元教員が設立した、自己決定と対話の“楽校” 「学ぶのが楽しい」学び舎に

小学校の元教員が、オルタナティブスクール「藤枝みんなのミライ楽校」を立ち上げた。同校では子どもたちの自己決定を大切にしており、カリキュラムは日々変わっていく。楽長の横溝一樹氏が目指すのは、「学ぶって楽しい」「生きるって楽しい」があふれる学び舎だ。

自分の足で立ち、
自分の頭で考える人を育む

横溝 一樹

横溝 一樹

藤枝みんなのミライ楽校 楽長
静岡県内の公立小学校で13年間勤務し、子どもたち一人ひとりの顔を見て、「関わるすべての子どもが笑顔で毎日を過ごしてほしい」と願い、「子どもを信じる」学級づくりを探究・実践。本当の意味で子どもたちがつくる学校、地域の中に笑顔あふれる場所をつくりたいという思いから教員を退職し、2023年4月に「藤枝みんなのミライ楽校」を開校。

2023年4月、静岡県藤枝市で認可外のオルタナティブスクール「藤枝みんなのミライ楽校(がっこう)」が開校した。楽長の横溝一樹氏は13年間勤務した静岡県の公立小学校の教員を退職し、「学ぶって楽しい」「生きるって楽しい」があふれる学び舎を目指して、ミライ楽校を立ち上げた。

学校教員の時代にも「関わるすべての子どもが笑顔で毎日を過ごしてほしい」と願い、学級づくりを実践してきたが、学校教育の枠組みの中でできることは限られていた。

「学校教員を務める中で、仕方なく毎日を過ごしている、諦めにも近いような感覚で日々を送っている子どもたちが多くいると感じてきました。大切な子ども時代に、そんな生活をしてしまうのはもったいない。学校教員として自分なりに努力してきましたが、本当の意味で子どもたちが自由な環境で学び、自己表現の自由があり、自己実現を目指すことができる。そういう学校を自分で立ち上げたいと思いました」

ミライ楽校には週5日通学する「レギュラー生」と、チケット制で通いたい時に通学する「ビジター生」がおり、現在、小学1年生~中学1年生の14人が通う。公立小学校に籍を置きながら通いたい時に通える場であり、学びの選択肢を広げている。

ミライ楽校が目指しているのは、「自分の足で立ち、自分の頭で考える人」を育むことだ。校舎は川沿いのお茶工場をリノベーションし、豊かな自然に囲まれ、木々や花々、野生生物と触れ合うことができる。その学び舎で「自己決定」「ホンモノ」「対話」の3つを大切にしながら、様々な活動を行っている。

ミライ楽校に通う子どもたちは、何をするか、どう過ごすかを自分たちで決める。

「これはダメ、これをしなさいと指示されてばかりいたら、子どもたちは自分で考えなくなります。私たちは、どんな小さなことでも子どもたちに意見を求めます。そして、その意見を尊重することで、自分で決める力を育んでいきます」

また、「ホンモノ」について、ミライ楽学では人・もの・ことに触れる実体験からの学びを重視している。

「自然の中でお互いに協力しあうことで、社会性や協調性、チームワークを学び、相手を思いやる心を養っていきます」

そして、皆で議論する「対話」を重視し、お互いの意見や考え方を尊重しながら、誰もが大切な一人の人間として学校生活を楽しく過ごせる環境を目指している。

「子ども同士だけでなく、子どもと私たち大人との関係でも『対話』を常に心がけています。自分で考え、伝え、相手の話を心で聴き、思考を深めた上で決定していく。その連続によって、自律性が育まれると考えています」

自由な環境の中で、
子どもたちが自らの関心を追求

子どもたちの自己決定を尊重しているため、カリキュラムは日々変わっていく。豊かな自然に触れたり、専門家を呼んでいろいろな話を聴いたり、時には目的を持たずただ散歩しながら何かを“発見”していく時間もある。

「自分の得意なこと、苦手なこと、好きなこと、嫌いなこと、何に興味があるのか、まだハッキリと分かっていない子どもたちだからこそ、感性を磨く時間を大切にしています」

自由な環境の中で、子どもたちは自身の関心に沿ったテーマを探究するプロジェクト学習(PBL)に取り組む。

自由な環境の中で、子どもたちは自身の関心に沿ったテーマを探究するプロジェクト学習に取り組む。

自由な環境の中で、子どもたちは自身の関心に沿ったテーマを探究するプロジェクト学習に取り組む。

「様々なホンモノに触れられる環境を用意し、本人の意思を尊重して自ら何かを見つけていきます。もちろん安全面での配慮はしますが、大人の役割は子どもたちを見守りながら邪魔をしないことです」

プロジェクト学習では、横溝氏をはじめ大人のスタッフも本気になって、子どもたちと一緒に自身のテーマを探究する。

「大人が夢中になっている姿を見せることで、子どもたちは『学ぶって楽しい』『生きるって楽しい』と心から思えるようになります」

開校から約半年が経ち、入学時に比べて、自分の考えをきちんと言えるようになった子は増えているという。

「何事も自分自身で決めて行動する子どもたちが着実に育っていると感じます」

今後に向けては、オルタナティブスクールとしての認知度をいかに高めていくかが課題の一つだ。

「私たちは、不登校支援を目的としたフリースクール等とは異なります。ミライ楽校のオルタナティブスクールとしての価値をいかに伝え、理念に共感してくれる保護者や子どもを増やしていくことが重要だと考えています」

ミライ楽校では、来年度は中学部も開校予定だ。さらに長期的なビジョンとして、小・中学生だけでなく、幼児教育や高等教育、さらには大人の学びにも領域を広げていきたいと語る。

「教科学習に限定せず、学びたい人が集い、誰もが学びたいように学ぶ。もっと言えば、遊びと学びの境界もなくしていきたい。そうした自由な環境をつくることで、『学ぶって楽しい』『生きるって楽しい』を実現していきたいと考えています」