【議事録詳報・前編】科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第7回 文科省と経産省が挑む研究大学の再興

文部科学省は2026年6月17日、同年4月22日に開催された科学技術・学術審議会・大学研究力強化部会第7回会合の議事録を公式サイトで公開した。前編では、経済産業省イノベーション・環境局大学連携推進室長の川上悟史氏による「世界で競い成長する大学経営のあり方に関する研究会」中間とりまとめの説明と、それをめぐる質疑を詳報する。後編では、慶應義塾長の伊藤公平氏とAeroEdge株式会社取締役 兼 執行役員COO/CTOの水田和裕氏による発表と総括質疑を取り上げる。

省庁連携で大学の研究力を産業競争力の核に

文部科学省と経済産業省が手を組み、大学の研究力を産業競争力の核として育て直す動きが本格化している。第7回会合では、川上室長のほか、慶應義塾長の伊藤公平氏、AeroEdge株式会社取締役 兼 執行役員COO/CTOの水田和裕氏が登壇し、政策の方向性から大学経営の実態、産業界が求める人材像まで多角的な議論が交わされた。

Photo by hamazou/ Adobe Stock

川上室長がまず報告したのが、両省が共同で設置した「世界で競い成長する大学経営のあり方に関する研究会」の中間とりまとめである。研究会は2025年9月5日に第1回を開き、2026年3月25日の第5回で中間とりまとめの案を議論したうえ、同年4月14日に中間とりまとめを公表した。座長は同部会の大野英男部会長代理が、経済産業省特別顧問(科学技術担当)として務めている。

数字が示す日本の停滞

中間とりまとめは、日本の大学が置かれた状況を数字で描き出している。産学連携は件数も金額も増えているものの、1件あたりの受入額は300万円以下の小規模な案件が中心で、イノベーション創出や大学への資金還流に与える影響は限られる。大学の研究開発支出のうち国内企業が拠出する割合は、2023年の国際比較で英国が9.0%、ドイツが13.1%、韓国が13.0%、台湾が12.7%であるのに対し、日本は3.6%にとどまる。

研究環境の質にも課題がある。大学教員が研究活動に充てられる時間の割合は減少傾向にあり、研究パフォーマンス向上を阻む最大の要因として研究時間の不足が挙げられている。これを補う研究開発マネジメント人材の確保が有効な手立てになるものの、雇用の原資が間接経費や知的財産権の対価といった年度ごとに増減する資金であるため、大学は少人数の雇用にとどめざるを得ないという制約を抱える。

海外が示した成長の型

中間とりまとめが参照した海外事例のなかで目を引くのが、カリフォルニア大学バークレー校である。州政府からの補助金が削られるなかで大学の役割を見直し、産学連携やスタートアップ支援の体制を強化した結果、2006年から2024年にかけて収益規模を2倍以上に伸ばした。この間、収益に占める州政府からの支援の割合は半減している。寄附についても、学長主導で数百名規模のファンドレイザーを配置し、データベースを使った戦略的なマーケティングによって、10年間で約1兆円を集めた。

知財収入で好循環を築いた例として挙がったのがペンシルバニア大学である。知財の商業化を促す組織体制を整えた結果、mRNA技術の独占ライセンスによって日本の全大学の合計を大幅に上回る知財収入を獲得し、その資金を基礎研究や施設、人材の獲得へ再投資している。産学連携の仕組みでは、MITの会費制プログラム(Industrial Liaison Program)が紹介された。会員企業ごとに業界経験を持つ担当コーディネーターを配置し、個社のニーズに応じた提案や人材・スタートアップの紹介を行うことで、寄附や共同研究へと結びつけている。

地域クラスターの例としては、台湾の新竹サイエンスパークが取り上げられた。当局と大学、研究所、企業が一体となって半導体産業を育て、600社以上、売上合計7兆円を超える企業が集積する。なかでも陽明交通大学は、同パークに立地する企業のCEOや幹部の65%以上を輩出しており、台湾の半導体産業の競争力を人材面から支えている。

