ガンプラで未来を組み立てる-小学生5人に1人が体験する新しい学び
製造業の担い手育成という重要な課題に、革新的なアプローチで挑む企業がある。BANDAI SPIRITSが展開する「ガンプラアカデミア」は、多くの人が親しんできたガンプラ(ガンダムプラモデル)を教育ツールとして活用し、ものづくりの魅力を次世代に伝える先進的な教育プログラムだ。
地道な取り組みから始まったこのプロジェクトは、現在では小学5年生の5人に1人が受講するまでに発展。オンライン授業とプラモデルのセット提供により、全国の子どもたちに平等な学習機会を創出している。教育とエンターテインメントの融合により、次世代の製造業人材育成という社会的使命に取り組むBANDAI SPIRITSの挑戦を追った。
社会課題解決への新たなアプローチ
ーガンプラアカデミアを始めたきっかけを教えてください。
「ものづくり業界における担い手の育成という課題に対し、楽しさを通じて学びを提供することが重要だと考えました」と語るのは、BANDAI SPIRITSの江上嘉隆氏だ。
日本の製造業界では、次世代を担う人材の育成が重要な課題となっている。高度な技術力を誇る日本の製造業の継承と発展には、若い世代にものづくりの魅力を伝えることが不可欠だ。BANDAI SPIRITSは、この課題に対して独自のアプローチを行っている。
ガンプラアカデミアは、多くの人にとって馴染み深いガンプラの持つ教育的価値に着目し、社会貢献を目的とした革新的な教育事業として構想された。
「ガンプラを通じてものづくりの楽しさを伝え、次世代の製造業を支える人材の育成に貢献したい」という信念のもと、このプログラムは展開されている。
©創通・サンライズ
全国展開を支える戦略的取り組み
ー全国展開に向けた工夫や戦略を教えてください。
「幅広い世代に愛されてきたガンプラを、現代の教育現場に適した形で提供する方法を検討しました」と江上氏は振り返る。
全国の子どもたちにものづくり体験を届けるため、同社は段階的で確実なアプローチを採用した。教育現場への確実な情報伝達を重視し、まずはFAXによる学校への案内から開始。この丁寧なアプローチが功を奏し、徐々に口コミによる広がりを見せた。特に、ガンプラに造詣の深い教育者からの理解と支持が、普及の重要な推進力となった。
教育委員会との連携体制の構築により、より組織的な展開も実現。現在では、オンライン授業とプラモデルのセット提供という革新的な仕組みにより、地域を問わず質の高い体験型学習を全国に提供している。
体験型学習が創造する教育的価値
ー学校教育におけるガンプラアカデミアの意義とは何でしょうか。
「ガンプラを通じたものづくり体験により、子どもたちが将来、製造業やものづくりに関わる分野に興味を持つきっかけを提供したいと考えています」と江上氏は説明する。
このプログラムの核心は、理論と実践を融合した体験型学習にある。子どもたちは授業を通じてプラモデル製作に取り組み、完成の瞬間に得られる達成感は、学習への深い動機づけとなっている。
このプログラムの重要な意義は、教育機会の平等性にもある。主たる教育者である家庭の趣向や教育方針に関わらず、すべての子どもたちがものづくりの喜びを体験できる機会を、学校教育を通じて実現している。
現在、小学5年生の5人に1人がこの授業を受講している。「より多くの子どもたちにプラモデル製作の体験を提供し、将来的には3人に1人、さらには2人に1人へと拡大していきたい」と江上氏は、着実な成長戦略を描いている。
環境教育との融合で新たな展開へ
ー中学生以上への展開における新たな取り組みについて教えてください。
「小学生だけでなく、中学生以上の生徒に対しても、より社会的な課題と結びつけたプログラムが効果的だと考えています」と江上氏は語り、海洋プラスチック問題を題材とした革新的なプロジェクトを、今秋にリリースする予定だ。
より幅広い年齢層への教育機会提供を目指し、同社は新たな教育アプローチを開発中だ。環境問題という現代社会の重要なテーマとものづくり体験を融合させることで、より深い学習効果を期待している。「小学校4年生の環境学習向けに専用の指導案を準備する」ことも江上氏は検討しており、理科や社会科との教科横断的な学習プログラムへの発展が見込まれる。
この取り組みは、単なるプラモデル製作から、持続可能な社会の実現に向けた教育プログラムへの進化を意味している。
グローバル展開でものづくりの価値を世界へ
ー今後のガンプラアカデミアの展望をお聞かせください。
「1学年100万人が受講することを目標に、多様な形での拡大を目指していきたい」と江上氏は語る。この目標は、日本のすべての子どもたちがものづくり体験を享受できる社会の実現を意味する。
同社は、この教育プログラムの更なる発展に向けて壮大なビジョンを描いている。国際展開も積極的に推進しており、「台湾やアジア諸国でもガンプラアカデミアを展開している」と江上氏は、着実な成果を上げていることを明かす。世界的に普及している組み立て玩具との差別化についても明確な戦略を持っている。「他の組み立て玩具は自由度が高い反面、制作目標が曖昧になりがちです。プラモデルは具体的な完成形があることで、ものづくりの達成感をより明確に体験できる」と江上氏は、その独自性を強調する。
「世界中の子どもたちにプラモデルを通じたものづくりの喜びを広げていきたい」と江上氏は最終目標を語る。BANDAI SPIRITSの取り組みは着実に歩を進めている。デジタル技術が急速に発達する現代において、手作業による創造体験の価値を世界に発信する意義深い挑戦といえよう。
教育事業としての枠を超え、次世代育成という社会的使命を担うガンプラアカデミア。その発展は、日本の製造業の未来を切り拓く重要な基盤となることが期待される。
江上嘉隆(えがみ・よしたか) BANDAI SPIRITS 出身:兵庫県 学歴:大阪芸術大学芸術学部デザイン学科卒業 職歴:1985年 株式会社バンダイ入社、ホビー部配属。パッケージ類のデザイン、商品の企画開発を経て、現在の事業管理業務に至る。