企業内大学「ポラスアカデミー」、学びの文化を醸成する数々の仕組み

企業内大学「ポラスアカデミー」を開校し、人材育成に力を注ぐポラスグループ。必修科目は3年後の再受講を義務付け、知識の継続的なアップデートを促し、単位取得は人事評価にも反映する。数々の制度設計によって、「学びの文化」を社内に浸透させている。

2019年に企業内大学
「ポラスアカデミー」を開校

石田 茂

石田 茂

ポラス株式会社 人事部長
1996年ポラス株式会社へ新卒入社し、以降一貫して27年間人事に携わる。2008年人材開発課長、2010年人事課長、2013年人事部長に就任し現在に至る。過去複数のグループ関連会社設立を担い、現在はグループの基幹会社であるポラテック株式会社の監査役を兼任。グループ全人事機能を主管し、制度企画を得意としつつ企業カルチャーづくりに重きを置く。ライフ・ワークとして複数の異業種交流会を20年に渡り企画・主催。

近年、働き方改革やキャリアの多様化への対応、人的資本経営の推進など、企業には様々な変革が求められている。

社会環境が大きく変化する中で、埼玉県越谷市に本社を置き、住宅事業を展開するポラスグループは、企業内大学「ポラスアカデミー」を2019年11月に本格始動させた。ポラスの人事部長、石田茂氏は次のように語る。

「過去の成功体験に縛られていたら、これからの社会環境の変化に対応できません。ポラスアカデミーはリスキリングのための学びの場であり、社員の知的好奇心と学ぶ習慣を持続させて、社員一人ひとりの成長を目指します。ポラスグループの創業者・中内俊三は、『感じたら、すぐに動く』ことを意味する『感即動』という言葉を大切にしていました。私たちはその言葉のとおり、自ら感じ考え行動する、自律的な社員を育てたいと考えています」

現在、ポラスアカデミーは約140講座を設けており、財務やローン、建築、経営、IT・デジタル技術などの実務的な講座から、一般教養の講座まで内容は幅広い。専門性を高めるだけでなく、幅広い知識や教養、スキルを身につけることが目的だ。

「目前の仕事に直結するような即効性のあるスキル習得だけでは、有事への対応が難しくなります。ポラスアカデミーでは、社員が未知の領域に触れることにも重きを置いています。アカデミー開始の翌年からコロナ禍が起こりましたが、そうした事態に直面し、私たちの取組みが間違っていなかったと実感しています」

3年後の再受講を義務付け、
知識・スキルをアップデート

ポラスアカデミーは知識の探索と深化の機会を提供し、社員のイノベーティブなアイデアや発想、思考を育む。住宅市場が縮小している中で、例えば販売部門であれば、単に「モノを売る」という営業スタイルだけでは通用しない。顧客の潜在的なニーズや課題を掘り起こし、モノではなくコトを提案する力が重要になっている。

また、開発部門であれば、建築の技能や工学的な知識だけでなく、その住宅で暮らす人たちの「心の豊かさ」や「喜び」「嬉しさ」までを想像し、商品開発に取り組むような姿勢が求められる。そうした力を磨くためには、多様な知識やスキルを身に付けることが不可欠だ。

ポラスアカデミーは1講座当たり2~7時間程度のプログラムであり、必修科目と選択科目がある。必修科目は3年以内の受講を義務付け、さらに3年が経過すると再度の受講が必要になる。

「一度、学んだことも時間の経過とともに陳腐化します。そのため、知識・スキルを継続的にアップデートする仕組みにしました」

選択科目については、多くのカリキュラムの中から自分の仕事内容や興味関心に合ったものを選択し、受講する。充実したカリキュラムを揃えているが、今後は講座の数を増やすだけでなく、各講座の内容をよりブラッシュアップさせていきたいと語る。

「ポラスアカデミーは受講がゴールではありません。修了テストを受けて合格し、単位を取得して初めて修了となります。今後は、各自が学んだ内容をどの程度、理解・習得し、さらには実務上の行動変容につながったかを測定できるようにして、社員の成長に直結させる仕組みを整えたいと考えています」

