乳幼児を中心に地域社会を育む 「赤ちゃんまんなか構想」の実現へ

大学時代から40年以上にわたり、子どもたちと地域活動を続けてきた山岸一繁氏。半導体技術者として働きながら、地域プロジェクトマネージャー養成課程での学びを経て、乳幼児と地域社会をつなぐ「赤ちゃんまんなか構想」を東村山市の事業として実現させた。これまでの経緯と今後の展望を聞いた。

大学時代から40年にわたり
子どもたちと地域活動を続ける

山岸 一繁

山岸 一繁

特定非営利活動法人子どもと文化のNPO
東村山子ども劇場
石川県金沢市出身。半導体GPU等の設計に41年間従事。大学時代より子どもとの地域活動を始め、現在は自ら立ち上げに携わった特定非営利活動法人子どもと文化のNPO 東村山子ども劇場にて、赤ちゃんから18歳までを対象とした演劇表現、舞台鑑賞、キャンプ等の創造活動を企画運営する。社会構想大学院大学 地域プロジェクトマネージャー養成課程第8期修了。

社会構想大学院大学の「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、地域活性へ向けた産官学連携プロジェクトを計画・運営する際に、様々な利害関係者の「架け橋」となり、プロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する。

本課程は、地方自治体の現役職員や経験者、地域活性化や産官学連携を実践する専門家が、通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

第8期修了生の山岸一繁氏は、半導体GPU等の設計に約41年間携わってきた技術者である。その一方で、大学時代から子どもたちとの地域活動を続け、現在は自ら立ち上げに関わった特定非営利活動法人子どもと文化のNPO 東村山子ども劇場で、赤ちゃんから18歳までを対象とした演劇表現、集団遊び、舞台鑑賞、キャンプなどの創造活動を企画運営している。その活動歴は、40年以上に及ぶ。

本課程受講のきっかけは、長年取り組んできた活動の意義を学術的に整理し直したいという思いだった。「活動そのものにどういう意義があるのか、体系的に学び直したいと考えていました」と山岸氏は振り返る。

矢板市へ向けた政策提言
「赤ちゃんまんなか構想」

本課程で最も刺激になったのは、受講者同士の出会いだったという。

「地域を盛り上げようという人たちが、こんなに熱い想いで、こんなにたくさんいるということを肌で感じました。それぞれスキルも専門分野も全く違うのですが、自分の持っている力で地域に貢献したいという人たちが集まっていて、すごく元気をもらいました」

河村昌美教授の講義では、地域における行政・住民・実践者の三者関係の中で、どのような考え方を持ってプロジェクトを進め、成果を得ていくべきかを学んだ。「基本的な考え方から進め方、成果の得方、そして継続の仕方まで全てが盛り込まれた、非常に中身の濃い授業でした」と語る。

そしてゼミでは、栃木県矢板市を対象にした政策提言「赤ちゃんまんなか構想」を作成した。これは、乳幼児を地域社会の中心に据え、芸術体験や多世代交流を通じて、赤ちゃん・保護者・地域住民のつながりを育むという構想だ。

山岸氏にとって、政策提言の作成における最大の学びは、自らの活動を第三者に伝わる言葉に変換するプロセスだった。

「自分の中では良いと思って活動しているのですが、それを構想にするためには、なぜそれが社会にとって良いのかという『Why』をきちんと言葉にしなければなりません。自分の中で言葉になっていないものを言語化するところが、一番の学びのポイントでした」

さらに、活動を継続するためのビジネスモデルの構築も大きな収穫だった。実施回数や場所、費用まで含めた具体的な事業計画の考え方を学んだことで、実際の地域活動にもフィードバックすることができたという。

東村山市との協働を実現
他の自治体への展開も目指す

NPOでは、赤ちゃんから18歳までを対象とした様々な活動を企画・運営している。

Photo by maru54/Adobe Stock

本課程での学びは、具体的な成果につながった。山岸氏は矢板市に向けた政策提言をさらにブラッシュアップし、乳幼児を持つ保護者の具体的な困りごとと、それを解決するための活動を結びつけたストーリーとして再構成。それを東村山市に提案したところ、話が進み、2026年度から同市の助成事業として実施されることが決まった。

「地域プロジェクトマネージャー養成課程で、行政の予算の仕組みや、提案の伝え方を学んだことが大きかったです。今までは『良いものだからやってほしい』と押し通そうとしていましたが、それでは通じない。本課程で学んだ構想の立て方があったからこそ、行政に認めてもらえたのだと思います」

今後は東村山市での実践をモデルケースとして成果を積み重ね、同様の課題を抱える他の自治体にも展開していくことを目指していく。

最後に、本課程の受講を検討する人へのメッセージを尋ねると、「熱い想いを持った、地域を盛り上げようとしている人がたくさんいることを体感してほしい。そして何より、修了後もつながり続ける人脈ができることが最大の魅力です。自分のアイデアに反応してくれる仲間が全国にいるということは、何よりの財産です」と力を込めた。

山岸氏はさらに、乳幼児に焦点を当てた地域づくりの提言が極めて少ない現状を指摘する。

「赤ちゃんは言葉を話せなくても、五感を通じてコミュニケーションをとっています。0歳から社会の一員として受け入れる視点を、すべての世代が持つことが大切です」

山岸氏の赤ちゃんを真ん中に据えたまちづくりへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。