不確実な時代を勝ち抜く「集合知」と三方よし
SNSを活用したインフルエンサーマーケティングや広告運用を武器に企業のデジタル戦略を支援する「支援会社」としての側面と、培った売る力を活かして自社で商品開発・運営を行う「事業会社」としての側面。この二つの顔を併せ持つ株式会社ナハト。社員の平均年齢は26歳と若く、華やかなオフィスの入り口からは、いかにも勢いのあるベンチャー企業という第一印象を受ける。しかし、その舵を取る安達友基代表取締役の語り口からは、日本の伝統的な価値観を重んじる実直な姿勢が伺えた。
そこには「三方良し」をはじめとする、日本人が歴史的に培ってきた組織の強みや経営の精神が、経営方針に深く組み込まれている。創業5年で売上高127億円を突破した急成長の背景には、既存の広告業界の慣習を打ち破る誠実さと、安達代表が掲げる「会社の再定義」があった。アルゴリズムが激変する不確実な時代において、なぜ同社は圧倒的な再現性を維持できるのか。組織を「村」と捉える独自の経営観から、2040年を見据えた世界戦略までを紐解く。
会社を「村」として再定義する
日本人の強み「三方良し」へ回帰
――資本主義における「株式会社」の在り方が問われる今、安達代表が掲げる「会社を村やコミュニティとして捉える」真意を教えてください。
現在の「株式会社」という言葉は、株式や上場といった金融商品としての側面が強くなりすぎていると感じています。本来、会社とは人が集まり、共に目標を達成し、関わる全員がより良い人生を送るための場であったはずです。株主還元を優先するあまり、現場で働く人々やその未来が置き去りにされる状況には強い違和感がありました。
こうした考えの根底にあるのは、日本人が本来持っていたはずの強みに根差した経営です。近江商人の「三方良し」のように、自分たちだけでなく、取引先も顧客も、そして社会も幸せにするという調和の精神こそが、日本の組織の本来の在り方ではないでしょうか。私は、能力の有無に関わらず、自分が心から大事にできる仲間と共に成長できる「コミュニティ」としての組織を作りたいと考えました。株式会社ナハトという存在を、人間らしい繋がりのある「村」のような場所に再定義し、古き良き日本企業の強さを現代において十分に活用することを目指しています。
NYでの挫折と固定概念破壊
不確実性の中を勝ち抜く視座
――ニューヨークでの留学生活が現在の経営哲学に大きな影響を与えたとのことですが、現地で得た最大の教訓とは何でしょうか。
ニューヨークでは、文字通り「ボコボコ」にされました。アジア人で、英語も喋れずにお金もない。経済の街で社会の最低辺のような感じを味わい、自分のプライドが完全に打ち砕かれたことが、今の私の強みになっています。現状の悪いものを受け入れるという姿勢が身につきました。
また、ニューヨークという多種多様な背景を持つ人々が密集する街で、自身の固定概念が破壊される経験も得難いものでした。背景が違えば、正義も常識も一変します。この経験から、「正しい・間違い」という二元論に囚われず、柔軟に物事を見ることがリーダーには不可欠だと再確認しました。社会通念上の固定概念に流されることなく、自分の感情に真っ直ぐに「何が本当に大事か」を問う。この姿勢が、株式会社ナハトの経営の根幹を成しています。
「やってみなはれ」が生む集合知
強力な差別化となる450人の感性
――アルゴリズムが激変するSNS領域で、営業部隊を置かずに圧倒的な成果を出し続ける、独自の組織体制の秘密を伺います。
私たちの組織は、かつてのサントリーが掲げた「やってみなはれ」のような、勢いと挑戦心に溢れています。近年、効率化のために社員削減を進める企業も多いですが、私たちは逆に多くの人を集めたいと考えています。理由は現場でリアルタイムに共有される「集合知」こそが智の源泉であり、強力な差別化要因になると考えているからです。
象徴的な事例が「VTuberによるシャンプーのプロモーション」です。髪を洗う姿が見えないVTuberでシャンプーが売れるかといえば、誰もが懐疑的に思うはずです。しかし、現場のメンバーは固定概念を覆す施策を成功させました。株式会社ナハトでは、入社2ヶ月目の若手でも、確信があれば「500万円ぐらい使ってやってみなさい」と予算を預けます。450名のメンバーが日々それぞれの感性で検証を回し、その成功事例が即座に共有され、全社の集合知へと昇華される。これこそが、不確実な市場を確実な勝機に変える唯一の手段だと確信しています。
■安達 友基
1993年生まれ、中央大学法学部卒業。在学中のニューヨーク留学を経て、学生時代よりインフルエンサー事業を立ち上げる。 2018年に自己資本にて株式会社ナハトを設立。 SNS広告やインフルエンサーマーケティングを通じたクライアント支援を軸に事業を拡大し、創業5期目に売上127億円に到達。現在は、ナハトのホールディングス化を見据えたグループ経営体制へと進化させ、新規事業の開発や子会社設立による事業領域の拡大に取り組んでいる。