【7月28日松本洋平文科大臣会見詳報】経団連・日商に奨学金代理返還「1万社」要請
文部科学省の松本洋平文部科学大臣は2026年7月28日の閣議後記者会見で、経済団体との意見交換や世界遺産登録など、直近一週間の主な動きについて説明した。奨学金の返還を企業が肩代わりする「奨学金返還支援(代理返還)制度」の普及拡大に向けた経済界への働きかけをはじめ、奈良県の「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産登録、デジタル教科書の導入基準、科学研究費(科研費)の拡充方針など、教育・学術分野の幅広いテーマが取り上げられた。会見の終盤には、23日に亡くなった作家・東野圭吾氏への追悼の言葉も述べている。
経団連・日商に代理返還制度の普及要請
松本大臣は2026年7月21日に一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)の筒井義信会長、24日には日本商工会議所(日商)の小林健会頭とそれぞれ面会し、企業による奨学金返還支援(代理返還)制度の活用促進と、企業における運動・スポーツ実施の促進について意見を交わした。
Photo by hamazou/ Adobe Stock
代理返還制度は、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の奨学金を借りていた社員に対し、企業が返還額の一部または全額を代わりにJASSOへ直接送金する仕組みである。社員本人の負担軽減にとどまらず、企業側にとっても支援額を損金に算入できるなど税制上のメリットがあり、人材の定着にもつながるとされる。JASSOによると、2026年3月末時点でこの制度を利用する企業は全国で4,852社にのぼる。
文部科学省は2027年度末までに利用企業数を1万社へ増やす目標を掲げており、約1400社の会員企業を擁する経団連と、全国515の商工会議所を通じて約126万の事業者とつながりを持つ日商(2025年11月時点)に対し、制度の周知や利用拡大への協力を求めた。両団体からは、制度の周知を含め連携して取り組みたいとの前向きな回答が得られたという。松本大臣は、経済界からのこうした反応が奨学金返済を抱える若者への力強いメッセージになるとの見方を示し、報道機関にも制度の発信への協力を呼びかけた。あわせて、従業員の健康増進や生産性向上につながる企業の運動・スポーツ実施の取り組みについても意義を説明し、両団体の賛同を得たと明かした。
「飛鳥・藤原の宮都」、国内27件目の世界遺産に
2026年7月26日、韓国・釜山で開催されていた第48回ユネスコ世界遺産委員会において、奈良県の明日香村や橿原市、桜井市にまたがる「飛鳥・藤原の宮都」の世界遺産一覧表への記載が決定した。宮殿・官衙跡や仏教寺院跡、古墳など19の構成資産からなり、日本にとって27件目の世界遺産となる。
松本大臣は、関係自治体をはじめ多くの関係者の尽力に感謝の意を表したうえで、今回の登録が文化遺産の保護・継承を促進するだけでなく、国内外での認知向上や地域活性化にもつながる意義を持つと述べた。今後は関係自治体や関係省庁と連携しながら遺産の保護に万全を期すとともに、受け入れ環境の整備などにも取り組む考えを示している。次の世界遺産候補の検討や暫定リストの拡充については、現在文化審議会で審議が進められている段階にあるとして、その議論の行方を見守る姿勢にとどめた。
辺野古沖事故、家宅捜索と告訴に論評控える
質疑応答では、沖縄県名護市辺野古沖で起きた事故を巡り、海上保安当局が学校を家宅捜索したことや、遺族が刑事告訴したとする報道について問われた。この事故は2026年3月16日、平和学習の研修旅行で辺野古沖を訪れていた同志社国際高校(京都府京田辺市)の生徒18人と乗組員3人を乗せた小型船2隻「不屈」「平和丸」が転覆したもので、「不屈」の船長・金井創さん(71)と、当時17歳の女子生徒が死亡し、生徒12人と乗組員2人の計14人が負傷した。
第11管区海上保安本部は7月25日、業務上過失致死容疑などで同校を家宅捜索し、学校法人同志社が28日に公表した。関係者によると、死亡した女子生徒の遺族が、同校校長ら4人と、船を運航していた市民団体「ヘリ基地反対協議会」の共同代表ら7人の計11人を業務上過失致死傷などの容疑で刑事告訴していた。松本大臣は、報道内容は把握しているとしながらも、海上保安当局による捜査が進行中であることを理由に、コメントは差し控えたいと述べるにとどめた。
デジタル教科書、小学4年生以下への導入は時期尚早
2026年6月10日に参議院本会議で可決・成立した「学校教育法等の一部を改正する法律」により、デジタル教科書が正式な教科書として位置づけられることになった。2027年4月1日の施行を目指しており、松本大臣は、英語のネイティブ音声や理科の実験動画を教材に取り入れられる点を制度改正のメリットとして挙げる一方、教員の指導力向上や健康面への影響が課題であるとの認識を示し、今後の実証研究を通じて対応していく考えを述べた。
内容をすべてデジタル化した教科書の扱いについては、秋ごろに策定予定の大臣指針の中で方向性を示す予定だという。有識者会議などで小学校の低学年・中学年での導入には慎重であるべきとの意見が多く出されていることや、現行のデジタル教科書の提供が主に小学5年生以上を対象としてきた実態を踏まえ、現時点では小学4年生以下への導入は適当でないと判断したことを明らかにした。
大臣は自身の感想として、紙にもデジタルにもそれぞれの良さがあるとしたうえで、英語授業でネイティブの発音を個々のペースで聞ける点などに触れ、自身の学生時代にこうした教材があれば理解がより深まっただろうと振り返った。同時に、読み書きなど紙を通じて培われてきた学びの要素についても、デジタル化が進む時代だからこそ学校教育の中で意識的に指導していく必要があるとの考えを示している。
科研費「基盤研究」、来年度予算での拡充目指す
科学研究費助成事業(科研費)のうち「基盤研究」については、他の種目と比べて応募・採択件数が多く、研究者の自由な発想に基づく学術研究を幅広く支える役割を担っているとの認識が示された。科学技術・学術審議会では、多様な学問分野の発展や研究者のキャリア形成への貢献といった観点から、基盤研究の充実に向けた検討が続けられている。2026年度予算では国際性の高い研究を対象とした拡充がすでに図られており、松本大臣は、第7期科学技術・イノベーション基本計画などを踏まえ、2027年度予算に向けても科研費の大幅な拡充に向けて必要な予算の確保に全力を尽くす考えを示した。
東野圭吾氏の逝去悼む
会見の最後には、2026年7月23日に68歳で亡くなった作家・東野圭吾氏について問われた。松本大臣は謹んで哀悼の意を表するとしたうえで、1985年に江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作「放課後」や、2006年に直木賞を受賞した「容疑者Xの献身」をはじめ、100作を超えるミステリー作品を世に送り出し、2023年には紫綬褒章を受章したことに言及した。原作は未読だとしながらも映画化作品は鑑賞してきたと明かし、多くの読者を楽しませてくれたことへの感謝の言葉を述べた。