政策問題の構造の分析 問題要因の探索と関連性の分析

政府の政策アジェンダに設定されると政策問題への対策が正式に検討され始めます。しかし、政策問題の大半は「厄介な問題(wicked problem)」であり、対応を間違えると問題を更に悪化させることもあります。今回は政策問題の特性を踏まえ、どのように問題の構造を分析すべきか説明していきます。

政策問題の複雑性と悪構造性

秋吉 貴雄

秋吉 貴雄

中央大学 法学部 教授
一橋大学博士(商学)。専門は公共政策学、政策過程論。主に、政策決定過程の理論研究と規制改革等の事例分析とを行ってきた。近年は、政府組織における学習(政府学習)、政策プロセスのマネジメント、ルールチェンジ・ルールメイキングのプロセスと戦略といった領域に関心を持って研究を進めている。

前回説明しましたように、政策問題は政府の「アジェンダ(agenda)」に設定されることによって、解決の正式な対象となります。

問題解決の対象となると、政府による解決案(政策代替案)が検討されることになるのですが、その前の段階として政策問題自体の分析が必要になります。

本連載の第一回で触れたように、政策問題には「複雑性」という特性があります。具体的には、①総合性(複数の問題と相互に関連)、②相反性(ある問題の解決によって別の問題が悪化)、③主観性(多様な主体による多様な問題定義)、④動態性(問題構造と要因が時間とともに変化)といった特徴が指摘されています。

例えば、近年深刻化している政策問題に、地域公共交通問題があります。地方では、鉄道、バス、タクシーといった公共交通の利用者が大幅に減少し、その維持が困難になっている地域が少なくありません。かつてはいわゆる過疎地域での問題として認識されていましたが、現在では一定の人口規模の都市においても、バス路線等が廃止になることもあります。

地域公共交通問題は「公共交通機関の利用者の減少」という単純な問題のように思われるかもしれません。しかし、他の政策問題と同様に複雑性を有する問題となっています。公共交通は住民の居住状況という都市構造と密接に関連するといったように、総合性の問題があります。また、交通機関に対して多額の補助を行うと、福祉をはじめとした他の政策分野の予算が削減され、各分野で抱える問題が悪化するといったように、相反性の問題もあります。

さらに、本連載の第一回で触れたように、政策問題を意思決定問題として捉えた場合、多くの問題で「悪構造性」という特性があります。具体的には、①目的の不一致、②無限定な範囲の代替案、③代替案の結果の不確実性といった特徴が指摘されています。

地域公共交通問題でもこの悪構造性という特性が確認できます。第一の目的については、地域公共交通問題では一見「公共交通機関の利用者の増加」で一致しているように思われるかもしれません。しかし、公共交通ネットワークや都市構造のあり方には多様な見解・利害があるため、具体的な目的での一致は難しくなるでしょう。また、第二の代替案については、地域公共交通の活性化には様々な対策があり、その範囲は無限定となります。さらに、第三の代替案の結果については、地域公共交通の活性化には一定の時間を要するため、各種の対策が将来どのような結果をもたらすかは不確実なものとなっています。

問題要因の探索

このように政策問題には複雑性と悪構造性という特性があり、「厄介な問題(wicked problem)」となることが多いため、問題構造の分析が必要になります。

問題構造の分析においては、まず、問題を構成する要因の探索が行われます。地域公共交通問題であれば交通機関の経営悪化といった現象を引き起こす要因が探索されます。

図1:階層化分

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問題要因の探索には様々な手法がありますが、代表的手法として階層化分析とKJ法があります。

階層化分析は、ロジックツリーと称されることも多い手法で、問題状況を論理的に分割していき、個別要因を探索する手法です(図1)。

例えば、地域公共交通問題では「A:交通機関の経営状況悪化」は「A-1:収入の減少」「A-2:支出の増加」に大きく分けられます。さらに「「A-1:収入の減少」は「A-1-1:利用客の減少」「A-1-2:広告収入の減少」…と分けられ、最終的に「便数の少なさ」等の要因が発見されます。

KJ法は、当該問題に関係するステークホルダー(当事者)のブレインストーミングで出てきた情報を整理する手法になります。ステークホルダーが問題について自由な議論(ブレインストーミング)を行い、そこで出てきた問題の要因が「一行見出し」の形で紙に示されます。例えば、地域公共交通問題であれば「通勤時間の運行本数が少ない」といった要因が紙に書き出されていきます。そして、様々な要因の中で、関連性のある要因がグループとしてまとめられます。地域公共交通問題では「通勤時間の運行本数が少ない」「昼間の運転間隔が長い」といった問題要因が「運行ダイヤの問題」としてまとめられ、他の要因との関係性が図示されます。さらにそれを見ながら見落とされた要因が追加されることもあります。

要因間の因果関係の分析

階層化分析やKJ法で問題要因が探索されると、次に要因間の関係を分析するコーザリティ(因果関係)分析が行われます。コーザリティ(因果関係)とは、2つの要因(A、B)が、原因(A)→結果(B)の関係であることになります。

コーザリティ分析では、まず、2つの要因間に相互関連性があるか確認されます。そして、相互関連性がある場合、どちらがどのように影響を及ぼしているかということで因果関係(原因→結果)が発見されます。例えば、地域公共交通問題について、A「運行本数」とB「利便性」は相互関連性があるとみなされます。そして、AからBに影響が及ぼされますので、AとBの間での因果結果が発見されます。

図2:問題構造図

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全ての要因間についてコーザリティ分析が行われると、要因間の関係性を可視化した問題構造図が作成されます(図2)。問題構造図で要因の関係性を把握することができますが、問題の対策を考えていく上で重要になるのがフィードバック・ループの存在です。例えば図2では、C→D→E→F→Cとして、元の要因に戻るループ(循環)があります。

政策問題、特に、悪化の一途を辿っている深刻な問題には往々にして悪循環となるループが存在しています。例えば、地域公共交通の問題では、「利用者の減少」→「交通機関の収益の悪化」→「運行本数の減少」→「利便性の低下」→「利用者の減少」→・・・といったループになっているところは少なくないでしょう。問題要因間の因果関係の分析では、悪循環のループの存在についても注目し、ループを発見した際には対策を検討しなければいけません。

このように、政策問題への対応策を検討していくためには、まず、問題の要因を探索し、要因間の関係について検討することが非常に重要になってくるのです。