国立大学改革の新方針、文科省検討会が提言 政府挙げた支援策を要請
国立大学法人化から20年、急速な少子化や悪化する財務環境といった厳しい現実に直面する中、文部科学省の検討会(座長:相澤益男科学技術国際交流センター会長)が、新たな「改革の方針」をまとめた。昨年7月に設置された同検討会は12回にわたる議論を重ね、各大学が自らのミッションを明確化し、再編統合も視野に入れた抜本的な機能強化を促すとともに、文科省だけでなく政府全体で大学を支援する体制の構築を強く求めている。
今回の改革方針は、法人化後の20年間が日本の低成長期「失われた30年」と重なり、国立大学がコストカット型経営を強いられた結果、諸外国との研究力や財政基盤の格差が拡大したという強い危機感に基づいている。AIの到来やグローバル化など、社会が大きな転換期にあることを踏まえ、未来に責任を持つための改革の断行が必要だと強調している。
方針では、今後の国立大学法人全体のミッションとして、「不確実な社会を切り開く世界最高水準の研究の展開とイノベーションの牽引」、「変化する社会ニーズに応じた高度専門人材の育成」、「地域社会を先導する人材の育成と地域産業の振興」の3つを提示した。各大学はこれらのうち、どのミッションに重きを置くかを自ら特定し、「真の経営体」として独自の改革を進めることが求められる。
文科省の公式ホームページより
その機能強化を実現するため、マネジメント体制の見直しなどガバナンスの抜本的強化が不可欠とされる。CFO(最高財務責任者)やプロボスト(教学担当副学長)の活用、経営と教学の分離などを通じて、実効性のある経営戦略を構築する必要があるとした。組織の見直しにおいては、複数の法人による大学統合や「一法人複数大学」といった再編・統合も、ミッション実現のための有効な選択肢だと指摘している。
財政支援の根幹である運営費交付金についても、物価や賃金の上昇で実質的に目減りしている現状を踏まえ、そのあり方を大きく見直す。第5期中期目標期間(令和10年度から)に向けては、中期的な見通しを立てやすい「明快な配分ルールの構築」、各法人の成果に応じたインセンティブ設計、物価変動に対応し安定性を向上させた仕組みの導入などが求められる。
さらに方針は、各法人の取り組みを強力に後押しするため、「政府を挙げた支援策の検討」を打ち出した。文科省だけでなく多くの府省庁が、それぞれの政策目的のために国立大学法人を支える視点を持つべきだと強調し、文科省が省庁間の連携を主導し、国全体で大学の力を最大限に生かす体制づくりを求めている。
検討会の相澤座長は最終会合で、「国立大学の法人化が明治、昭和に続く第三の改革とすれば今回は第四の改革と言われるべきものだ」と位置づけた上で、「各法人がミッションを踏まえて進めていく人材育成や研究力の強化は国力の根幹を支えるものであり、国を挙げて支援する方向性を担保することが必要だ。文科省には他の省庁と連携し、責任をもって取り組みを進めてほしい」と述べ、国立大学の機能強化に向けて文科省がリーダーシップを発揮することへの期待を示した。