特集1 持続的成長のカギを握る後継者教育 社外で広がる多様な学びの場

帝国データバンクの調査によると、後継者「不在率」は53.9%と半数を超えており、後継者教育は喫緊の課題となっている。社会が急速に変化する中、後継者にはどの様な資質・能力が求められ、どの様な学びが必要なのか。現状の課題や最新の取組みを追った。(編集部)

後継者不在は改善傾向続くも
半数以上の企業が後継者不在

日本企業の屋台骨を支える中小企業。その多くは同族企業、いわゆるファミリービジネスであり、日本企業のファミリービジネスの割合は90% 以上で、上場企業もファミリービジネスが約半数を占めている。一方、ファミリービジネスの事業承継では、後継者不在が喫緊の課題となっている。帝国データバンクの全国「後継者不在率」動向調査(2023年)によれば、2023年の全国・全業種約27万社における後継者「不在率」は53.9%だった。前年比で3.3pt低下しており、後継者問題は改善傾向が続いているが、依然として、半数以上の企業に後継者が不在という危機的な状況が続いている。

図表1 「後継者不在率」の推移

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後継者不在の改善傾向が続いている状況について、同調査結果では、「各自治体や地域金融機関をはじめ事業承継の相談窓口が全国に普及したほか、第三者へのM&Aや事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継などプル・プッシュ型の支援体制が整備・告知された。こうしたアナウンス効果により、現経営者のみならず、後継者候補においても事業承継の重要性が認知・浸透されてきたことも、全国的に不在率が低下した要因の一つとみられる」と分析している。

図表2 就任経緯別 推移

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また、事業承継の在り方にも変化が起きている。同調査結果によると、前経営者との関係性(就任経緯別)では、23年(速報値)の事業承継は血縁関係によらない役員・社員を登用した「内部昇格」が35.5%に達した(図表2)。これまで最多だった「同族承継」(33.1%)を上回り、事業承継の手法として初めてトップに立ち、「脱ファミリー」の動きが加速していることが明らかとなった。

中小企業の親族外承継を研究している立命館大学教授の久保田典男氏には、親族外承継における後継者の能力形成プロセスの特徴や、親族外承継において求められる支援機関の「3つの役割」などについて話を伺った(➡こちらの記事)。

様々な形で展開される
後継者の学びの場

後継者不在が喫緊の課題の中で、後継者教育はどの様にすればよいのだろうか。静岡県立大学教授の落合康裕氏は、後継者教育について、「自社型」「地域型」「広域型」という3層モデルで整理できると話す(➡こちらの記事)。昨今、「知の深化」と「知の探索」による「両利きの経営」が注目されている中、「『自社型』の後継者教育は『深化』をもたらす一方で、『広域型』の学びの場は『探索』の力を育みます。私は3つのレイヤーの活動が連動することで、『深化』と『探索』の両輪がもたらされ、本当の意味での後継者教育が実現すると考えています」と話す。

実際の学びの場にはどんなものがあるだろうか。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構の中小企業大学校では、「経営後継者研修」を提供(➡こちらの記事)。研修期間は10か月間の全日制で、座学、演習、自社の分析を通じて、経営者に必要なマインドやスキル(能力)を開発していく。現在43年目を迎え、850名を超える卒業生がいる。

一般社団法人ベンチャー型事業継承では、同族企業や家族経営の会社を継ぐ中小企業後継者のための学びのプラットフォーム「アトツギファースト」を運営(➡こちらの記事)。未来志向のアトツギが、社長になるまでにやっておくべきことを学ぶことができる、予備校のようなコミュニティだ。同期(コホート)と学ぶ新しいスタイル「コホートスタディ」を採用するクラスでは、アトツギが学ぶべき5つの領域から、多彩なコンテンツを提供。会員登録は39歳以下が条件で、現在、全国各地から500名ほどの会員が参加している。

ファミリービジネスの経営支援を行うアドバイザーを育成する一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会(FBAA)では、FBアドバイザー資格認定プログラムを提供(➡こちらの記事)。同プログラムでは、FBの特徴や実態を理解したうえで、それに対するコンサルテーションを学ぶなど、ファミリービジネスへのアドバイスに必要な最新の理論と実践法を体系的に学ぶことができる。受講者は経営者・後継者・税理士・弁護士など多種多様な人材が集っている。

後継者に必要なリーダーシップや
女性後継者育成の課題とは?

ファミリービジネスの後継者は、従来は男性後継者が中心だったが、昨今は風向きが変わりつつある。法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の高田朝子氏は、後継者育成のポイントは大きく2つあり、それは「観察学習」と「経験学習」だと話す(➡こちらの記事)。高田氏は、女性に2つの学習機会をほとんど与えられてこなかったことは事業承継における大きな問題になっていると指摘する。

後継ぎ経営者がベンチャー的な手法で自社のV字転換を図るベンチャー型事業承継を研究する立命館アジア太平洋大学准教授の牧野恵美氏は、「ファミリービジネスを起業家的企業へと変革するには、先代経営者や社員等を含めた組織的な『調整』が重要になります」と話す(➡こちらの記事)。

後継者のリーダーシップ開発を研究している敬愛大学教授の佐竹恒彦氏は、「後継者が第二創業によって再生を図るには、人との絆や信頼関係とともに、リーダーシップの拠り所となる『嘘偽りのない』理念を見出すことが重要」だと話す(➡こちらの記事)。

最後に中小企業を対象にして、プロ経営者の育成や、ファンドを活用してプロ経営者とオーナー企業をマッチングする事業を行っている一般社団法人日本プロ経営者協会代表理事の小野俊法氏には、中小企業の「プロ経営者」の人材要件、求められる能力・マインドや、プロ経営者が育つためには、どのような経験が重要なのか話を伺った(➡こちらの記事

本特集では「事業承継の成否を分ける 次世代リーダーの育成」をテーマに、後継者教育の最新の取組みを探り、様々な視点から有識者や団体に話を伺った。今後の後継者教育の一助となれば幸いだ。