経産省、AIロボティクス新戦略へ検討会始動 米中に危機感 巻き返し図る

経済産業省は「AIロボティクス検討会」を開催し、AIを活用したロボットに関する新たな国家戦略の策定に向けた議論を開始した。世界的に開発競争が激化するAIロボティクス分野で、米国や中国に後れを取っているという危機感を背景に、日本の強みを生かした巻き返し戦略を打ち出す構えだ。

多用途ロボットを軸に

検討会では、工場などで特定の作業をこなす従来の産業用ロボットだけでなく、ヒューマノイドのように、様々な状況で多様なタスクを実行できる「多用途ロボット」を主な対象とする。AI技術の進化により、これまでロボットの導入が進まなかった建設、医療・介護、小売、物流といった「ロングテール領域」での活用が期待されている。

経済産業省公式ホームページより

新戦略では、日本の強みである高度なハードウェア技術を生かしつつ、ソフトウェアによって機能が定義・更新される「SDR(Software Defined Robot)」への移行を重視。供給側(ハード・ソフト開発)と需要側(市場導入)の両面から、日本の勝ち筋と必要な政策を検討していく。

米中の巨額投資と日本の現状

資料によると、多用途ロボット市場は2040年までに約60兆円に達すると見込まれている。しかし、現状の市場動向や各国の政策動向が続けば、その半分以上を中国が獲得する可能性があると指摘されている。

米国ではTeslaが2024年に研究開発に約45億ドル(約6,800億円)、設備投資に約113億ドル(約1.7兆円)を投資。NVIDIAは今後4年間でAIチップ製造やロボティクス開発プラットフォームに約5,000億ドル(約75兆円)を投じる方針を示している。スタートアップも数千億円規模の資金調達を行っている。中国も国家主導で大規模な産業政策を実施し、ヒューマノイドロボットに1.4~1.7億ドル(約200~250億円)以上を割り当てている。一方、日本のスタートアップの資金調達額は数億〜数百億円規模に留まっており、大きな差が開いているのが現状だ。

日本は産業用ロボット市場で約7割のシェアを誇るものの、近年はシェアが低下傾向にあり、今後の成長が見込まれるサービスロボット市場では米欧中に後れを取っている。

経済産業省公式ホームページより

今後の戦略と日本の強み

検討会では、こうした現状を踏まえ、日本の強みである「産業用ロボットで培った高度な技術基盤」と、「高齢化・人手不足といった現場ニーズの高さ」をどう活かすかが焦点となる。

政府は、国内の事業者がAIロボティクスの開発を進めやすくなるよう、オープンな開発環境の構築や、学習データの基盤整備などを支援していく方針だ。具体的には、フィジカルAIの開発促進やソフトウェアとハードウェアのモジュール化を進める環境整備を進める。

経済産業省公式ホームページより

検討会は第1回で主に供給側、第2回で供給側と需要側の現状と課題について議論を行い、第3回で新たなロボット戦略の方向性と必要な施策を取りまとめる予定だ。日本のものづくり産業の競争力を左右する重要な戦略となるだけに、その議論の行方が注目される。