【議事録詳報・後編】WPIは世界に届いているか——19年目の拠点事業、次の一手

前編に続き、第22回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会(2026年5月26日開催、議事録は2026年6月18日公開)の後半を報告する。第3議題は「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)の今後の展開について」。日本が長年育ててきた研究拠点群を次の段階へどう進化させるかが問われた。

18拠点・ノーベル賞2件 WPIとは

世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI:World Premier International Research Center Initiative)は、2007年度から文部科学省が推進してきた事業だ。現在18拠点を擁し、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構(WPI-Kavli IPMU)、京都大学物質‐細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)など、幅広い分野の世界トップレベルの研究拠点を育ててきた。2025年度にはWPI拠点関連でノーベル賞受賞が2件に上るなど、日本の基礎研究力を代表する成果を上げてきた。

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第3議題では、文部科学省研究振興局基礎・基盤研究課長補佐の相川美紗氏と同課長の澄川雄氏が事務局案を提示した。

WPIの設計は、10年間の集中支援を通じて世界トップレベルの研究拠点を育て上げ、その後は外部有識者による毎年の評価を経て「WPIアカデミー」として自走させるというものだ。事業開始から19年を迎えた今、集中支援フェーズを終えて自走しているアカデミー拠点の潜在力をどうさらに引き出すかが課題として浮上している。

自走拠点の力 さらに引き出すには

澄川課長は着任から約2カ月間にWPI各拠点を訪問・勉強した視点を交えながら、「育った後、さらに10年、20年、30年を考えたときに、アカデミー拠点の力をもっと発揮していただくことができるのではないか」と述べ、三つの方向性を示した。

第一に、新陳代謝を含めた、新たな学理を生み出す拠点の継続的な創出だ。WPIという仕組みそのものを、世界をリードする研究拠点を生み続けるシステムとして機能させ続けることが目標だ。第二に、WPI全体を俯瞰した戦略的マネジメントの旗振り役の設置と、スケールメリットを活かした広報・外部資金獲得の体制整備だ。各拠点が個別に頑張るだけでなく、WPIとしての一体的な広報や外部資金獲得に取り組むことで、全体としての効果を最大化できるという考え方だ。第三に、WPIをテストベッドとして活用し、サイエンスコミュニケーターを活用した社会への認知醸成、中高生を含む次世代への積極的なアウトリーチ、そして寄附などを通じた多様なファンドレイジングの試行だ。国費だけに頼らない基礎研究支援の新しいモデルをWPIから発信したいという意図がある。

国内発信より世界発信を

委員からは、こうした方向性に賛同しつつも、視点の優先順位についての注文が相次いだ。

小泉委員は「国内の一般向けアウトリーチは各大学でもやっていること。WPIなのだから、世界に向けて日本の研究を発信していく先頭を切っていくことが重要だ。世界に向けての広報・アウトリーチ・ブランディングをぜひ今後の展開に入れてほしい」と述べた。国内での認知向上より、世界の研究コミュニティへの存在感発信こそがWPIにふさわしい役割だという指摘だ。

佐伯部会長も強く同調した。「WPIという名称が世界的にあまり知られていないのは非常にもったいない。各拠点が頑張っているのに、全体としてこれだけの水準にあるのだということを世界に知ってもらう方法を真剣に考える必要がある」と述べた。個別拠点の活動を超えた、WPIというブランド自体の国際的な認知を高めることが急務だという認識が部会として共有された。WPIについては次回以降の部会でも引き続き議論が行われる予定だ。

政策と現場の往復が加速  科学再興への道筋

3議題を通じて浮かび上がったのは、日本の科学研究力をいかに世界水準で再興するかという問いに集約される。SPReADの1万5千件超という応募数は、AI for Scienceが現場の研究者にとって切実な選択肢になっていることを示す。一方で、ロッタリー審査の透明性やe-Rad番号の管理をめぐる委員の指摘は、新しい仕組みを社会的に受け入れてもらうためには丁寧な制度設計が欠かせないことを改めて示した。

AI・ロボット分野では総花的な支援から脱し、日本固有の強みと重なる領域への集中を求める声が複数の委員から上がった。WPIでは国内向けの認知向上にとどまらず世界への発信を優先すべきという方向性が確認された。第7期科学技術・イノベーション基本計画が掲げる政府研究開発投資60兆円という目標の実現に向け、政策と現場の往復が加速している。