効果検証なき予算先行に終止符を こども家庭庁の地域少子化対策強化事業、抜本的見直しを有識者要求

こども家庭庁は2026年6月8日、外部有識者を招いた行政事業レビューの公開プロセスを開催した。議題の一つとなった「地域少子化対策強化事業」をめぐって、事業開始から年数が経過する中で効果検証が不十分なままであること、および民間サービスとの役割分担が不明確であることなどへの厳しい指摘が相次ぎ、取りまとめコメントでは現行事業の継続を認めず、抜本的な見直しを求める内容が示された。

行政事業レビューとは

行政事業レビューは、各府省が概算要求前に、前年度の執行状況(支出先や使途)等を自ら点検し、事業内容や目的、成果、資金の流れをレビューシートに記載して公表する取り組みである。その一部について外部有識者を交えて公開の場で検証するのが「公開プロセス」だ。今回の公開プロセスは、こども家庭庁長官官房第2会議室にて午前10時から12時にかけて実施された。地域少子化対策強化事業はこの日の4議題のうちの一つで、午前11時から30分間にわたり審議された。なお、当日の資料はこども家庭庁ウェブサイトに掲載されている。

事業の概要と担当部局説明

地域少子化対策強化事業は、少子化の状況や取り組みの内容・担い手が地域ごとに異なることを踏まえ、自治体が主体となって地域の実情に応じた少子化対策を進めるための地域少子化対策重点推進交付金による支援事業である。結婚支援や気運醸成といった取り組みが対象となっている。

冒頭の担当部局説明では、今後の方向性として、現行の事業メニューを他の補助事業に統合する形で対応していくこと、および結婚新生活支援事業として実施している現金給付については要件を見直した上で効果が認められるものに限定していく考えが示された。

有識者からは厳しい指摘相次ぐ

質疑に入ると、有識者から厳しい意見が続いた。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 コンセンサス・デザイン室長の西尾真治氏は、事業開始から一定期間が経過して事例が蓄積されているにもかかわらず、どのような取り組みが効果につながるかという観点からの効果検証やエビデンスの蓄積が十分に進んでいないと指摘した。また、レビューシートのロジックモデルは精度が高いと評価した上で、それに基づいて成果データを収集・活用していくべきだと述べ、財務省の予算執行調査において複数の自治体が広域で連携して取り組んだ場合に成果が出やすいというエビデンスが得られていることを挙げ、広域連携を制度の中でより重点化することへの期待も示した。

東京大学社会科学研究所教授の松村敏弘氏は、イベントの実施や成婚組数の把握はあくまでも第一段階にすぎないと指摘した。その事業がなければ当該者が結婚しなかったのかという因果関係の検証こそが真のエビデンスであり、地域数と実施期間の両面でデータが十分に蓄積されている今、コストに見合う効果が上がっていることを示す段階にあると述べた。また、失敗事例の分析にこそ改善の鍵があるとして、うまくいかなかった事業や途中で終了した取り組みを積極的に発掘・分析するよう求めた。

名古屋商科大学経済学部教授の永久寿夫氏は、スマートフォンのアプリひとつで利用できる民間のマッチングサービスが急速に普及し、国際的な広がりも見せている現状を踏まえ、一つや二つの自治体の取り組みではすでに民間に太刀打ちできない水準に進化していると述べた。2005年から同種の事業評価に関わってきた経験をもとに、成果の把握や検証を今になって始めるのでは遅すぎると指摘し、事業の廃止を提案した。

これを受けて担当部局は、実態として自治体の取り組みの多くは民間の知見を活用しながら進められており、官民が連携する形が多いと説明した上で、公的機関が担うことの意義を改めて明確にする必要性を認めた。

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予算の執行状況についても、太陽有限責任監査法人 代表社員の石井雅也氏から質問が出た。当初予算は毎年度おおむね10億円程度であるのに対し、補正予算が毎年80億円から90億円規模で追加されており、令和7年度の補正予算額は76億5000万円、執行額は約56億円であった。この内訳は、地域少子化対策推進事業に約32億円、結婚新生活支援事業の現金給付に約24億円となっていると説明があった。また辻・本郷税理士法人 公益法人部 税理士の安藤美和子氏は、地域少子化対策重点推進事業を他の事業メニューに統合していく場合の具体的な制度設計の方向性について質問し、担当部局は今回の公開プロセスでの指摘も踏まえながら自治体の使い勝手を重視した形で設計していくと答えた。山下・柘・二村法律事務所 弁護士の永井隆光氏は、少子化対策と並ぶもう一つの柱として示された「今を生きる子供への支援」の具体的な内容を尋ね、虐待対応、障害支援、保育といった分野での現在のこどもへの支援全般が対象として想定されているとの説明があった。

取りまとめコメント内容

議論を経て取りまとめられたコメントは次のような内容だった。

少子化対策自体は引き続き推進する必要があるものの、出生数が減少を続ける中で成果指標や政策効果の検証が示されないまま予算だけが先行してきたことは極めて重大な問題である。事業開始から一定期間が経過し事例が蓄積されているにもかかわらず、効果検証とエビデンスの形成・蓄積が十分に行われてこなかった点は看過できず、本事業の抜本的な見直しは不可避だとした。

今後の少子化対策は真に持続的かつ効果的な政策効果が得られるものでなければならない。一時的な現金給付は抜本的に見直し、特に財政力の厳しい地域における今を生きる子供への支援と少子化対策を車の両輪として、地域の子供政策推進を幅広く支援できる事業へと転換すべきであり、現行の本事業の継続は認められないとした。

具体的には、地域少子化対策重点推進事業は来年度以降の予算計上を行わない。その上で、自治体の財政力指数を踏まえながら、地域の子供政策を支援する他の補助事業において広域連携を重点化し、複数の地域が連携した効果の高い取り組みのうち地域において特に優先度が高いと認められるものを重点的に支援するメニューの一つとして対応していくべきとした。

結婚新生活支援事業の現金給付についても、家賃・引越し等への支出は政策効果が一時的・限定的だとする国民の意見・提案を踏まえ、要件を見直し、真に定量的な政策効果が認められる場合のみに限定して大幅な縮小を図るべきとした。

なお、他の補助事業のメニューとして事業を継続する場合であっても、こども家庭庁が個々の事業内容に主体的に関与しながら地方自治体と深度ある対話を重ね、事業の質と成果にコミットする体制を維持できる範囲で実施すること、および効果検証の在り方を改めて設計することが必要だとした。