職能や経験を総合的に発揮し、故郷・岩美町の活性化を目指す

社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」の第6期修了生・山下直彦氏は、鳥取県岩美町出身の一級建築士だ。東京、沖縄と渡り歩いた経験を経て、まちづくりへの志を深めた山下氏に、本課程で得た学びと故郷再生に向けた挑戦を聞いた。

東京・沖縄での建築経験と帰省から
生まれたまちづくりへの想い

山下 直彦

山下 直彦

山下建築設計ディベロップメント 代表
鳥取県岩美町生まれ。株式会社日建設計、株式会社エーアールジーを経て、2022年に独立。一級建築士、宅建士、既存住宅状況調査技術者、応急危険度判定士、ヘリテージマネージャー、1級小型船舶操縦免許保持。趣味はサーフィン。社会構想大学院大学「地域プロジェクトマネージャー養成課程」第6期修了生。

社会構想大学院大学の「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する。本課程は、多様な専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

第6期修了生の山下直彦氏は鳥取県岩美町出身。東京の大手設計事務所・日建設計に11年間在籍し、東京スカイツリーや豊洲の新市場など大規模プロジェクトに携わった。その後、沖縄でリゾートホテルの設計監理を手がけたことをきっかけに同地へ移住。2022年には山下建築設計ディベロップメントを設立し独立した。沖縄に移住後、個々の建築設計から、次第にまちづくりそのものに興味関心が広がっていった。一方、帰省のたびに気づかされたのが、故郷・岩美町の美しい自然と、消滅可能性自治体としての厳しい現実だった。山下氏は「地元の海の美しさに改めて気づかされ、この町をどうにかしたいという気持ちが芽生えました」と当時を振り返る。そうした折、本課程を知り、申し込んだという。

高浜町フィールドワークで描いた
スマートコンパクトタウン化構想

本課程では、地域活性化に向けた地方自治への様々なアプローチについて、地域での活動事例や学術的な側面の両方を学べたことが良かったと山下氏。また、教員との対話では、地方自治やまちづくりについて、実践を交えた説得力のある話を聞けたことが良い刺激になったという。政策提言では、福井県高浜町を選択した。高浜町を選んだ理由は、日本海沿岸の地形や町の課題の構造などで岩美町との共通点が多かったからだという。

「同じ日本海側で環境も地元・岩美町と似ていましたし、海を大事にしている町という点も似ているなと感じました。ただ、大きな違いは原発の有無でしたね」

フィールドワークでは町の隅々まで歩き、原子力発電所が地域にもたらす独特の生活感覚も肌で感じた。また、個人的な活動として、駅の中心部や海側など、日々の宿を変えながら様々な民宿に泊まった。

「地元により目を向けたいと思って、商売の話や世間話から始めて、現在の町をどんなふうに考えているのか。女将さんたちからお話を聞けたことが強く印象に残っています」

フィールドワークをもとに、山下氏が提言したのが「高浜町スマートコンパクトタウン化」構想である。CEMS(コミュニティエネルギーマネジメントシステム)を核に、空き家の利活用、スマート漁業など、自然・伝統に最新技術を融合させた将来像を描いた。

福井県高浜町の海岸。右端は山下氏本人。フィールドワークの最後に体験したサップヨガ。

本課程を修了して、同期の仲間や教員との対話などを通じて、「同じ想いを持ついろんな分野の人たちと出会えたことが一番の宝でした」と山下氏は振り返る。

「まちづくりを語る会」と
文化財継承から地元の未来を拓く

現在、山下氏が軸足を置くのは故郷・岩美町のまちづくりだ。その一環で国土交通省が推進する「二地域居住」を地域活性化に向けた政策ツールとして岩美町に政策提言も行った。今年帰省した際には「まちづくりを語る会」を立ち上げ、地元の知人などに呼びかけ対話を続けている。

3つの海水浴場がある岩美町。白砂の浜、透明度の高い海、洞窟や岩場なども点在する美しい景勝地でも知られる。

Photo by hayakato/ Adobe Stock

「今ここにいて楽しいこと、幸せに感じること、逆に不満に思うことを何でも話してもらうところから始めました。現在の参加者は建築・不動産系が中心ですが、医療・教育・伝統文化・食・観光など多様な人にも参加を促していきたいですね」

もう一つの柱が、岩美町に伝わる文化財などの継承活動だ。ヘリテージマネージャー(地域に眠る歴史的建造物や文化財などの発見・保存・活用に携わる専門家)の資格を持つ山下氏は、この継承を優先課題と位置づけ、オンラインミーティングや現地訪問を通じて動き出している。

こうした活動について「建築士やヘリテージマネージャー、養成課程の学びなど、培ってきた職能・経験・知識を総合的に発揮していきたい」と山下氏はいう。

本課程の受講を検討する人に向けて山下氏は「様々なことを自身の感性で受け取って、自身の想いに少しでも役立てるきっかけ作りにしていただければと思います。興味・関心があれば、やる価値は十二分にあります」とエールを送った。