【音声配信連動企画】AIが制約突破 障がい者雇用定着率約90%の秘訣
2026年7月の法定雇用率引き上げを前に、多くの企業が「雇用して終わり」の壁に直面している。その中で、精神・発達障がい者を中心に180名規模の自社雇用を実現し、定着率90.7%という実績を誇るのがレバレジーズ株式会社の中途採用事業本部 ワークリア事業部だ。
本記事は、X(旧Twitter)の音声配信にて行われた、中途採用事業本部 ワークリア事業責任者・津留有希子(つる・ゆきこ)氏へのインタビューをもとに構成した。障がいを「欠損」ではなく、組織の生産性を高める「特性」と捉え直し、BPO組織として収益化まで成し遂げた同社の戦略に迫る。

「120種の業務切り出し」
から見えた可能性の最大化
――貴部では120種類もの業務を切り出し、障がい者雇用を戦力化されています。業務設計において、見込みが外れたケースや逆に意外な適性を発見したエピソードを教えてください。
ワークリアの業務設計において最も大切にしているのは、障がいの有無で人を判断せず、一人の人間として向き合い「可能性を信じて任せる」という姿勢です。私たちは、本人の価値観がかなう仕事か、能力が伸長するか、そして「頑張ったらできそう」という主観的な手応えがあるかという3つの視点を重視しています。
具体的な成功事例として印象深いのは、「非常に高い共感性」という特性を、組織の強みに転換した社員のケースです。その方は前職では他者の感情を気にしすぎてしまい、相談ができずに抱え込んでしまうという課題がありました。しかし、レバレジーズが展開する人材紹介サービスのスカウトメール作成業務を任せたところ、その繊細さが「受け手の気持ちを想像する力」へと転換されました。結果、健常者の組織を含めてもトップレベルの返信率を叩き出したのです。
一方で、KPI(重要業績評価指標)管理には細心の注意を払います。数値を追うことで燃える方もいれば、他者と比較されることで過度なプレッシャーを感じ、本来のパフォーマンスを損なう方もいます。個々の特性に合わせ、画一的な管理ではなく、自分自身で立てた「3カ月後の目標」を言語化してもらう「スモールステップ」の設計が、高い定着率と生産性の両立を支えています。
急成長企業と「専門組織」の
融合による納得感の醸成
――スピード感のある貴社の成長と、着実なステップを要する障がい者雇用の両立は容易ではありません。既存社員との摩擦を避け、全社的な納得感を生むための工夫とは。
私たちは「融合させる部分」と 「あえて融合させない部分」を明確に線引きしています。当事業部が採用ターゲットとしているのは、就業経験が1年未満の未経験者や、頑張る場所をまだ見つけられていない方々です。こうした方々が、いきなりハイペースな部署に合流するのはハードルが高いため、まずは「ワークリア」という専門組織の中で、国家資格を持つジョブコーチなどの専門スタッフが伴走する「集合配置」の期間を設けています。
全社的な納得感の醸成については、極めてシンプルです。私たちは「数合わせの雇用」ではなく、組織を成長させるために「役割があるから採用する」というスタンスを貫いています。社内の他部署から業務を請け負う際も、「障がい者雇用だからこの程度の質でいい」という妥協は一切しません。むしろ期待値を常に超え続けるアウトプットに徹底的にこだわっています。
その結果、「ワークリアに頼むと品質が高い」という信頼が醸成され、障がいの有無に関係なく「この個人に仕事を頼みたい」という白羽の矢が立つ状態が生まれます。例えば、本社カフェで働く社員は、その温かなコミュニケーション能力から多くの社員に顔を覚えられ、組織に「癒やし」という不可欠な価値を提供しています。個人の「キャラ立ち」を支援し、成果で貢献する文化こそが、温度差のない共生を生み出すと考えます。
CSRで終わらせない
「人的資本」への投資
――手厚い支援体制はコストもかかります。収益性を確保し、事業として成立させるための限界意識やゴール設定、管理体制はどのようになっていますか。
