文部科学事務次官が語る VUCA時代に対応した教育研究の展望

変化が激しく、将来予測が困難な時代において、日本の教育研究はどのように変わっていくのか。学校教育やリカレント教育、大学改革やイノベーション創出に向けた基盤強化など、これからの教育研究の取組と展望について、文部科学事務次官の藤原章夫氏に話を聞いた。

新しい時代の学びを支える
環境整備を進める

藤原 章夫

藤原 章夫

文部科学事務次官
1964年生まれ。東京大学法学部を卒業。1987年文部省(現・文部科学省)入省。高等教育局大学振興課長、初等中等教育局初等中等教育企画課長、文化庁文化部長、総合教育政策局長、初等中等教育局長等を歴任。2023年8月、文部科学事務次官に就任。

── 文部科学省では、新しい時代の学びを支える環境整備や学校DXの推進に向けて、どのような取組を進められていますか。

社会が大きく変化している中で、新しい時代に対応した教育が求められています。文部科学省では、これからの教育の方向性として、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実、主体的・対話的で深い学びの実現を目指しています。

そうした学びを進めていくためには、ICTの活用が欠かせません。令和2~3年度に1人1台端末と高速通信ネットワークを集中的に整備し、現在、GIGAスクール構想を推進しています。学校現場では1人1台端末の活用が進み、一定の効果が実感されつつあると考えています。

一方で故障端末の増加やバッテリーの耐用年数が迫るなどしており、GIGAスクール構想の第2期を見据えて、令和5年度補正予算で1人1台端末の着実な更新に向けた予算を計上しました。計画的・効率的な端末整備のためには広域で進めていくことが重要ですから、各都道府県に基金(5年間)を造成し、都道府県を中心とした共同調達などを支援します。

また、新しい時代の学びを支える環境整備のためには、教師等の働き方改革も重要です。近年、教師不足が深刻化していますが、昨年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針2023)」において、令和6年度からの3年間を教師等の働き方改革に向けた「集中改革期間」と位置づけました。

働き方改革の加速化に向けて、これから重要な局面に入ります。教師が安心して本務に集中し、志気高く誇りを持って子供たちに向き合うことができるようにし、魅力ある教職を実現していきたいと考えています。

── リカレント教育など社会人が学び直す機会の拡充に向けて、どのような取組を進められますか。

VUCAの時代にあって、真に必要とされるスキルは資格や検定にとどまらず、「分野横断的知識・能力」「理論と実践の融合」「分析的思考」等であると考えます。しかし現状では、そうした学びのニーズに柔軟に対応できるリカレント教育プログラムの提供が十分であるとは言えません。

大学等におけるリカレント教育が、産業界や地域のニーズに応えるものになっているどうかを、しっかりと検証する必要があります。文部科学省として、産業界の人材育成に関する課題とニーズの把握や、具体的なプログラム開発に向けた大学等へのヒアリング調査等を実施し、VUCA時代のリカレント教育モデルの確立を目指します。

また、企業側の取組も重要です。リカレント教育を利用する企業側がその有用性等を適切に評価しうる評価方法を定め、その結果に基づき、従業員の継続的な受講に値するように教育機関側が改善を図るといった好循環を構築していかなくはなりません。

リカレント教育に関する企業側における取組(従業員の学習インセンティブの向上、学びやすい環境の整備、学習成果の適切な評価等)について、大学側の取組(修了者のコミュニティ形成や、学びやすい授業形態の工夫、学習成果の可視化等)との連携を図りながら、リカレント教育プラットフォームの構築を進めていきます。

文部科学省「リカレント教育による新時代の産学協働体制構築に向けた調査研究事業」

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国立大学改革を推し進め、
イノベーション創出を支援

── 国立大学改革については、どのような取組を進められていきますか。

国立大学が法人化されて約20年が経過し、改めて成果と課題を検証しながら改革を進めていくことが大切です。課題の一つとして、注目度の高い論文数(他の論文に引用された回数が各分野で上位10%に入る論文数)における日本の世界ランクは2000年代半ばから低下し、13位になっています。

こうした状況を変えるためには、運営費交付金など基盤的経費の充実を図るとともに、グローバル化への対応に力を注ぐ必要があります。教育DXが進展し、学生のグローバルな流動性が拡大している中で、日本の大学が世界で存在感を示せる教育研究活動を実現できるかが問われています。

世界トップレベルの教育研究を目指す大学を支援するとともに、地域の中核となる大学にとってもグローバル化への対応は重要ですから、大学界全体で世界展開力を強化していかなければならないと考えています。

── Society5.0の実現に資する人材の育成や、イノベーション創出に向けた基盤強化に向けて、どのような取組を進められていきますか。

産学官連携をより一層推進し、大学発スタートアップの創出等を含めて、イノベーション・エコシステムの強化を進めていきます。複雑化した社会課題を解決するためには、人文・社会科学の「知」と自然科学の「知」を融合した「総合知」が不可欠です。「総合知」の創出・活用に向けて分野融合を推し進め、科学技術・イノベーション政策の充実・強化を図ります。

Society5.0の実現に向けて、多様な主体が双方向で対話・協働する場を構築し、社会課題の解決や知の創出・融合に資する共創活動を推進していきます。

また、科学技術・イノベーションを担う多様な人材の育成・活躍を促進するために、博士人材の支援にも力を注ぎます。文部科学省として、博士後期課程学生が研究に専念するための経済的支援及び産業界等を含め幅広く活躍するためのキャリアパス整備を一体として行う実力と意欲のある大学を支援します。

「知と人材の集積拠点」である多様な大学の力を最大限活用して社会変革を推進していくために、研究活動の世界展開や社会実装の加速・レベルアップが実現できる環境を整備していきます。