日本のAI人材不足をどう解決するか 2万人学ぶ「コミュニティ型」で切り拓くAI人材育成

IT人材の不足が叫ばれる昨今において、AIツールの進化スピードは日々加速し、従来の座学やオンデマンド型の教育では追いつけない状況が生まれている。この課題にいち早く着目し、「コミュニティ型」という新たな教育手法で挑むのが、株式会社SHIFT AIだ。代表の木内翔大氏は、AI人材の大量育成を通じて「AI先進国日本」の実現を目指している。サービス開始から2年弱で2万人の学習コミュニティを構築した同社の構想やAI時代の人材像を聞いた。

「シンギュラリティ早く実現したい」
コミュニティ型で最新知識のキャッチアップ促進

経済産業省の試算によると、2040年には約300万人のAI・ロボット人材の不足が予測されている。AIの領域は他の領域に比べ進化のスピードが速く、キャッチアップが困難という性質があるが、そんな課題に立ち向かうのが株式会社SHIFT AIだ。

同社は2022年3月に設立されたAI教育企業であり、代表の木内翔大氏にとっては2度目の起業となる。国内最大級のAI活用コミュニティ「SHIFT AI」を運営し、現在2万人を超える会員を抱える。

特徴的なのは「コミュニティ型」と呼ぶ教育手法で、講師が毎日ウェビナーを開催するだけでなく、学習者同士が教え合う仕組みを構築している。

「AIの浸透により、労働が効率化され、みんながより生産的な仕事に集中したり、生活が豊かになったりするという予測が立っています。それを早く実現させたいのです」と木内氏は事業に対する思いを語る。

前回の起業でも、プログラミングスクール「SAMURAI ENGINEER」を立ち上げたが、技術進化に対応できる人材を育てるという思いは一貫している。同スクールでは結果的に10万人以上のエンジニアを育成し、プログラミングスクールブーム創出の先駆けとなり、日本のIT人材不足解消に貢献した。

しかし、木内氏によれば、未だ状況は楽観視できない。「日本人はIT事業への感度の低さや教育などの課題を昔から抱えています」。だからこそ、時代が新たに「シフト」していく今、AI教育のインフラを早急に構築しなければ、日本がAI領域においても後進国になってしまうという危機感があった。

「無限に幅も深さも広がっていく」AI
従来の教育方法ではなく、コミュニティ型を選んだ理由

同社の最大の特徴は、従来のオンライン教育とは一線を画す「コミュニティ型」のアプローチだ。なぜこの手法を選んだのか。木内氏の答えは明快だった。

「AIリスキリングの課題は、AIツールの選択肢の幅広さや奥深さです。初級的な使い方から上級的な使い方もありますし、最新性も求められます。AI開発によって開発スピードも上がっているので、アップデートが異常に早い のです」。

無限に幅も深さも広がっていくAIリスキリングの課題に対応するには、授業を都度作成するオンデマンド型の講義などではなく、「もうコミュニティ型しかないのでは」と木内氏は当初から構想していた。

「数百人の講師兼学習者たちが、日々研究しながら、その研究成果を共有していく」研究会コミュニティを築くことで、ツールの幅広さや使い方の奥深さに対応しようという狙いだ。

教育コミュニティには、教育戦略のみならず、コミュニティ拡大に関する構想もあった。「企業向けの研究会だとスケールが容易ではない」ことから、開設当初は個人に焦点を当て、コミュニティとして着実に成長。まず規模を作ることで優秀なAI人材をプールし、そのAI人材たちにコンテンツを作ってもらうという好循環を設計した。

そうした成長を反映し、現在の会員構成の属性も多種多様である。

「個人事業主や技術者の方、リテラシーが高い参加者も3割前後います。逆に言うと、AIに触れたことがない初心者の参加者も半分くらいいらっしゃいます」。属性の垣根を超え、それぞれが切磋琢磨していくと「初心者の方が自ら学んでいって、今度は逆に教える側に回っていただく」という好循環が生まれてくる。

自ら学ぶことで成長していく姿勢は、AI教育に関わらず、知識を身に着けるための基本の一つだが、アップデートが早い というAIの領域の特性を見極め、コミュニティ化することで情報の回転速度や感度を上げていった点に、同社の独自性がある。

想定上回るスピードで成長するコミュニティ
「3年以内に100万人」─人口の1%へのインパクト

コミュニティの成長は、木内氏自身も驚くほどで、既に2万人以上に到達している。「サービス開始からまだちょうど2年弱。2年弱で2万人という規模は想定していませんでした」と語る。

木内氏は「この1年ぐらいで、AIに対する世間の情報感度が急速に上がってきています。ここ半年から1年の問い合わせは、もう異常ですね。爆増しているという状況です」と社会の変化を実感している。

同社の次なる目標は壮大だ。「私たちのサービスを通してAIを学ぶユーザーベースを、3年以内に100万人達成したい」。これは日本の人口の約1%に相当する数字であり、コミュニティとしては突出した規模となる。

「AI時代に生き残る人材」の3つの条件
人間にも求められる「UI」

成長戦略を掲げる同社だが、木内氏は「AI時代に生き残る人材」として、3つのスキルに分類して考えている。

まず必須なのが「ハードスキル」だという。AI活用能力そのものだ。

「専門的な業務やスキルは、基本的には最終的にAIに代替されていく運命にあります」。だからこそ「自分の専門領域のスキルと掛け合わせていくことが、今やるべきことなのかなと思います」と語った。

2つ目に挙げたのが「ソフトスキル」。いわゆるコミュニケーション能力と言われる部分である。「AI時代は、AIが優秀で色々な仕事をやってくれます。木内氏によれば、人間の価値を発揮していくには、人間として気配りや細やかな対応ができることが差別化になる」という。「人間としてのUI」という印象的な言葉を用いつつ、技術の進化に合わせた人間側の進化が求められると語った。

そして最後に挙げたのが「メタスキル」だ。「思考能力、粘り強さ、グリットのような特性」。粘り強さやリーダーシップといった「人間性」の部分が重要だと木内氏は強調する。

AI教育を通じて日本のIT人材不足の課題に向き合う株式会社SHIFT AI。必要なスキルが変化していく中で、人としての在り方の重要性を見つめる木内氏の言葉には、技術革新が進んだ世界での構想のヒントが散りばめられていた。

木内翔大(きうち・しょうた)

株式会社SHIFT AI 代表取締役

1990年東京都生まれ。大学時代からWEB・AIエンジニアとして活動し、2013年に日本初のマンツーマン専門プログラミングスクール「SAMURAI ENGINEER」を創業、累計4万人以上を指導。2022年に株式会社SHIFT AI創業。「日本をAI先進国に」を掲げ、国内最大級のAI活用コミュニティ「SHIFT AI」運営。生成AI活用普及協会 協議員、GMO AI&Web3株式会社 AI活用顧問。