第一人者が語るジョブ型論の誤解、企業・大学への本当の影響

昨今、ジョブ型雇用をめぐり多くの言説が交わされているが、その中には誤解に基づくものも多い。「ジョブ型正社員」の拡大を早くから提唱してきた労働政策研究・研修機構 労働政策研究所所長の濱口桂一郎氏に、ジョブ型を正しく理解するための視点、今後の展望を聞いた。

「ジョブ型=成果主義」ではない、ジョブ型をめぐる多くの誤解

──昨今、日本の産業界でジョブ型をめぐる議論が盛んになっていますが、この状況をどのように見ておられますか。

濱口 桂一郎

濱口 桂一郎

労働政策研究・研修機構 労働政策研究所 所長
1983年東京大学法学部卒業、労働省(現厚生労働省)に入省。欧州連合日本政府代表部一等書記官などを経て、2003年東京大学大学院法学政治学研究科附属比較法政国際センター客員教授。05年政策研究大学院大学教授。08年労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員、17年4月から現職。著書多数。近著に『働き方改革の世界史』(ちくま新書、2020年)。

ジョブ型について、誤解に基づいた議論や報道が非常に多いと感じています。例えば、ジョブ型を取り上げたあるネットメディアの記事では、「日立は2021年3月までに、ほぼ全社員の職務経歴書を作成」という記述がありますが、完全に間違いです。

日立が作成を進めているのは、職務内容や勤務条件を詳細に明記した「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」であり、「職務経歴書」ではありません。ジョブ型とはジョブ(職)を基準にしてそこに人を当てはめる考え方であり、日本企業で成立してきたメンバーシップ型は、人から発想して仕事を割り当てます。職務経歴書は、その人のこれまでの職務経験をまとめたものですから…

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