まちに「人がつながる場」を創出し、新たなチャレンジを生み出す

さいたま市を拠点に、コワーキングスペースやシェアキッチンを運営するほか、遊休耕作地や空き家の活用にも力を注ぐコミュニティコム代表・星野邦敏氏。多彩な事業を展開し、全国の他の地域でも通用する埼玉発のモデルケースの創出を目指している。

被災地での経験を経て、
地元・埼玉へのUターンを決意

星野 邦敏

星野 邦敏

株式会社コミュニティコム 代表取締役
1978年生まれ。埼玉県さいたま市出身。中央大学法学部卒。2008年、IT関連事業を手掛けるコミュニティコムを設立し、東京を拠点に活動。2012年12月、株式会社コミュニティコムの本社を、東京都から埼玉県さいたま市に移転。IT関連事業に加えて、「コワーキングスペース7F」の運営を開始。現在、シェアキッチンや遊休地の活用、1棟貸しの宿泊&テレワーク施設など、幅広い事業を手がける。

星野邦敏氏は2008年、さいたま市の実家でウェブサイト制作を中心としたIT関連企業・コミュニティコムを起業し、数ヵ月後、東京にオフィスを構えた。転機となったのは東日本大震災後の2012年、復興支援事業に携わり、被災して仕事を失った人たちのために、東北でウェブサイト制作を教える仕事に就いたことだ。石巻市へ行った際、同世代がUターンやIターンして被災した地元を活性化すべく頑張っている姿を目にし、心を動かされた。

「私の出身はさいたま市ですが、自分は生まれ育った地元に何もしていないと思わされました。自分も何か地元に貢献することがしたいと考え、戻ることに決めたんです」

「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」には起業したい人や何かを始めたい人が集い、交流が生み出されている。

「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」には起業したい人や何かを始めたい人が集い、交流が生み出されている。

2012年12月、コミュニティコムは本社を東京からさいたま市へ移転。従来からのIT事業に加え、新規事業として「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」の運営を開始した。「7F」は、大宮駅東口から徒歩1分のビルの7Fにあることから名付けられた。開設した当時は、まだ「コワーキングスペース」という言葉があまり知られていない時代だった。

「さいたま市において、フリーアドレスで利用できるシェアリング型ワークスペースは、私たちが初めてに近い状態だったと思います。大宮駅という埼玉県最大のターミナル駅の近くに新しい施設をつくり、起業したい人や何かを始めたい人が集まる場所にしたいと考えました」

人と人がつながり、
起業を後押しする場をつくる

同じビルの6Fには「シェアオフィス6F(ロクエフ)」や「貸会議室6F(ロクエフ)」を展開。

同じビルの6Fには「シェアオフィス6F(ロクエフ)」や「貸会議室6F(ロクエフ)」を展開。

「7F」を開設してから約11年が経ち、現在では同じビルの6Fに「貸会議室6F(ロクエフ)」「シェアオフィス6F(ロクエフ)」を設けるなど、ワークスペース事業を拡大させている。「7F」の運営を始めた当初から、星野氏が力を注いできたのが「創業支援」と「地域活性」だ。「7F」は、産業や雇用の創出により地域活性を目指すための拠点になっている。

コミュニティコムは創業支援セミナーを開催しており、ゼロから事業を立ち上げてきた起業家である星野氏自身も講師を務めている。

「『7F』からは、たくさんの起業家が育っています。『7F』では多くの人が起業に挑戦していますが、事業を継続できている人の特徴は、外部環境の変化に柔軟に対応できることだと思います。最初に考えていた事業内容に固執せず、いろんな人に出会ったりする中で、結果的に当初のプランとは異なる事業にシフトして成功しているケースもよくあります」

星野氏はその人のやりたいことを否定せず、挑戦を肯定して応援する。これまでの約11年間で「7F」の月額会員は累計約950人。その8割がこれから起業したい人や起業したばかりの人だという。現在の月額会員は約150人だが、会員を辞めた人たちとも定期的に連絡をとり、動向を把握するようにしている。

「最初に月額会員になる際には必ず面談します。そして会員から求められた時には、『7F』出身者を含めて人と人をつないだり、行政機関や金融機関などを紹介しています。また、交流会や勉強会などを定期的に開催し、人がつながる仕掛けづくりに力を入れています。起業家が育つためには、自分独りでは触れないような幅広い情報が自然と入ってくる環境が欠かせません。インターネットやSNSでは、どうしても情報が偏りがちになりますが、『7F』は多様な情報が集まる場所であり、人と交流しながら学びや気づきを得て、視野を広げられるメリットがあります」

