多様化する働き方・働く場 オフィス環境と創造性の関係を探る

コロナ禍を経て多様性を増す働き方と働く場所。オフィス環境はクリエイティビティにどのような影響を与えるのか。東京大学の稲水伸行准教授と組織のDXを支援するディスカバリーズ、オフィス空間等のトータルサービスを提供するオカムラの3者による研究について聞いた。

オフライン・オンラインの
行動データから創造性を分析

稲水 伸行

稲水 伸行

東京大学 大学院経済学研究科 准教授
2008年 東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2005年〜2008年 日本学術振興会特別研究員(DC1)、東京大学ものづくり経営研究センター特任研究員、同特任助教、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授を経て、2016年より現職。博士(経済学)(東京大学, 2008年)。主な著作:『流動化する組織の意思決定』(東京大学出版会, 第31回 組織学会高宮賞 著作部門 受賞)。

牧島 満

牧島 満

株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 チーフリサーチャー
2004年、北海道大学大学院工学研究科修士課程を修了し、株式会社岡村製作所(現・株式会社オカムラ)に入社。空間デザイナー職を経て、2006年より現在の研究職に従事。オフィス環境やオフィスが持つ価値の数値化・定量化に取り組む。

島田 祐一朗

島田 祐一朗

ディスカバリーズ株式会社 代表取締役社長
1999年、慶應義塾大学を卒業後、外資系広告コンサルティング会社にてマーケティング・サイエンスに従事。2003年、マイクロソフト株式会社に入社後、デジタルマーケティングによる日本独自の法人向けオンライン・コミュニティを立ち上げ、顧客満足度向上に貢献。日本および米国本社のアワードを数々受賞。グローバル全社員のトップ5%に選出。2009年、ディスカバリーズ株式会社を設立、代表取締役就任。

2022年9月、東京大学大学院経済学研究科の稲水研究室とディスカバリーズ、オカムラの3者は、ハイブリッド・ワーク下の働き方に焦点を当てた共同研究について、論文『時間展望とクリエイティビティ:細かい時間単位の行動データを用いたハイブリッド・ワークの分析』を、組織学会学術誌・組織科学に共著で発表した。

同論文では、今後のハイブリッド・ワークや組織改革の発展への貢献を目指し、ハイブリッド・ワークにおける環境と時間・クリエイティビティ(創造/革新行動)の関係性について分析。オフィス内での時間と場所の使い方に加え、オンラインでのコミュニケーション情報から、ワーカーの行動を分析・検証した。

今回の研究は、稲水氏とオカムラで進めていた研究に、ディスカバリーズが加わる形で実現した。

稲水氏はもともと経営組織や職場における問題解決を主に研究をしており、クリエイティビティを問題解決の一つの形として位置づけ、オカムラと共同でオフィスを対象にした研究を行ってきた。

「これまでの研究ではアンケート調査を主としてきましたが、実際の行動を計測するにはデータとして粗いこと、主観が入るためバイアスのかかったデータになることが課題で、より客観的なデータを取り分析したいという思いがありました」(稲水氏)

一方、オフィスにおいては近年、仕事内容に合わせて場所を選ぶ働き方・ABW(Activity-Based Working)が注目され始めているが、コロナ禍でテレワークが一気に広まったことで、自宅をはじめとして、社外のさまざまな場所を含めたABWが広がっている。

「共同研究ではこれまでもビーコン(ブルートゥースを用いた位置特定技術)によるオフィス内の行動データを取ってきましたが、オフィス内の物理的な移動だけでなく、オンラインでの行動も併せて取る必要性が高くなりました。そのなかでディスカバリーズが提供する『IntelliReport©』に出会い、3者での共同研究がスタートしました」とオカムラ・ワークデザイン研究所の牧島満氏は話す。

IntelliReport©は、業務アプリの利用状況から従業員の働き方を可視化するクラウドサービス。ディスカバリーズ代表の島田祐一朗氏は「本研究ではMicrosoft Teamsのチャットデータから、誰が誰と、どのくらいの時間、どれくらいの熱量(速さ・頻度等)でやり取りしているかといった情報を分析し、組織におけるコラボレーション、コミュニケーションを数値化するアプローチを取りました」と説明する。

テレワークとオフィスを
バランスよく

同研究は、コロナ禍以降急速に普及した、オフィスとオフィス以外を使い分ける『ハイブリッド・ワーク』をテーマにしている。オフライン・オンラインの両面で、どの場所にどう時間配分し、コミュニケーションツールをどう使えばクリエイティビティの発揮につながるのかを明らかにすることが目的だ。

「経営学の世界でいうクリエイティビティには、『独自性』と『有用性』の2つが揃っていることが必要です」(稲水氏)

(※全文:3028文字 画像:あり)

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