美しいプレゼンより「相手を知る好奇心」 AI時代に再定義される教育とキャリア

労働人口の減少とIT人材の慢性的な不足に対し、ITフリーランスという概念すらなかった2000年代初頭より、働き方のパラダイムシフトを仕掛け続けたギークス株式会社。曽根原稔人代表取締役社長が語る、「人とAIの共創」そして、日・比・豪を繋ぐクロスボーダー戦略とは。同社が構築する新たな「知のインフラ」の正体と、これからの時代に求められる「人にしかできない価値」の本質に迫る。

 当たり前ではなかった
「ITフリーランス」市場の創出

 ――創業当初、まだITフリーランスという概念が希薄だった時代に、どのような未来を確信して事業を推進されたのでしょうか。

ギークスの事業構想が生まれた2000年代初頭は、社会がインターネットの可能性に気付き始めた頃でした。モバイル系のビジネスが多く生まれ、産業構造が大きく変動していく中で私が直感したのは、特定の技術を持つエンジニアは、組織に属さずとも「個」で仕事ができるようになるのではないかということです。

「年功序列」「終身雇用」という高度経済成長期からの価値観が揺らぎ始め、キャリアをステップアップさせていく転職活動がポジティブに捉えられ始めた時期でもありましたが、ライターやカメラマンには「フリーランス」というキャリアがあった一方で、エンジニアにはその概念すら希薄でした。

彼らにヒアリングを重ねる中で見えてきたのは、高いスキルや経験を持ち、報酬アップや案件の主体的選択などを望みながらも、社会的信用の担保や獲得が最大の障壁となっていたことです。であれば、私たちがその「プラットフォーム」となり、彼らの市場価値を社会に証明する仕組みを作れればいいのではないか。これが原点です。

企業側にはギークスが責任を持つという安心感を提供し、フリーランス側には信用を担保しながらキャリアパスを提示する。この信用の資本化こそが、多様な働き方を支える根幹になると考えました。私たちが実現してきたことは単なるマッチングビジネスではなく、働き方のパラダイムシフトそのものです。

日・比・豪の三極を繋ぎ
IT人材不足の「供給の壁」を突破する

――国内のIT人材不足が深刻化する中、フィリピンやオーストラリアを拠点としたグローバル展開の狙いをお聞かせください。

IT人材が不足するのであれば、生み出すことが不可欠です。私たちはグループ企業のシードテックのフィリピンの拠点において、IT,AI,そして英語を短期間で学習するデジタル留学を展開しています。これは異業種からのキャリアチェンジを支援し、IT人材の母集団そのものを拡大する試みでもあります。オンライン学習サービス「ソダテク」を併用し、リスキリングの場を全方位に広げています。

さらに、2023年に買収したオーストラリアのLaunch Groupとの連携は、マッチングをクロスボーダーに進化させます。現在の円安状況下では、日本のエンジニアがオーストラリアの案件に参画することで、国内単価よりも高い報酬を得られるチャンスが生まれます。逆に、国内の中長期的なシステム運用には、フィリピンの若く優秀なリソースを活用したオフショア開発を提案しています。

オーストラリア市場の魅力は、日本のようなSIer文化が薄く、政府機関やグローバル企業が直接エンジニアを求めている点にあります。日本・フィリピン・オーストラリアという三極を繋ぐことで、国内の労働力不足を補完するだけでなく、日本のエンジニアがグローバル市場で適正な評価を受けられる、クロスボーダーのマッチングプラットフォームを完成させたいと考えています。こうした場所を問わないマッチングは、中長期的な未来に向けた私たちのロードマップにおける、最重要テーマの一つです。

「伴走型DX」で地方中小企業の
潜在能力を呼び覚ます

――一方で国内に目を向け、地方商圏の拡大を見据えた際に、官民連携や産官学連携などを通じた価値提供に対して、どのようにお考えですか。

例えば、2025年度は11道県の「プロフェッショナル人材戦略拠点」に登録しましたが、官民連携等において私たちが期待しているのは、自治体をハブとした地元企業へのタッチポイントです。    

地方の中小企業の多くは、人手不足やDXの必要性を感じながらも、何から手をつければいいか分からない、採用難易度やコストが高いといった課題を抱えています。私たちは現在、「DX職 -デジショク-」というサービスを通して、こうした企業に対し、一足飛びの高度なシステム導入ではなく、課題抽出や優先順位づけ、1社1社に寄り添った提案からデジタル化の推進を行っています。アナログな現場にチャットツールを導入し、その使い方を丁寧にアドバイスし、運用支援するだけでも、業務のスピード感は劇的に変わります。

私たちは、フィリピンのエンジニアリソースを活用した開発力と、国内のコンサルタントによる伴走支援を組み合わせ、中小企業の業績向上に直接寄与するモデルを構築しています。支援によって企業の業績が良くなれば、さらなる投資が生まれ、新たなサービスが創出される。この好循環を地方から作っていきたいのです。 

AIとの共創が生む「余白」を
泥臭い人間力で価値に変える

 ――「GEECHS AI」の開発などAI活用を推進する中で、採用方針や組織体制にはどのような変化がありましたか。

私たちは現在、「知識集約型」要素を高めたビジネスモデルへの転換を図るべく、AI活用を重要テーマと位置づけ、組織体制をアップデートしています。営業やマッチングの知識集約化と非属人化を実現する統合型AIエージェント「GEECHS AI」の開発などを通じて、全社員がトップレベルの成果を再現できる環境構築へ挑戦しています。

 AI活用が当たり前になる中で「人とAIの共創によって生み出された時間でどのような価値を発揮できるか」が重要です。人にしかできないこと、人だからこそできること。私たちが求めているのは、顧客の経営課題を深く察し、仮説を立て、泥臭く踏み込んだ交渉ができるアナログな熱量を持った人材、そして、この変化の大きい、正解のない時代を面白がれる人材です。

時代が一周し、2000年代初頭に私たちが求めていたような、相手の懐に飛び込み本音を引き出す人間力が、AI全盛期におけるビジネスパーソンの最大の差別化要因になりつつあります。プレゼンの美しさよりも、相手を知ろうとする好奇心と、そこから導き出される独自の提案力。こうした「人に依存するセンス」を評価し、伸ばしていくことが、これからの組織マネジメントの要諦であると考えています。

 今後に向けて、ギークスはテクノロジーと人間力を融合させた「知のインフラ」へと進化します。ITエンジニアがAIを武器に市場価値を高め、企業がその力を最大限に活用できる。そうした、人々の可能性を最大化させるプラットフォームであり続けることが、私たちの使命なのです。