蒲郡市長に聞く 官民一体のまちづくり リーダーとなる人材育成を推進

地域活性へ向けプロジェクト全体をマネジメントする「ブリッジ人材」を育成する社会構想大学院大学の地域プロジェクトマネージャー養成課程では、地方自治体に政策提言を行う機会がある。フィールド自治体として受講生を受け入れた蒲郡市(愛知県)。鈴木寿明市長に受け入れの背景や狙いなどを伺った。

官民一体のプロジェクトを担う
人材の育成を目指して

鈴木 寿明

鈴木 寿明

蒲郡市長
1962年愛知県蒲郡市生まれ。1986年金沢大学教育学部卒業。2008年、家業である新鈴木新聞舗の代表取締役に就任。2009年蒲郡商工会議所青年部会長、2013年蒲郡シティセールスプロジェクトプロジェクトリーダー、2017年蒲郡市小中学校PTA連絡協議会会長などを経て、2019年蒲郡市長に就任。現在2期目。

「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(以下「本課程」)では、多様な専門家が通常学習する機会の少ない「行政視点」を多く取り入れながら、地方自治体の考え方、地域活性化や産官学連携の手法・事例などについて、リアルかつ現在進行形の知識・スキルを提供。また、地方自治体に政策提言を行う機会も設けている。

本州のほぼ中央に位置する愛知県蒲郡市。渥美半島と知多半島に囲まれた海辺の観光地で約47kmある海岸線沿いには4つの温泉地がある。市内には日本の文化を感じさせる神社や仏閣も多い。2021年11月、蒲郡市は全国に先駆けて、サーキュラーシティ(循環都市)構想を発表し、教育・健康など7つの重点分野のもと取り組みを進めてきた。そうした中、蒲郡市は本課程第5期(2023年11月~2024年3月)のフィールド自治体として協力。受講生は5か月間にわたり、現地調査・文献研究・関係者ヒアリング等を通して、蒲郡市の地域課題に対して具体的な政策提言を行った。

――本課程のフィールド自治体としてご協力いただいた背景について、お聞かせください。

鈴木 当市の行政職員は課題意識が非常に高く、その解決に向けて日々努力しています。ただ、それに加えて民間の力も必要です。公的機関に所属していない民間の方々が、まちの課題を認識して、その解決に官民一緒に取り組んでいく。そうした形が一番理想的だと考えています。

そこで、民間の中からリーダー的な存在となって、地域の課題解決を牽引する核となる人材育成を推進していきたいとの想いから、本課程での受講を蒲郡市で予算化しました。蒲郡市の各種プロジェクトを官民一体となって取組み、活躍していただく。そのために必要な公民共創の事例や方法論など、関連する知識等を習得していただくため、民間の方から受講生を募り、本課程を受講していただきました。

そうした中で、フィールド自治体としての提案をいただきました。蒲郡市も様々な課題があり、受講生に様々な課題を考えてもらえる良い機会だと考え、受け入れを決めました。

多様なバックボーンをもつ
受講生との対話が職員の学びに

――蒲郡市の地域課題に対して、受講生にはどんなテーマに取り組んでもらうことを期待しましたか。

鈴木 一つは「公共交通」です。当時は名鉄蒲郡線の存続が危ぶまれていました。蒲郡市は高齢化が進んでおり、コミュニティバスなどを含めて、市民の足となる公共交通をいかに良くしていくか。それが一つの課題でした。もう一つは「観光」です。当時はコロナ禍で、観光客数や宿泊者数が大きく落ち込んでいる中、観光全般の諸課題をテーマに挙げさせていただきました。

――受講生が発表した政策提言への印象をお聞かせください。

鈴木 例えば、モビリティ・マネジメントの強化として「地域ポイントアプリ」を使った地域通貨の活用が特に印象に残っています。公共交通の課題だけでなく、他の課題に対しても、地域の公共交通を活用しながら課題解決を図っていくという考え方は、我々とは異なる視点だったので、政策を考える上で、参考になっています。

また、フィールドリサーチとして受講生の方々が蒲郡市に来られた際は、公共交通の実際の状況をお伝えし、ディスカッションの機会もいただきました。会社経営者や大手の広告代理店の方をはじめ、多様な立場の方々がおり、地域課題に対するスキルアップを求めている、意識の高い方ばかりでしたので、対話の一つひとつが私自身も勉強になりましたし、同席した職員にとっても非常に大きな学びになったと感じています。

――民間から受講生を募って本課程を受講いただきました。受講後の活躍などお聞かせください。

鈴木 元々意識の高い方に受講いただきましたが、受講後は、さらに意識を高めて戻ってこられました。例えば、初年度に受講された方は、シティセールスに関わる様々な事業を推進していただいています。二年目に受講いただいた方は、福祉分野の地域のリーダー役として活躍されてきた方で、今では様々な市の事業を担っていただいています。

三年目の方は、高校生や大学生、20代の方を集めて蒲郡の課題に対して議論し政策を提案する「蒲郡若者議会」の活動に対応していただいています。それぞれの地域での取り組みを通じて、本課程の学びが今、生きているのではないかと思います。

健康と幸福の両方を感じられる
新たなまちづくりを

――2021年、サーキュラーシティへの移行を表明されました。現在は、どんな政策に注力されていますか。

鈴木 現在はサーキュラーシティだけでなく、「イネーブリングシティ」の実現を目指しています。これは、横浜市立大学の武部貴則特別教授の調査チームが提唱するまちづくりの新たな概念で、人々の幸福感や健康、前向きな行動を「自然に引き出す」都市や地域のあり方を目指すものです。例えば、街の様々な場所にベンチを置いたり、アートの装飾などを通じて、市民の方々が自ずと動きたくなり、健康と幸福を両方感じることができる、そんなまちづくりを目指して、未来に向けた様々な政策に取組んでいます。

一人ひとりのモビリティ(移動)が、社会的にも個人的にも望ましい方向(過度な自動車利用から公共交通等を適切に利用する等)に変化することを促す、コミュニケーションを中心とした交通政策のこと。