投資テクニックより「人生設計」 子どもが没入する金融教育『ライフプロデュース』の狙い
提供開始から約1年で、受講生徒数は2500人を突破。ブロードマインド株式会社が提供する金融教育プログラム『ライフプロデュース』が、教育現場で静かな支持を広げている。投資テクニックや優良銘柄の知識を教える前に、まず「自分は人生で何をしたいのか」を明確にする。そこから逆算して、ライフステージごとに必要なお金を可視化する——同社が重視するのは、そうした「ライフプランニング」の考え方だ。なぜ今、子どもたちがこれほどまでに没入するのか。その「人気の秘密」と、開発に込められた狙いを取材した。
カードゲームでライフプランニングを学ぶ(プレスリリースより)
投資の知識より先に学ぶべきこと
金融教育と聞くと、投資や運用、金融商品の仕組みを学ぶイメージを持つ人も多いだろう。しかし同社は、そうした知識教育とは一線を画すアプローチを取る。
「毎月いくら貯金すべきか、どの銘柄が有望か——そういった話の前に、そもそも自分が人生で何を実現したいのかを考えることが大切です」と、同社広報の冨永冴季氏は語る。
ライフプランニングとは、単に月々の支出を管理することではない。自分が人生で大切にしたいこと、叶えたいことを明確にし、それを実現するために各ライフステージでどのくらいのお金が必要になるかを見通すことだ。同社が提供する『ライフプロデュース』は、この考え方を子どもたちに体感させるために設計されている。
あえて失敗を経験させる授業設計
「子どもは2回やるうち、1回目は必ずと言っていいほどお金や時間が足りなくなるんです。そこで初めて、親が自分のためにやってくれていることのありがたさを実感します」(冨永氏)
2024年9月の提供開始以来、小学校高学年から高校生まで幅広い層に実施されてきた本プログラム。その最大の特徴は、カードゲーム形式で「人生の予行演習」ができる点にある。
プレスリリースより
授業は座学から入らない。生徒たちはまず「人生で何を叶えたいか」を決めることからスタートする。就職、結婚、趣味、住宅購入など、人生のイベントカードを選択していく過程で、手持ちの「お金」と「時間」というリソースを配分していくことを迫られる。
しかし、多くの生徒は1回目のゲームで「叶えたいことが叶えられない」状況に直面する。やりたいことに対してリソースが枯渇するのだ。この「安全な失敗」こそが、本プログラムの肝となっている。失敗を通じて、生徒たちは「人生のどのステージで、どのくらいのお金が必要か」という見通しを立てる重要性を痛感する。
現役教諭・沼田晶弘氏が監修 「生活実感」との接続
本プログラムが教育現場で受け入れられている背景には、従来の金融教育が抱える構造的な課題がある。政府は金融経済教育の普及を掲げているが、現場の教員からは「専門知識が不足している」「準備の負担が大きい」という声が上がる。一方、学ぶ側の子どもたちにとっても、投資や金融商品の話は生活実感と結びつかず、「自分ごと」になりにくい側面があった。
そこで同社は、体験型の人材育成・研修サービスを手掛ける株式会社NEXERA(ネクセラ)と共同で本プログラムを開発。さらに、児童の自主性を引き出す授業で知られる現役教諭、"ぬまっち"こと沼田晶弘氏(東京学芸大学附属世田谷小学校教諭)を監修に招聘した。一方的な講義ではなく、ゲームに没入しながら自然と「選択する力」や「計画する力」が養われる仕組みを構築した。
沼田氏は、小・中高時代から「お金」について自分ごととして考えることで将来独り立ちした時にも困らなくなると述べ、「理想の人生を諦めないために、このゲーム体験が、子どもたち自身が『お金と自分の幸せ(ファイナンシャル・ウェルビーイング)』について考えるきっかけになることを願っています」と話す。
お金で人生を諦めないために
「金融の力を解き放つ」をパーパスに掲げるブロードマインド。創業以来、ライフプランニングを事業の中核に据えてきた同社にとって、この教育プログラムは「お金で人生を諦める人を一人でも減らしたい」という想いの延長線上にある。
提供開始から1年。知識詰め込み型ではない、体験型の「人生の練習」は、不確実な未来を生きる子どもたちにとって、必須の教養となりつつあるようだ。
同プログラムは、対象エリア(東京・埼玉・神奈川・千葉)の学校に対し、同社社員が講師・運営を担当する形で無償提供されている。