原子力分野で7割の企業が人材不足を実感 打開策は「専門外」人材へのアプローチ拡大
2025年7月9日、文部科学省で開催された「原子力研究開発・基盤・人材作業部会」では、日本のGX(グリーン・トランスフォーメーション)推進の鍵を握る原子力分野において、深刻な人材不足が起きている現状が改めて浮き彫りとなった。産業界の約7割が人材確保に困難を感じており、特に若手技術者の不足は深刻だ。この危機的状況を打開するため、産官学が連携し、従来の「原子力専門家」の育成に留まらない、新たな人材戦略へ大きく舵を切ろうとしている。
「原子力」の看板下ろす大学
半減する若手教員
会議で示されたデータは衝撃的だ。かつて多くの大学に存在した「原子力」を冠する学科・専攻は、他分野との統合や名称変更により減少し、学生数も右肩下がりが続く。さらに、40歳以下の若手教員の数は、平成16年(2004年)の121人から令和4年(2022年)には68人へと、約20年で半減。未来の研究者や技術者を育てる教育現場の基盤そのものが揺らいでいる。
この影響は企業の採用活動に直結している。日本原子力産業協会の調査では、約7割の企業が必要な人材を確保できていないと回答。特に、プラントの運転や設計に不可欠な電気・電子、機械系を専攻する学生が、東日本大震災以降、原子力業界から遠ざかったままであることが大きな課題となっている。
成果上げる産官学連携も
裾野の拡大に課題
こうした状況に対応するため、文部科学省は2021年度から産官学連携のコンソーシアム「原子力人材育成ネットワーク(ANEC)」を推進してきた。全国70機関が加盟し、オンライン教材の共同開発や、複数の大学の学生が参加する原子炉実習などを実施。個々の大学だけでは困難な質の高い教育機会を提供している。
資源エネルギー庁の公式ホームページより
この取り組みは着実に成果を上げており、プログラム参加学生の原子力分野への就職率は4割から8割に達する。また、高校生向けイベントでは、参加者の32%が女子生徒であるなど、多様な人材へのアピールにも成功の兆しが見える。
しかし、委員会では「ANECの次のステップ」が主要な議題となった。最大のキーワードは「裾野の拡大」だ。これまでの原子力関連専攻の学生を中心としたアプローチに加え、今後は機械、電気・電子、情報といった他分野の学生にいかに原子力分野へ関心を持ってもらうかが、産業界のニーズに応える上で不可欠だと認識された。
これからの人材戦略
会議での議論は、これからの企業の人材戦略を考える上で重要な示唆に富んでいる。
1,「学びのプラットフォーム」の活用
日本原子力研究開発機構(JAEA)などが持つ大型研究施設を、インターンシップや研修の場として積極的に活用する動きが加速している。自社にないリソースを業界全体で共有し、学生や若手社員に実践的な学びの機会を提供する「プラットフォーム」としての役割が期待される。これは、企業が研修プログラムを設計する上でも大きなヒントとなる。
2,リカレント教育とシニア人材の活用
転職が当たり前になり人材の流動化が進む中で、他分野からの中途採用者や、一度業界を離れた人材を対象とした「リスキリング(学び直し)」の重要性が指摘された。また、退職したベテラン技術者の知見を、若手指導や教育コンテンツ開発に活かす仕組みづくりも構想されており、深刻化する技術継承問題への一手となりうる。
3,「関心」を惹きつけるアプローチ
委員からは「学生は原子力を知らない・分からないのではなく、そもそも接点がない」との指摘があった。専門知識を教え込む前に、まずは「関心を引く」ことが重要だ。例えば、サプライチェーンマネジメントやシステムマネジメントといった、学生に人気の分野のケーススタディとして原子力プラントを取り上げるなど、他分野との接点を作り出す工夫が求められる。
エネルギー安全保障と脱炭素社会の実現に向け、原子力の重要性は再び高まっている。しかし、その担い手がいなければ未来は描けない。今回の議論は、原子力分野の人材育成が、個社の採用課題から、業界全体で取り組むべき経営戦略へと移行する転換点にあることを明確に示した。産業界が大学や研究機関とより一層密に連携し、未来への投資として人材育成にどうコミットしていくのか、その本気度が問われている。