公平感が組織に及ぼす影響と自発的な役割外行動を引き起こす要因

組織における公正への重要度は以前と比べて格段に増している。様々な行動に「ハラスメント」が生まれる現代において、企業はどのようにして「公正」を担保すればよいのか。企業が取り組むべきポイントや、自発的な役割外行動を生み出す環境構築やチーム設計の方法について、話を聞いた。

公正が組織に及ぼす影響
意識すべき「公正の3側面」

田中 堅一郎

田中 堅一郎

日本大学 講師
日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC、常葉学園浜松大学国際経済学部、広島県立大学経営学部、日本大学大学院総合社会情報研究科教授を経て現職。専門分野は職場における心理学的諸問題で、組織における公正、従業員による反社会的行動、リーダーシップの自己概念についての調査研究、および職場におけるジェンダー・ハラスメントの軽減の試みについての社会実装を行う。

産業・組織心理学や社会心理学を専門に、組織や職場での不公正・不公平感の諸要因とその心理学的影響について研究を重ねてきた田中堅一郎氏。公平あるいは不公平の処遇が従業員の行動に及ぼす影響を考える際のポイントとして、社会心理学の分野で論じられる「公正の3側面」を挙げる。1つ目は報酬などに対する心理的反応としての分配的公正、2つ目は結果を導くまでの過程に関する手続き的公正、3つ目は処遇や対応など対人コミュニケーションにおける相互作用的公正だ。

国際的に最も早く研究が始まったのは分配的公正であり、1965年に発表されたJ.S.アダムスによる「衡平理論」が広く知られている。従業員が組織から得られる報酬や成果などのアウトカムと、従業員が組織に与える努力や能力などのインプットの比率に着目し、組織内で他者と比較して比率が等しければ人は公正と感じ、モチベーションが最大化されるという理論だ。

「比率やバランスが崩れた状態、つまり、私はあの人のよりも成果を出しているのに給料が少ないと感じるとモチベーションは低下し、組織への不満が高まります。それが退職や従業員の窃盗などの犯罪といった非協力的行動を引き起こす原因になることもあります」

ただ、アウトカムやインプットは全てが定量では計測できるものではない。それゆえに組織や企業が完璧を目指すことは難度が高く、1975年以降はこの領域で新しい研究が生まれていない状態にあるという。

「分配的公正を実現するためには企業は重要なインプットや評価する範囲などを明確にして、従業員が不公平さを感じないように細かく、明確に決める必要があります。それでも前提として個人の能力の差があるので難しいですね。この領域の公正に関しては多くの企業が今も悩みながら模索していると思います」

近年、注目が高まる
相互作用的公正のポイント

手続き的公正と相互作用的公正は後発の研究領域だが、分配的公正と比較すると実現が容易であり、現在も研究が盛んに進められているという。

図 公正研究の4つの波

画像をクリックすると拡大します

「手続き的公正に関しては、1980年にレヴェンソールが発表した6つのルールが有名で今も本質は変わりません。全体を通して使われる一貫性や決定者が偏った判断をしない偏見の抑制、正確かつ豊富な情報のもとに決定される情報の正確さ、ミスとわかったときに正せる修正可能性、全ての利害関係者の意見を表現する代表性、倫理や道徳に合致する倫理性の6つです」

近年、日本国内において最も注目度が高まっているのは対人コミュニケーション領域である相互作用的公正だ。組織において重要になるポイントは「寄り添うこと」と田中氏は話す。

「上司が部下に何かを伝える際に、その内容は事実なのでどんな伝え方をしても変わりません。それでも相手のことを真剣に考えていることを伝えるなど、伝達の方法で公平感は変わります。評価結果を伝える際に明確な根拠を示し、部下の意見を丁寧に聞くことや、評価方法など制度の変更を行うに際しては部下に誠意をもって対応し、不公正とみなされそうな評価結果を伝達する際には遺憾の意を伝えるなど、考えられることはたくさんあります」

自発的な役割外業務を行う
組織市民行動はなぜ生まれるか

チーム設計において田中氏が着目する要素の1つに「組織市民行動」がある。従業員が自身に与えられた役割外の行動を自発的に行うことであり、それにより組織の機能や雰囲気が向上するというメリットがある。

「組織市民行動は周囲のためにという美しい理由もあると思いますが、実際の現場はもっと切実な理由でしょう。職域を個々が完全に独立させてしまうと、その間にある業務が行われずに組織が停滞してしまうため、自発的に業務を拡げて補っているというのが実際のところだと思います」

そのうえで組織市民行動が起こる先行要因において、前述した公平性は欠かせないものと説明する。さらに、最も重要なポイントにはリーダーのあり方を挙げる。

「職務満足感と組織コミットメントも次いで大きな要因であり、それを引き起こすものとして欠かせないのは支援的リーダーシップです。上司が部下に対して高圧的な態度を取るのではなく、部下が上司からのサポートを受けられていると感じることが必須で、自分は大切に扱われていると感じると組織市民行動は生まれやすくなります」

田中氏は1990年代初頭から組織市民行動の領域に着目し、研究を進めてきた。その過程のなかで国内における変化を実感しているという。

「研究を始める前に1980年代終わりに執筆された海外の研究書を読んだところ、ヒントになったのは日本企業だったと書いてありました。バブル経済に入っていく直前で、高度経済成長期を通して日本はどんどん豊かになり、職務満足感やコミットメントが高まり、自発的行動が生まれやすかったのではないかと思います。でも、今の日本は状況が大きく異なります。それゆえに組織市民行動が生まれにくいともいえますが、個々の従業員が職域を拡大して補い合うという図式は今も昔も変わらず、それをしなければ組織の機能はうまく回らないという現実があります」

本来は「自発的」に生まれる役割外の行動である組織市民行動。現代においてどうしたら生まれるのか、そのヒントは「公正にある」と田中氏。

「モチベーションを最大化するチーム設計をするためには、公平な組織をつくることが欠かせません。分配的公正はすぐに正解は見つからないかもしれませんが、手続き的公正や相互作用的公正は取り組めばできることが多々あります。結局、大事なのは組織と従業員の双方の納得感です。それを高めていくために何ができるか、公正の観点から探ってみるとよいのではないでしょうか」