ファミリービジネスの課題に長期的に伴走支援できる人材を育成

FB大国である日本。社会的変化に強い経営形態である一方、承継問題などを抱えるケースも多い。FBの経営支援を行うアドバイザーを育成する日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)の理事・プレジデントを務める小林博之氏は今こそFBアドバイザー育成が急務だと語る。

FBを取り巻く現状と
後継者に必要な資質・能力

小林 博之

小林 博之

一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA) 理事・プレジデント
日本興業銀行(現みずほ銀行)、みずほ証券ウェルスマネジメント本部⾧等を経て、2017年株式会社ソーシャルキャピタルマネジメントを設立、代表取締役社⾧を務める。2016年よりFBAAに参画、2022年よりプレジデントを務める。東京大学法学部卒、カリフォルニア大学バークレー校MBA修了。グロービス経営大学院教員、日本跡取り娘共育協会代表理事、トーセイ株式会社社外取締役、事業承継学会会員等。 https://fbaa.jp/

日本企業における同族企業、FB(ファミリービジネス)の割合は90%以上であり、上場企業もFBが約半数を占めている。また創業100年を超える長寿企業は世界の40%が日本にあり、まさに長寿企業大国ともいえる。所有と経営が緊密な関係にあるFBは、迅速な経営判断を下せる、社会変化に対応するレジリエンスが高いことなど強みが多い一方、内部では会社の私物化、ガバナンス上の問題なども起きやすいという。

先行きの予測が困難なVUCAの時代では、あらゆる企業でビジネスモデルの変革や新規事業、DXへの挑戦など今までにない大きな変化を余儀なくされている。対応を誤ると、ビジネスの老朽化、前時代的な経営思考への固執、家族内コミュニケーションの劣化による企業経営の停滞などにより、FBが持続可能な状況を維持できなくなるリスクにさらされる。

一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(以下FBAA)は、FBの持続的発展を支援する非営利団体で、専門性の高いFBアドバイザーの育成も行っている。理事・プレジデントの小林博之氏はFBを取りまく現状についてこう語る。

「事業承継をめぐる後継者難は一段と厳しさを増しており、特に家族内承継は減少の一途をたどっています。コロナ禍以降顕著なのですが、厳しい局面で動きを止めてしまい、時代の変化に乗り遅れてますます人材難の悪循環に陥っていく企業と、厳しい時期だからこそ、若い経営者にバトンタッチして時代にフィットした経営にチャレンジする企業とに二極化しています。しかし、お子さんがいらっしゃらない場合だけでなく、お子さんが家業を継ぐことを選択肢に入れていない場合には、親族内承継が難しいケースもあるでしょう。2023年の帝国データバンクの事業承継の実態調査では、親族内承継の件数が減少し、血縁関係のない役員などを登用した内部昇格が初めて1位になりました」

FBの強み・特徴として、創業精神・企業理念をオーナー経営者が語り継ぐことで社内の隅々まで浸透していること、企業経営に長期的な視点で臨むことができること、地域・社会との強固なネットワークを構築していることなどが挙げられる。ではFBの後継者には、どのような資質・能力が必要なのだろうか。

「FBの世代交代マネジメントでは、ビジネスとファミリーを同時に考えながら進めることが必要です。その中でもビジネスが持続可能な状況でない限り、FBもファミリーも幸せにはなれませんので、まずはビジネスを回していける人材であることが必要です。時代の変化が急激である中、広い視野と高い視座が求められます。既存事業と新規事業の両利きの経営、DX、サステナビリティ、社員のエンゲージメントなど、多くのものを同時に考え実行できる知識と、厳しい局面でも強い意志をもって乗り切って行こうとする胆力が求められます」

また後継者育成は、創業家に生まれた時から始まっており、幼少期からの教育が非常に重要だと小林氏は言う。今、後継者問題を抱える企業が多い理由として、子供には苦労させたくない、という親の思いの裏返しで、家業を継ぐことを選択肢の一つとして意識させてこなかったことも一因として挙げられる。このため、親がFBに対して誇りを持っていることを伝え、家業を継ぐことが、誇りや自信を持てる人生の選択肢であることを感じられるようにすることも、後継者教育として重要だと小林氏は話す。

FBへのアドバイスに必要な
理論と実践法を体系的に学ぶ

事業承継支援には長期的な伴走が必要で、小林氏はここをサポートするFBアドバイザーの育成を急務と指摘する。FBAAのFBアドバイザー資格認定プログラムでは、FBの特徴や実態を理解したうえで、それに対するコンサルテーションを学ぶなど、ファミリービジネスへのアドバイスに必要な最新の理論と実践法を体系的に学ぶことができる。

「FBアドバイザー資格認定プログラム」で学ぶ受講者の様子

基礎プログラムでは、講義やケーススタディを通じて、FBに対する知見と客観的かつ複眼的な視野、実践における考え方を獲得する。

受講者は経営者・後継者・税理士・弁護士など多種多様な人材が集っており、この多様性が他の事業承継関連の資格講座などとは決定的に異なる点であり、学びの深さが圧倒的に異なる理由がここにある。

FBアドバイザー育成の基本理論は、ビジネス、ファミリー、オーナーシップを同時に考えていく「3サークルモデル」だ。それぞれ、経営資源を活かして新たな価値創造を目指す「経営の承継」、次世代に次ぐことで家庭の幸福を目指す「家族の承継」、目に見える資産に限らず、無形のものも含めた「資産の承継」の3点が要となり、これらを三位一体として調和させていく承継計画の作成を支援しアドバイスできる人材に育てている。

事業承継は単なる一時のイベントではなく、長年かけて並走していくプロセスである。そのため、アドバイザーにとって、単なる業務ノウハウではなく、ファミリーへの深い理解と、オーナー経営者から全幅の信頼をもって迎えられる人間性を磨き上げることが、アドバイザーに求められる要件でもある。

ファミリーにも後継者の育成方法の提案や家族内の意見をとりまとめ、世代交代によるジェネレーションギャップの調整を行う。こうしたファミリーへのサポートは、ジェノグラム(家系図)を活用することが有効であり、基礎プログラムではジェノグラムの作成も学ぶことになる。

不足するFBアドバイザー
シニアのリスキリングにも有効

現在、FBAAの会員数は約300人、日本のFB企業数からみてもまだまだアドバイザー不足だと小林氏は語る。またFBアドバイザーはシニアのリスキリングとしても魅力ある分野だという。

「FBアドバイザーの分野は、年齢を重ねることで経験や人間力が備わり、活躍の場を広げていくことができる、シニアにとっても大変魅力ある仕事です。人生の経験を重ねているからこそ、経営者からも後継者からも信頼され尊敬されるアドバイザーになり得るわけです。営業目標などの制約から解放され、真に顧客と向き合って長く付き合っていけるFBアドバイザーこそ、シニアリスキリングとして最高のフィールドになるのではないでしょうか。多くの方々と一緒に、日本のFBをもっと元気に、そして日本社会をもっと元気にしていきたいです」