世界の2億人が遠隔学習の体制整わず ユニセフ報告書
ユニセフ(国連児童基金)が発表した報告書によると、2億人の学齢期の子どもが暮らす低・中所得国31カ国では、将来の緊急事態における学校閉鎖に備えて、遠隔学習を導入する体制がいまだに整っていない。そのうち1億200万人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの少なくとも半分以上の期間、学校が完全または一部閉鎖された14カ国に住んでおり、多くの子どもたちがいかなる形態の教育も受けられない状況にある。
今回、ユニセフが発表した報告書では、遠隔学習の限界とアクセスの不平等さについて概説し、実際の状況は入手可能なデータが示しているよりも、はるかに悪い可能性があると警鐘を鳴らしている。また、高中所得国や高所得国を含む調査対象外の国においても、生徒たちが遠隔学習の課題に直面していることが、逸話や定性データによって明らかになっている。
報告書における、その他の主な調査結果は下記のとおり。
・調査対象となった67カ国のうち31カ国は、すべての教育レベルにおいて、遠隔学習を提供する準備が整っていない。その中で最も影響を受けているのが、西部・中部アフリカ地域の子どもたちだ。残りの17カ国は平均的な準備ができており、19カ国は平均以上の準備ができている。
・就学前教育は最も軽視されている教育レベルであり、COVID-19のロックダウンの際にも、対応するための政策を展開していない国が多く、最も重要な発達段階にいる幼い子どもたちが取り残されている。
・気候変動などによるその他の危機も、教育へのアクセスに大きな影響を与える。31カ国のうち23カ国は、気候・環境ショックを受ける危険性が高いあるいは極めて高いとされており、1億9,600万人の学齢期の子どもたちが、緊急時の学校閉鎖のリスクに晒されている。
・アルゼンチン、バルバドス、ジャマイカ、フィリピンは、最も準備が進んでいる。しかし、こうした指標のスコアが高い国々においても、国内で格差があるため、貧しい家庭や農村部に住む子どもたちは、学校閉鎖中に取り残される可能性が非常に高くなっている。
・心強いことに、国民総所得(GNI)が比較的低い国の多くが、平均以上のスコアを獲得している。これは国際協力や良い事例を共有し合える可能性を表している。
報告書では、対面授業に代わるものはないと述べている。しかし、強固な遠隔学習システム、特にデジタル学習を備えたレジリエンス(回復力)の高い学校であれば、緊急時の学校閉鎖中も、ある程度の教育を行うことができる。さらに、学校が再開された後も、こうしたシステムによって生徒は失われた学習時間を取り戻すことができる。
ユニセフは、官民パートナーと協力し、 Reimagine Education(教育の再構築)イニシアチブを通じて、子どもや若者が質の高いデジタル学習に平等にアクセスできるようにし、2030年までに約35億人の子どもたちに世界水準を満たすデジタル学習ソリューションを提供することを目指している。ユニセフは、この目標に向けて、マイクロソフト社と共同で開発した世界的な学習プラットフォーム「ラーニングパスポート(Learning Passport)」を活用し、学校閉鎖中の160万人の子どもたちを支援している。
自宅で祖父に教えてもらいながら勉強する男の子(カメルーン、7月撮影。公益財団法人日本ユニセフ協会・プレスリリースより)
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