【文科省議事録詳報】国立大学の交付金 「二層構造」に大転換へ
文部科学省に置かれた「第5期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会」(座長・橋本雅博住友生命保険相互会社取締役会長代表執行役)は、2026年7月29日、国立大学の次の運営期間となる第5期中期目標期間(2028〜2033年度)に向けて、運営費交付金の新たな算定ルールをまとめた中間報告を公表した。運営費交付金とは、国立大学が教育や研究、地域貢献といった活動を安定して続けられるよう、国が毎年度支給している基盤的な資金のことだ。今回の中間まとめでは、この資金の仕組みを大きく組み替え、大学が共通して必要とする経費を支える枠組みと、大学ごとの挑戦を後押しする枠組みとに分けて設計し直す方向性が示された。
物価高と老朽化に苦しむ大学
近年、物価上昇や人件費の増加が続く一方で、大学に配分される運営費交付金の実質的な価値は目減りを続けてきた。加えて、実験装置や校舎の老朽化も深刻で、更新や最新設備の導入が追いついていない大学も少なくない。教育研究の土台そのものが揺らいでいるとの危機感が、今回の見直しの出発点にある。
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こうした状況を受け、政府は2026年3月27日に閣議決定した第7期科学技術・イノベーション基本計画で、運営費交付金を含む大学の基盤的経費について大幅な拡充を図る方針を打ち出した。文部科学省も同じ流れの中で、有識者による検討会が2025年8月29日にとりまとめた「改革の方針」を踏まえ、2025年11月に「国立大学法人等改革基本方針」を策定しており、今回の中間まとめは一連の改革論議の延長線上に位置づけられる。
交付金を「二層」に再設計
検討会は2026年2月6日に設置され、同年2月24日、3月24日、7月10日の3回にわたって会合を開いてきた。原資料によれば、この間に算定方法の詳細を検討する作業部会も並行して開かれ、検討会本体・作業部会それぞれ4回の議論を経て、今回の中間まとめとして取りまとめられたという。
中間まとめが示した新ルールの柱は、運営費交付金の使い道を性格の異なる二つの層に分けて設計し直す点にある。ひとつは、すべての大学に共通して必要な基盤的経費を支える「第1層」。もうひとつは、大学ごとのミッションや経営判断に基づく挑戦を後押しする「第2層」だ。前者は物価や人件費の変動に応じて金額が連動する仕組みとし、大学が中長期的な見通しを立てやすい安定性を重視する。後者は、各大学の戦略的な取り組みや成果を評価し、資源配分に反映させるインセンティブとして機能させることを狙いとしている。
基盤を支える「第1層」の仕組み
第1層で措置されるのは、必要な教員数・職員数に人件費単価を掛け合わせて算出する人件費相当額と、教員数に応じた研究費、学生数に応じた教育費、施設面積に応じた維持管理費を積み上げて算出する物件費相当額の二本立てだ。これらに人件費変動率や物価変動率を乗じることで、実際の物価・人件費の動きに連動させる仕組みとなっている。
退職手当についても見直しが検討されている。これまでは個々の教職員ごとに文部科学省が個別に算定してきたが、法人化から20年以上が経過したことを踏まえ、支給実績の平均単価をもとにした固定額配分へと簡素化する案が示された。個別精算の手間を省くと同時に、各大学が中長期的な財源の見通しを立てやすくする狙いがある。
挑戦後押しする「第2層」
第2層は、①中期目標・中期計画に基づく戦略的なプロジェクトを支える「政策実現・機能強化の取組」、②学長のリーダーシップに基づく予算配分である「学長裁量経費」、③教育研究の成果を評価して配分に反映する「成果・実績に基づく配分」の三本柱で構成される。三つを一体的に運用することで、大学の挑戦から成果の発現までを連続した流れとして支える設計だ。
現行の第4期中期目標期間(2022〜2027年度)では、この成果・実績に基づく配分は「基幹経費」という枠組みに位置づけられ、配分対象経費1,000億円、配分率は75〜125%(指定国立大学法人は70〜130%)という運用がなされてきた。ただし評価指標の数が多く制度が複雑だという指摘もあったため、第5期では指標をよりシンプルにし、単年度ではなく複数年度で評価する枠組みへ転換する方向が検討されている。
附属病院・学校・研究所の課題
大学に付属する病院や学校についても、それぞれの機能に応じた調整が必要だとされた。附属病院では、診療報酬による支援と教育研究への支援の役割分担を明確にすることが課題として挙げられている。附属学校では、教員の多くが公立学校との人事交流によって着任している実態を踏まえ、その継続を支える人件費の設定や、次期学習指導要領を見据えた先導的な教育モデルの開発を後押しする方向性が示された。
附置研究所や、大学の枠を超えた共同利用・共同研究拠点についても、消耗品費や光熱費の高騰を踏まえた継続的な支援の必要性が指摘されている。また、大学共同利用機関法人については、国立大学法人と基本的に同じ算定方法を採用しつつ、大型実験施設特有のコスト増にも配慮する方向で検討が進む見通しだ。
残された論点と予算の行方
今回の中間まとめは、あくまで基本的な考え方の整理にとどまる。単価や補正係数の具体化、物価変動率に用いる指標の選び方、学生納付金の在り方といった論点は、今後さらに詰めていく必要がある。文部科学省は、2027年度予算編成や第5期中期目標・中期計画の策定に向けた検討状況を踏まえながら、引き続き制度設計を進めるとしている。
あわせて中間まとめは、制度見直しの議論と並行して、足下の第4期中期目標期間の予算確保も欠かせないと強調した。国立大学が法人化された2004年度の運営費交付金予算は約1兆2,416億円だったのに対し、2026年度予算は1兆971億円にとどまり、前年度比188億円の増額ではあるものの、法人化当初の水準にはまだ届いていない。
もっとも、この188億円という増額幅は2017年度以来9年ぶりの増額であり、2014年度の震災関連の給与減額措置終了に伴う増額を除けば過去最大の増額幅だという。国立大学協会も、法人化以来最大級の増額だと評価する会長コメントを公表した。2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(通称・骨太の方針2026)や「日本成長戦略」でも、運営費交付金の大幅な拡充が盛り込まれている。第4期の最終年度にあたる2027年度予算での上積みが第5期の制度設計の土台にもなるだけに、今後の予算編成の動向が注目される。