商店街の空き店舗を活用し、
シェアキッチンを展開

さいたま市内でシェアキッチンを運営し、まちに賑わいを創出している。

さいたま市内でシェアキッチンを運営し、まちに賑わいを創出している。

コミュニティコムはコワーキングスペースだけでなく、シェアキッチン「CLOCK KITCHEN」も展開している。

「さいたま市は大宮や浦和を中心に発展を遂げていますが、商店街の地権者は高齢化し、空き店舗が増えています。そうした空き店舗を改装し、曜日ごと時間ごとでシェフが替わるシェアキッチンにしています。これから飲食店を開業してみたい人が初期費用を低く抑えて始められ、若者が育つ場所になっています」

コミュニティコムは現在、さいたま市内でシェアキッチン5店舗とキッチンカーを運営している。

「コワーキングスペースは起業志望者が集まる場所ですから、利用する人は限られます。一方でシェアキッチンは誰もが訪れる場所であり、老若男女が利用します。シェアキッチンによって、地域の活性化により大きく貢献できると考えています」

独立して飲食店を開業する際には、物件取得や融資・補助金関係など様々なハードルがある。星野氏はコワーキングスペース事業で培ってきたコミュニティを活かして、シェアキッチン事業でも人をつなぎ、挑戦を後押ししている。

遊休地に「ヒマワリの迷路畑」、
人が訪れるきっかけをつくる

創業支援と地域活性のさらなる展開に向けて、星野氏が今後力を入れていきたいと考えているのが、遊休耕作地の活用と空き家の活用だ。

遊休耕作地の活用として2022年夏、さいたま市の「見沼田んぼ」の一角にヒマワリの迷路畑をつくった。見沼田んぼは約1260haという広大な面積を持つ、首都近郊における貴重な大規模緑地だ。その景観保全を行うとともに、賑わいの創出にもつなげている。ヒマワリの迷路畑はメディアにも取り上げられ、人が訪れるきっかけをつくり出した。

さらに1000株ほどのさつまいもを植え、子ども向けの芋掘り体験なども開催。掘った芋をシェアキッチンで加工し売ることで、農と食を軸とした体験イベントも仕掛けていく。星野氏は現在、さいたま市の農業研修に通っており、来年には農業にも本格参入する計画だ。

「商店街の空き店舗や郊外の農地を借りられるのも、大宮駅前でコワーキングスペースの運営を地道に続けて、地元の信用を築いてきたからだと思います。何かがあった時に、『とりあえずあの人に声をかけてみよう』と思われる存在になったことで、いろいろな事業が生まれています」

さいたま市の「見沼田んぼ」の一角にヒマワリの迷路畑をつくり、人が訪れるきっかけをつくり出している。

さいたま市の「見沼田んぼ」の一角にヒマワリの迷路畑をつくり、人が訪れるきっかけをつくり出している。

全国の課題解決に資する
埼玉発のモデル事例を目指す

現在、秩父地域の横瀬町(よこぜまち)において、空き家活用の新たなプロジェクトが進行中だ。空き家を改装して2022年にテレワーク施設&宿泊施設「ocomori(オコモリ)」を開業し、今年には建物に併設したサウナ施設の準備も進めている。

「横瀬町は人口約8000人の小さなまちです。埼玉県内には、さいたま市のような都市部と秩父のような人口減少が深刻化している地域の両方があり、それぞれ異なる課題を抱えています。ocomoriでは今後増加が予測される空き家問題の解決と、地方でのテレワーク・ワーケーションなどのニーズの高まりを捉え、人口減少地域でも成立するビジネスを実現したいと考えています」

埼玉県において多彩な事業を展開している星野氏だが、それらで目指しているのは、全国の他の地域でも通用するモデルケースを確立することだ。都市部と郊外、過疎地域が混在する埼玉県でモデルケースをつくり出せれば、それは日本の様々な地域の課題解決に活かすことができる。

「例えば見沼田んぼのヒマワリ迷路畑であれば、それ自体で収益化は難しくても、イベント企画を組み合わせたりキッチンカーを置けば、マネタイズできるかもしれません。やり方次第ですし、人が訪れる場所にできれば、そこからできることは広がります。これからも地域の資源を活用して、他の地域が『自分たちもやってみたい』と思えるような埼玉発の新事業を立ち上げていきます」

星野氏は様々な「場」を創出し、埼玉で人が育ち、新たな挑戦が始まるきっかけを生み出し続けている。

秩父地域の空き家を改装し、テレワーク施設&宿泊施設「ocomori」を開業。

秩父地域の空き家を改装し、テレワーク施設&宿泊施設「ocomori」を開業。