究者による具体的な連携協議が進められてきた。

そして6月4日(米国東部時間)、ワシントンDCで日米戦略的パートナーシップの署名式と発表イベントが行われた。署名したのは、DOEでジェネシス・ミッションの実務責任者を務めるダリオ・ギルDOE科学担当次官、文部科学省の柿田恭良文部科学審議官、経済産業省の松尾剛彦経済産業審議官の3者である。これにより日本は、ジェネシス・ミッションに参加する初の国際パートナーとなった。

協力の柱には、量子情報科学、核融合技術、バイオテクノロジー、重要材料、素粒子物理学、自動実験ラボといった先端分野が並ぶ。文部科学省とDOEはそれぞれ今後5年間で5億ドル、合計10億ドルの戦略的投資を計画しているという。非公表とされる今回のSOIの内容についても事務局から一部が紹介され、日米の研究者が互いの国の計算資源を同じ条件で利用できることが盛り込まれたほか、1月の枠組みには含まれていなかった経済産業省が新たに加わり、DOEと共にAI計算能力の強化に向けて連携していくことが確認された。

この報告を受け、北野宏明委員(ソニーグループ株式会社チーフテクノロジーフェロー、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長)は、先月出席したシカゴでの国際会議での経験を踏まえ、米国側の第一陣となる研究チームの決定は年内後半になる見通しだと述べた。そのうえで、日本側のカウンターパートをどう定めるか、ファンディングのタイミングを米国側と合わせる仕組みづくりが重要になると指摘した。これに対し文部科学省の豊田研究振興戦略官(人工知能活用担当)は、日本側の受け皿としては公募中のARiSEが主軸になるとの見方を示し、双方の状況を見ながらマッチングを進めていく考えを説明した。

Science for AIの模索

3つ目の議題では、AIを活用して科学を進める「AI for Science」に加え、科学の知見でAIそのものを高度化する「Science for AI」、AIの能力や限界、安全性を科学的に解明する「Science of AI」という2つの概念を強化していく方向性が事務局から示された。急速なAI技術の進展に伴い、解釈可能性や透明性、安全性、信頼性、さらには経済安全保障上のリスクが各方面で指摘されるようになったことが背景にあるという。

事務局は、この3つの概念が密接に絡み合いながら相互に発展していく関係にあるとし、その好循環を戦略的に推進することでAIと科学技術双方の飛躍的な発展を目指す考えを示した。そのうえで、日本の強みや特色は何か、国として力を入れるべき研究領域は何か、当面の課題と中長期的な方向性は何かという3点について、委員に幅広い意見を求めた。

意見交換では、津田宏治委員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)と大上雅史委員(東京科学大学情報理工学院准教授)がそろって、日本の研究者数の少なさを最大の課題として挙げた。大上委員は、理化学研究所のAIPセンターや産業技術総合研究所のAIRCといったAI研究拠点を見ても、純粋なAI理論を追究する研究者は少数派であり、国際会議での存在感を高めるには人材の絶対数が足りないとの見方を示した。一方で横山広美委員(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・学際情報学府教授)は、放射光施設やJ-PARCといった大型研究施設が生み出す高精度なデータこそが日本の強みであり、これまで投じてきた投資を今後も後押ししていくべきだと述べた。溝口照康委員(東京大学生産技術研究所教授)からは、日常的に使われる商用LLMを民間に委ねるのか、国として独自に取り組む部分を残すのか、その線引きに関する問題提起もあった。これに対し文部科学省の阿部参事官(情報担当)は、商用LLMの扱いを今すぐ左右する状況にはないとしつつ、科学分野で本当に必要とされるものが何かを見極めながら判断していく考えを示した。

泰地真弘人委員(理化学研究所最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部科学研究基盤モデル開発プログラム(AGIS)プログラムディレクター)は、これまでも日本はScience for AI・Science of AIの分野に先行的な投資をしてきたものの、それが大型のAI開発に結びつかなかった反省を次の計画に生かすべきだと指摘した。川原主査は、人材不足への懸念に理解を示しつつ、SPReADの応募状況を見る限り想定を上回る数の提案が集まっており、Science for AIの重要性を広く発信することで人材の裾野が広がる可能性もあるとの見方を述べ、議論を次の議題に引き継いだ。

2030年、500エクサフロップス級

4件目の議題では、文部科学省から調査委託を受けたアドバンスソフト株式会社が、2025年度に実施した「AI for Scienceの実現に向けた計算基盤等の動向調査」の結果を報告した。調査期間は2025年12月から2026年3月までである。

報告ではまず、AIによる研究プロセスの変革を、時間的制約を取り除く「知識の体系化と知見抽出」、シミュレーション時間を短縮する「現象予測と計算加速」、そして「実験検証の自律化」という3つの軸で整理した。そのうえで、材料・ライフサイエンス・気象環境の3分野における基盤モデルのパラメータ数や学習データ量を文献調査した結果、現在のAI for Science向け基盤モデルは汎用LLMと比べてパラメータ数が1桁から5桁小さい一方、学習データ量は同程度の規模にとどまっていることが分かったという。

アドバンスソフトは、スタンフォード大学のレポートが示す汎用LLMの成長速度、すなわちパラメータ数が9.6カ月ごと、学習データ量が8カ月ごと、演算量が5カ月ごとにそれぞれ倍増するというトレンドを基に、2030年時点で必要となる計算資源を試算した。その結果、最も計算資源を要するモデルで1モデルあたり500エクサフロップス(FP16)を0.15年から15日程度使用し、ストレージは64ペタバイト程度が必要になるとの見通しを示した。さらに研究者数の増加分も加味した全体推計では、2030年には年間で500エクサフロップス(FP16)、シミュレーション用途で10エクサフロップス(FP64)、ストレージは640ペタバイト程度の規模が必要になるとし、これはNVIDIAのGPUロードマップに換算するとおよそ12万基分に相当するという。

この試算に対し合田憲人委員(国立情報学研究所副所長・教授)は、モデルを学習させる研究者と、学習済みモデルを使って推論を行う研究者とでは人数の規模が大きく異なるはずだとして、その内訳の算出方法を質問した。アドバンスソフトは今回の推計が学習部分のみを対象にしたものであると説明し、合田委員は今後AI for Scienceが普及するにつれて推論を行う研究者が急増することを踏まえた検討の必要性を指摘した。高橋桂子委員(早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構上級研究員・研究院教授、NTT株式会社リサーチプロフェッサ)からは、試算された規模の計算資源を実現するうえでのボトルネック、とりわけ通信やインフラ、データ分散の設計に関する知見について質問があったが、アドバンスソフトは今回の調査ではその点まで踏み込んでいないと回答した。川原主査は、国として共有計算機資源の調達をどう進めるかという論点と、計算能力向上に資する要素技術の研究を支えるScience for AIの考え方をあわせて、今後も議論を続けていく意向を示した。

なお、5件目の議題である2027年度予算(令和9年度)の概算要求の検討状況については、AI for Science推進委員会運営要綱第2条に基づき非公開で意見交換が行われた。