レバレジーズの事業はすべて「社会課題の解決」を軸としており、障がい者雇用もその例外ではありません。収益性を確保するためには、単なる作業の割り振りではなく、業務の生産性と正確性を定量的に振り返る体制が不可欠です。私たちは、四半期に一度の評価に加え、全社員が「自ら次期の目標を立てる」仕組みを導入しています。
「上から降りてくる目標」ではなく、本人が「3カ月後にどうなっていたいか」を言語化することで、モチベーションの源泉を掘り下げます。例えば、「経理部門へ異動したい」という目標を持つ社員がいれば、直近の業務で経理担当者から「お願いしてよかった」という言葉をいくつもらうか、といった具体的なKPIに落とし込みます。
この「自分事化」された目標設計により、社員は受け身ではなく、積極的に業務を巻き取る姿勢に変わります。もちろん、トライアンドエラーによる失敗もありますが、「前に転ぶ」チャレンジを推奨する文化が、結果として組織全体の生産性を引き上げています。障がい者雇用をコストではなく、未来の価値を生むアセット(資産)と捉え、本人のビジョンに寄り添う人的資本経営の実践が、私たちの収益モデルの根幹にあります。
AIは強みを解放する武器
特性の「制約」を突破する
――AIの進化により単純作業が代替される懸念があります。貴社ではAIをどのように活用し、障がい者の職域や能力を拡張させていますか。
私たちは、AIの進化を職を奪う脅威ではなく、特性による制約を突破し、強みを解放するための「武器」と捉えています。
象徴的な事例として、発達障がいの特性を持つ社員が、独学でAIスキルを磨き、現在は全社のAI利用促進を牽引する責任者として活躍しています。特定の分野に対する凄まじい集中力という特性が、AI推進という最先端の領域で爆発的な付加価値を生んでいるのです。また、学習障がいにより文章作成に時間を要していた社員が、AIをパートナーとして活用することで、作成時間を6分の1に短縮した事例もあります。苦手な領域をデジタルでカバーし、得意な領域にリソースを集中させることで、生産性は劇的に向上します。
社内のAI勉強会。発達障がいの特性を持つ社員が独学でAIスキルを磨き、現在は全社のAI利用促進を牽引する責任者として活躍している(ワークリア提供)
大切なのは、AIを「他人事」にせず、いかに興味を持てる環境を作るかです。私たちは社内でAI活用の座談会や、アプリ開発のナレッジ共有を頻繁に行っています。車座になって「このプロンプトが効いた」「このアプリが便利だ」と情報交換する場には、障がいの有無によるボーダーはありません。「できないことはAIに任せ、できることは世界一を目指す」という突き抜けた挑戦を支えるプラットフォームこそが、これからの障がい者雇用のあり方だと考えています。
事業構想は「障害予防」へ
不本意な悪化ない社会目指す
――未来の構想として掲げる「障害予防」という挑戦について、どのようなビジネスモデルで解決を目指しているのでしょうか。
私たちが掲げる「障害予防」とは、障がいそのものを否定するのではなく、適切な環境や理解がないために後天的に精神疾患を患ってしまうような「防げたはずの困難」をなくすことです。現代の五大疾病の一つに数えられる精神疾患に対し、企業がどう向き合うかは、今や経営の最優先事項です。
その第一段階としてリリースした「ワークリアステップ(サテライトオフィスサービス)」は、雇用主の企業とは離れたリモート環境にありながらも、ワークリアが運営するサテライトオフィスにて、専門スタッフのマネジメントを受けながら安心して働けるサービスです。サービス開始から1年、導入企業において離職者は一人も出ていません。これは、環境さえ整えば誰もが定着し、活躍できることの証明です。
今後は、この障がい者雇用で培ったノウハウを、すべての社員を対象とした人的資本経営のソリューションとして展開していきます。多くの企業では、心身のセルフケアが「自己責任」とされ、後回しにされています。しかし、自分の特性を正しく知り、適切な努力のベクトルを見極める教育ノウハウを一般企業へも発信していくことで、誰もが「自分らしく働き続けられる社会」を構築できるはずです。私たちの構想は、障がい者雇用という枠を超え、日本全体の「働く」を健やかにアップデートすることを目指しています。