特集1 2024年の政策動向をもとに人材育成の展望を検証する
世界的な競争激化と、気候変動・地政学的な不確定要素が増える中で、各国でイノベーションに向けた政府の支援がトレンドとなっている。本特集では2024年の政策動向をもとに「スタートアップ」「生成AI」「リスキリング」などから、「人材育成の展望」を検証した。(編集部)
政府が進めるスタートアップ支援
スタートアップで働く意義とは?
世界的な競争激化と、気候変動・地政学的な不確定要素が増える中で、各国でイノベーションに向けた政府の支援がトレンドとなっている。
経済産業事務次官の飯田祐二氏は「今、世界各国の経済産業政策が大きな転換期を迎えています」と指摘する(➡こちらの記事)。
日本もこの潮流に乗るため、2021年から「経済産業政策の新機軸」を発表。経産省では「新機軸」において、GXやDXなど主要8分野におけるミッション志向の産業政策を打ち出すとともに、それを補完する経済社会の基盤整備も必要だとしている。それはスタートアップ・イノベーション創出への支援や、物価上昇を越える賃上げの持続的な実現などだ。
経産省の24年の施策では、中でも蓄電池、半導体、スタートアップ支援が目玉になっている。スタートアップ支援では、22年11月に「スタートアップ育成5か年計画」が決定し、1兆円のスタートアップ育成に向けた予算措置が講じられた。
同計画に基づいて24年度も、スタートアップ・エコシステム実現に向けた計画を実行していく。例えば、米シリコンバレーに開設したビジネス拠点「Japan Innovation Campus」を活用し、23年度に拡大した若手起業家の海外派遣プログラム「J-StarX」を通じて人材のグローバル化を進め、世界に打って出るスタートアップ企業を育成する。
政府がスタートアップ支援に注力する一方で、日本において、スタートアップで働くことが当り前になったかというと決してそうではないとフォースタートアップス株式会社代表取締役社長の志水雄一郎氏は指摘する(➡こちらの記事)。志水氏は、日本におけるスタートアップで働くことを妨げる「バイアス」に警鐘を鳴らす。ギャンブル性が高いという誤解があるほか、日本にとって障害になるのはスタートアップで働く人は若年層という潜在的イメージだ。しかし実際には、米国で成功したスタートアップ創業者の平均年齢は45歳で、日本でも40~60代がその経験を活かし挑戦すべきフィールドだといえる。スタートアップで働く意義について、志水氏は「やりがい」と「経済合理性」を両立でき、さらにSO(ストックオプション)も得られる可能性があるキャリアとして、現時点では成功に最も近づけるチャンスがある領域だと話す。
生成AIを使いこなす人材育成や
ノンプログラマーのリスキリング
2022年末、Open AIが公開した生成AI「ChatGPT」は大きな注目を集めた。その後、さまざまな業務への導入・活用が急ピッチで進められている中、政府も、生成AI関連の人材育成の施策を進めている。文科省では、緊急性の高い国家戦略分野として、次世代AI分野(AI分野及びAI分野における新興・融合領域)を設定し、人材育成及び先端的研究開発を推進する「次世代AI人材育成プログラム」に213億円を23年度補正予算に計上している(➡こちらの記事)。
AIを使いこなす人材ニーズも高まっているが、女性リーダーの割合が少ないという問題がある。Cynthialy代表取締役CEOの國本知里本氏は「私はよく『一億総生成AI活用時代』と言っているのですが、つくる時代から誰もが使う時代になったと思います」と話す(➡こちらの記事)。
同社は23年10月、女性AIリーダー人材の育成・推進コミュニティ「Women AI Initiative」をスタートさせた。日本を本当の意味でのAI活用大国にするため、この領域で働く女性を支援し、AI活用・推進リーダーを発掘・育成していくという。
22年10月に、政府がリスキリング支援に「5年間で1兆円」を掲げた後、メディアを中心に目にする機会が多くなったリスキリング。経産省も23年度補正予算において、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」に97億円を計上している。特にデジタル領域でのリスキリングが多くのビジネスパーソンにとって、喫緊の課題といえる中、ノンプログラマーすなわちITを本業としないビジネスパーソンのデジタル活用が、さまざまな課題の解決につながると信じ、ノンプログラマー向けにITの学習機会を提供するプランノーツを2015年に起業した同社代表取締役の高橋宣成氏。2021年にはノンプログラマー協会も立ち上げ、ノンプログラマーのリスキリング支援を強化している(➡こちらの記事)。
photo by saksit/ Adobe Stock
人的資本経営における
タレントマネジメントなど
2022年5月、人的資本経営を実践に移していくための取り組みや工夫をまとめた「人材版伊藤レポート2.0」が公表された。人的資本経営への関心が高まる中、人的資本の成否を左右するのが、従業員の能力や資質、スキルに目を向けるタレントマネジメントの推進だ。
HRBrain執行役員の吉田達揮氏は、人的資本経営が上手くいっている企業には経営戦略に基づくストーリー性があり、人的資本情報の開示においてはインプット、アウトプット、アウトカムの3点をきちんと整理づけているという(➡こちらの記事)。
また、VUCAの時代が到来し、企業を取り巻く環境は大きく変化している中、管理職に求められるマネジメントの重要度と難易度が急速に高まっている。リンクアンドモチベーション人材育成支援領域カンパニー長の宮澤優里氏は、「昨今では自ら目標を掲げ、多様なメンバーを束ねてモチベーションを高めながら業務を推進する『共創型マネジメント』が重要になっています。共創型マネジメントにより、メンバーの主体的な行動を促進することで、組織の実行力を最大化することができます」と話す(➡こちらの記事)。
近年、政府が高度外国人材の受け入れを推進し、制度面の整備を進めている中、神奈川大学教授の湯川恵子氏は、「高度外国人材から『選ばれる企業』になるためには、日本独自の雇用慣行を変えていく必要があります。日本企業は仕事のやり方を国際標準に合わせ、年齢や経歴、国籍にかかわらず優秀な人材が持っている力を最大限に引き出すためのマネジメントへと変革を遂げなければなりません」と話す(➡こちらの記事)。
また、政府による労働移動の円滑化に向けた施策なども進められている中、千葉大学大学院准教授の吉岡洋介氏に、日本の労働市場・雇用環境の流動性について、実態や課題をどのように見ているかについて話を伺った(➡こちらの記事)。
名古屋学院大学教授の安藤りか氏には、近年、日本の企業社会ではジョブ型の浸透なども言われる中、昨今の産業界の変化や、大学でのキャリア教育は今後、どのように変わるべきかについて、話を伺った(➡こちらの記事)。
本特集は2024年の「人材育成の展望」をテーマに、取材を通じて、その具体像を探った。社会の急速な変化に伴い、働く個人や企業を取り巻く環境が大きく変わる中、2024年にどの様な学びや人材育成に取り組むべきなのか。今回の特集を通じ、自身や組織の今後を考える際の参考となれば幸いである。