単位取得を人事評価にも反映、
全社で「学びの文化」を醸成する

ポラスアカデミーの対象は、役員・全社員(定年後嘱託社員、パート・アルバイトを含む)だ。育児・介護等で休職した社員の復職支援としての活用も視野に入れている。

講師には、公認会計士や行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士、不動産鑑定士、一級建築士、構造設計一級建築士等を取得している社内講師や、大学教授等の社外講師など、各領域のプロフェッショナル人材が登壇。約7割が社内講師で、約3割が社外講師だ。

「日々の仕事で忙しい中、社員に講師をお願いするわけですから、最初は断る人もいます。しかし、自分の経験や専門知識を人に伝えられるように、暗黙知を形式知化することは本人や組織の成長につながり、大きな意義があります。人事部のほうから各社員に何とかお願いして説得し、社内講師を増やしていきました。また、近く社内講師を養成するための講座も始める予定です。今後は講師の社内公募も行い、数多くの社員に講師を務めてほしいと考えています」

ポラスアカデミーで取得した単位は、人事制度とも連動している。例えば、昇格要件の一つとして反映されるだけでなく、組織においても各部門の単位修了者の割合に応じて部門評価が加算され、管理職の個人評価にもつながる。こうした環境整備を通じて、組織一体となって受講を促す風土を醸成している。

受講スタイルには集合研修とオンライン研修のほか、それらから選べるハイブリッド型の3つがある。遠隔にいる社員でも受講しやすくし、一人でも多くの社員に教育機会を提供する狙いだ。ただし、講座はオンタイムで実施し、映像コンテンツ等によるeラーニングは提供していない。あえて、いつでもどこでも学べるコンテンツにはぜず、就業時間内の受講を促している。

「『学ぶことも仕事』という価値観を社内に浸透させたいと考えています。ポラスアカデミーの開始から3年半が経ち、社内では『ポラアカ』という略語が自然と飛び交うようになりました。リスキリングの組織文化が少しずつ定着してきたと感じます」

ポラスアカデミーには、各領域のプロフェッショナル人材が登壇。役員・全社員を対象に、知識の探索と深化の機会を提供している。 ポラスアカデミーには、各領域のプロフェッショナル人材が登壇。役員・全社員を対象に、知識の探索と深化の機会を提供している。

ポラスアカデミーには、各領域のプロフェッショナル人材が登壇。役員・全社員を対象に、知識の探索と深化の機会を提供している。

ミドル・シニア世代が
いきいきと働ける会社を目指す

ポラスグループでは企業内大学だけでなく、社員の成長を目指した数々の取組みを長年にわたり行ってきた。

自社による一流の大工を育成する取組みとして、「ポラス建築技術訓練校」を1987年から運営。同校は職人の減少や高齢化、技能継承への危機感から創業者の中内俊三氏が設立し、旧来の大工の常識であった徒弟制度をやめ、高校卒・大学卒それぞれの初給を支払いながら大工の育成を行っている。

また、行政機関や外部専門機関、建設会社や商社、デベロッパーなど、20以上の機関・企業と約15年間にわたり人材交流を実施し、社外出向により幅広い経験を積める機会を提供している。

さらに許可制ではあるものの、兼業・副業を推進。ポラスグループでの仕事と並行し、大学の非常勤講師や執筆活動、登山ガイドやコンサルタント、セミナー講師を務めるなど、社外で活躍の場を広げる社員が出ているという。

近年、力を入れている取組みの一つがミドル・シニアの活躍促進だ。2021年度には、条件を満たせば70 歳まで雇用を継続し、昇給する制度を導入した。

「ポラスアカデミーは、ミドル・シニア世代がいきいきと働き続けるための学び直しの場でもあります。また、兼業・副業制度を活用して、ミドル・シニア世代が培ってきた豊富な経験を活かし、地域に貢献するような活動を促進することも考えられます。社外を含めて、ミドル・シニア世代がやりがいを持って活躍できる、そうした居場所づくりを支援していきます。ポラスグループで仕事をしている親を見て、ご子息が『自分もこの会社で働きたい』と思えるような会社にしていきたいと思います」

ポラスグループは、全ての工程を自社グループで行う一貫施工体制を確立し、地域密着型経営を推進している。数々の人材マネジメント改革によって、学び続けることで仕事を変え、人生を変えるという企業文化を醸成し、人的資本経営の実現を目指している。

ポラスグループは「住まい価値創造企業」として、住宅に関する一貫施工体制を構築している。

ポラスグループは「住まい価値創造企業」として、住宅に関する一貫施工体制を構築している。