プレミアグループが描く、人と組織の新しい成長曲線
「人は財産」という考えを、単なるスローガンではなく、具体的な仕組みとして実装する。プレミアグループは、この価値観を軸に、「強い個」と「しなやかな組織」の両立を目指している。制度、人材育成、働き方改革を連動させ、社員一人ひとりの可能性を引き出すことで、顧客価値と働きがいの両方を高めようとしている。

女性活躍が生み出す、新たな価値
組織の多様性を高めることは、人的資本経営におけるもう一つの重要な柱だ。プレミアグループでは、2018年に女性活躍推進プロジェクト「Lean in Premium」を立ち上げ、女性社員のキャリア支援に本格的に取り組んできた。座談会やワークショップ、宿泊型のキャリア研修などを継続的に開催し、ロールモデルとなる社員が自らの経験を共有している。
「こんな考え方もある」「自信がなかったけれど挑戦してみようと思えた」――。そうした声が社内に広がり、女性社員の意識変化が着実に進んでいる。
プレミアグループでは、こうした取り組みの成果が意思決定の現場にも表れつつある。商品企画やサービス開発の場に女性メンバーが増え、従来は男性中心で見落とされがちだった視点を積極的に取り入れ、企業価値創造に繋げることを目指している。
「車の運転や所有の経験は少ないけれど、安心してカーライフを楽しみたい。」といった女性ユーザーの声をサービスにどう反映するかは、まさに女性活躍の大きな目的の一つである。こうした実践を通じて、女性活躍はもはや倫理的テーマではなく、実際の“事業競争力の源泉”となっている。
また、前述の産育休ガイドブックの整備により、上司や家族を含めた周囲の理解が進んだことで、制度利用への心理的ハードルが低下。安心してキャリアを継続できる環境が整いつつある。制度と文化、意識と実践を一体で進化させることで、多様性が「働きやすさ」と「企業価値創造」の両立を後押ししている。

DX人財の定義と育成
同社はDX推進を重要な成長戦略の1つと位置づけている。求めるDX人財像を独自に定義し、段階に応じたマインドセット醸成やスキルレベル向上につながる教育プログラムを実施している。教育と並行して、全社員が公式にGoogle Geminiを利用できる環境も整備し、最新技術の活用にも注力。
AIを活用し、一人ひとりの創造性を最大限に引き出すのが狙いだ。また、管理職にはITパスポートの取得を義務付け、苦手意識の高い年齢層のITリテラシー向上を図る。AIに業務の補助を任せ、人は判断や顧客理解といった人間的な業務に集中する。その結果、人の意思とAIの補助が重なり合うことで、業務の質と効率の双方が高まると考えている。
人は財という価値観を制度に落とし込む
年に一度、社員の声を集める自己申告制度では、上司は閲覧せず、人事トップと社長のみが内容を確認する。会社への意見や本音も率直に書ける安心感が、現場の声をすくい上げる仕組みになっている。
実際にこの声を受け、従来の「2時間時短」と「フル復帰」の間を埋める「1時間時短」制度が導入された。さらに、産休・育休ガイドブックも、当事者だけでなく上司や家族にも役立つ形で整備され、制度利用を円滑にしている。
さらに、こうした制度設計の基盤の上に、現場と本部の往来を促す仕組みもある。本部と現場の視点は対立ではなく補完関係にあると同社は捉える。配置転換やプロジェクトへの越境を通じて、社員が多様な役割を経験し、組織全体で知見を共有している。
働き方の柔軟性を高める取り組みとして、コロナ禍ではリモートワークやサテライトオフィス、フレックスタイム制を導入。営業職でも家族と暮らしながら成果を上げられる環境づくりに取り組んだ。単身赴任の必要性を見直すなど、働き方の再設計も進めている。
こうした情報発信も特徴的だ。社長自身がブログで意思決定の背景を発信し、社員の納得感を高めている。配置や制度、情報発信が連動することで、組織全体に一体感が生まれている。
10年後の人的資本経営
近藤氏は、10年後の理想像として「個が強く、組織がしなやかであること」を掲げる。一人ひとりが意思を持ち、自律的に行動できること。その上で仲間や組織が柔軟に支える体制が、変化の時代に適応する鍵だという。
強い個を育むためには実践的な学びも必要だ。同社は階層別に研修を用意しており、その好例として、ミドル層や次世代リーダーには「リーダーシップ研修」や「疑似修羅場」に没入する研修を実施している。参加者は、設定された状況(ストーリー)の中で仲間と協力し、限られた情報を基に意思決定を行い、最善の結果を導き出す体験をする。
研修では、参加者が葛藤や決断の重みを実感する場面も多く、終了後には経営トップとの対話を通じて内省を深め、判断力と胆力を鍛える。この研修は、次世代層の成長を促す重要な施策となっている。
これらの取り組みを通じて、同社の価値観である「強い・明るい・優しい」に加え、素直で一生懸命である文化を全社員に浸透させ、体現させることが、未来の成長を支えると見据えている。