新大学群とガイドラインの二本柱

川上室長が示した政策の柱は二つである。一つは、国際卓越研究大学と地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)に加え、新技術立国の核となる「産業競争力・研究力中核大学群」を新たに形づくること。もう一つは、世界トップ大学と同等の柔軟な経営環境を実現するための「大学経営ガイドライン」(仮称)の策定で、2026年度内の提示を目指している。

新しい大学群として中間とりまとめが想定するのは、重要分野で大規模経済圏の産業クラスターを形成する産学融合型グローバル大学、社会変革を牽引するリーダー人材を育てる社会変革牽引人材育成大学、国立研究開発法人などとの連携で大規模研究開発の中心を担う高度アカデミック連合という三つの類型である。国際卓越研究大学やJ-PEAKSとの重複はあり得るとしつつ、川上室長は特定の大学を前提に議論しているのではなく、産業競争力強化に貢献するというミッションを軸に制度設計を進めていると説明した。文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課の国分課長もこれを補い、どの大学が対象かよりも、次の政策として必要な仕組みを議論することを優先していると述べた。

支援の考え方として川上室長が強調したのが「縦横の予算」である。大学の機能強化を下支えする自由度の高い「横の予算」は文部科学省が担い、政府が掲げる17の戦略分野ごとに投資する「縦の予算」は経済産業省が担う。企業側の投資を促す仕組みとしては、2026年度税制改正で研究開発税制に「大学拠点等強化類型」が創設された。認定計画に基づいて認定研究拠点と行う共同研究や委託研究について、試験研究費の50%を法人税額から控除できる制度で、控除の上限は法人税額の10%である。人材面では、産学が協力して設置・運営する学位プログラムである「契約学科」の設置を予算措置などで後押しし、2026年度中に「契約学科の組成のための指針(仮称)」を取りまとめる方針が示されている。

質疑が照らした三つの論点

質疑では三つの論点が浮かび上がった。

野口義文委員(学校法人立命館理事、立命館大学副学長)は、2026年3月27日に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画が、2026年度からの5年間で官民合わせて180兆円、うち政府分60兆円という研究開発投資目標を掲げた点を挙げ、民間投資を伸ばすうえで何が最大の障壁かを問うた。川上室長は、企業が売上高の一定割合で研究開発投資を決める慣行を破ることと、産学連携の単価を引き上げるための大学経営改革が車の両輪になると応じた。

荒金久美委員(株式会社クボタ社外取締役)は、新しい大学群が国際卓越研究大学やJ-PEAKSとどう異なるのかをたずねた。川上室長と国分課長はいずれも、重複はあり得るが特定の大学を想定しているわけではなく、産業競争力強化に貢献するというミッションを軸に中身を固めていく段階だと説明した。

河原林健一委員(国立情報学研究所情報学プリンシプル研究系教授)は、海外のトップ大学が引き出した投資をどう再配分し、成長を続けているのかを問うた。川上室長はカリフォルニア大学バークレー校を例に、研究者だけでなく研究支援人材やファンドレイザーにも十分な処遇を用意して投資してきたことが収入増の原動力になったと答えた。

最も本質的な問いを投げたのは西村訓弘委員(三重大学大学院地域イノベーション学研究科教授)だった。欧米の大学が企業から大型投資を引き出せる背景には、研究力という言葉の捉え方そのものの違いがあるのではないかと指摘し、日本が目指す研究力の定義が欧米とずれていないかと問うた。国分課長は、産学連携が一方通行のリニアモデルから、産業界との協働で生まれた成果が大学の研究力へ再投資されるエコシステム型へ移りつつあるとの認識を示し、産学連携は産業への貢献と学術的な研究力の強化を同時に取りにいけるものだという考え方で部会は議論してきたと述べた。ただし研究力の定義そのものについては、継続検討の余地を残した。

千葉一裕部会長(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構理事長)はこの問いに、産業界が求める研究力にはさらに別の側面があるのではないかと応じ、関係者が共有できる答えを見いだす必要があると述べて前半の質疑を締めくくった。

後編では、慶應義塾長の伊藤公平氏が語った私立大学による研究経営の実践と、水田和裕氏が唱える「日本CTO必要論」、そして部会全体の総括質疑を詳報する。